CS・業績アップの秘訣はチーム力を上げる凡事徹底 ~楽しく凡事(ボンジ)を続ける方法とは~
株式会社JR長崎シティ
取材/加地 義太郎、君島 大介 文/宮本紗和
※記載されている会社概要や肩書き、数値や固有名詞などは取材当時のものです。
ECサイトとの競争に加え、働き手の不足により、ショッピングセンター(以下、SC)を取り巻く経営環境は厳しくなっている。そうした中、アミュプラザ長崎は、顧客満足度調査「ミステリーショッピングリサーチ」(以下、CS調査)を活用した研修プログラムにより、チーム力が向上しCS・業績アップに成功しているという。株式会社JR長崎シティ 営業部営業企画課長 兼販売促進課長 兼サービス推進室長 藤安 得博氏と営業部サービス推進室 横山香織氏にお話を伺った。
――当社の研修プログラムを導入いただいた決め手は何でしょうか?
藤安氏:コンペ形式で複数の会社を検討させていただきましたが、テナントのCS調査だけでなく、研修プログラムの設計~研修講師、月次報告書の設計までトータルでご支援いただける、というお話を伺いMS&Consultingさんに決めました。導入してもう6年目になりますね。
――昨年1年間取り組まれたプロジェクトの概要と成果を教えてください。
藤安氏:2018年4月に、お客様に選ばれ続けるSCとなるために、“おもてなしの基本を徹底”し、“具体的な目標を定めて1年間やりきることを目指す”ことを目的とした「凡事徹底」という共通言語をつくりました。この凡事徹底をテナントに浸透させるため、MS&Consultingさんに研修プログラムを設計していただき、店長のマネジメント力向上と、マネジメントの仕組みづくりを目的とした年3回の「店長研修」と年4回の「店長会」、おもてなしの徹底度を定期確認するために1テナントにつき年6回のCS調査や、スタッフ・リーダーなど階層別の「スキル研修」などを実施しました。
横山氏:初めの3カ月は、凡事とは何か?ということを言い続けました。1回目の店長研修で凡事徹底の具体的な目標を設定した後、その後の研修、月次報告会、店長会、面談など、さまざまな場面で、確認・共有・メンテナンスを行い、凡事の精度を上げてきました。毎月、様々な場面で「凡事徹底」という言葉を出すことによってテナントに浸透させ、やらないといけない、という空気をつくっていきました。
株式会社JR長崎シティ 営業部営業企画課長 兼販売促進課長 兼 サービス推進室長 藤安 得博氏(左)と同社 営業部サービス推進室 横山香織氏(右)
「凡事徹底」の活動により、「チーム力」がアップ
横山氏:以前は「挨拶を徹底しよう」といった漠然とした目標でしたが、凡事徹底を掲げるようになってからは、「1日5人に挨拶をしよう」といったように、より具体的な目標に落とし込むようにしました。
例えば、タピオカドリンクを販売するお店では、お客様から聞かれることや、おすすめ商品の説明などができるように、ショートロープレをしています。手が空いた時間に店長が突然質問をするというもので、1人に対して5~6回聞くと完璧に答えられるようになるため、スタッフの自信につながり、売り上げも伸びました。手が空いた時間30秒ほどででき、成果が見えやすく、続けやすいものを凡事に設定したことが成功要因だったようです。
このように、店長だけの目標からチームで行う目標へと変化していったことは大きな成果です。
凡事徹底プログラム|研修で設定した凡事を「店長会」「月次報告書」「面談」など、さまざまな場面で確認・共有・メンテナンスする(凡事の精度を上げる)。
スタッフを動かす「アイテム」を用意する
横山氏:開業時からずっと、地方のSCにおける強みは「チーム力」だと考えています。私たちは、それぞれの本部から離れた立地でテナントを預からせていただいている身として、テナントの営業部長や販促部長の役割を担う思いで、テナントとコミュニケーションをとりたいと考え、取り組んでいます。
例えば、当SCのイベントスペースで開催した集客力の高いアイスクリームお取り寄せイベント「アイスクリーム万博」を全店でおすすめするため「まずは店長があいぱくを体験する」という共通の凡事を設定しました。その際に、クーポンをテナント向けに1,800枚用意し、凡事徹底のインセンティブとしてスタッフに配布してもらえるよう店長に配布しました。すると、凡事徹底を取り組めていないようなテナントのスタッフにも「イベントに行きましたか?」と軽いノリで話しかけることができ、そこから凡事の話に持っていきやすかったです。
藤安氏:店長も「クーポンあるからみんなも凡事やろう」と言いやすかったようです。いくら研修をしても、店長で止まっていては意味がないので。この施策によって、スタッフと話すきっかけができ、最終的に600人が凡事徹底に取り組むことができました。
研修会の様子
チーム力向上が「売上向上」につながった
藤安氏:目標をきちんと立て、凡事徹底をきっかけにコミュニケーションを図れているテナントは、売り上げが伸びています。つまり、売り上げにつながるCS活動をするためには凡事徹底が重要です。
凡事徹底ができているかどうかは、アルバイトスタッフに聞けば一発でわかります。凡事をすぐに答えられれば、テナントの中で目標が定められていて、その情報が全スタッフに浸透しているということです。
凡事を知らないアルバイトスタッフがいるときは「店長に聞いてみよう」と言うと、店長がアルバイトスタッフに共有するようになり、凡事を誰でも答えられるようになっていきます。他のSCでは珍しいかもしれませんが、このようにディベロッパーがアルバイトにまで踏み込んでコミュニケーションをとることで、売り上げは上がります。
売上・CS集約データ|CS調査結果、施設・自店舗の年間の売上情報、自店舗の凡事情報を一目で把握できる。
横山氏:MS&Consultingさんからいただく「売上・CS集約データ」は、一枚で両方を見ることができ、スタッフにも凡事徹底の活動が売り上げにつながっていることがより分かりやすく伝えられるようになりました。
――「凡事徹底」が共通言語となり、マネジメントに変化はありましたか?
藤安氏:ディベロッパーの役目は、既存店の売り上げアップをサポートすることだと思っています。数字を見ておかしいな、とわかるのにマネジメントする機会が年に1回だけの面談では遅すぎますよね。その遠慮がマネジメントの遅さにつながります。そのため、「叱らないといけないときは叱る」というコミュニケーションも大事だと考えています。
アミュプラザ長崎としての一体感を出すためには、バーゲンの日を統一しないとお客様の信頼を失いかねません。ですので、セールを勝手に行なうテナントに対しては「ルールを守ってください」と厳しく言える関係性が重要です。叱れるからこそ規律が生まれ、一体感も生まれる、と考えています。凡事徹底の活動が浸透したことで、これまでテナントに言いにくかったことも言えるようになったのは大きなメリットでした。
売上・CS集約データ|掲載内容と活用方法
――テナント本部の巻き込みにも力を入れているそうですね。
藤安氏:はい。契約更改や展示会などで会う際に、テナント本部の方にも凡事活動をアピールしています。お店が設定している凡事と、テナント本部の方たちが与えている課題が異なることがよくあります。このように、現場の悩みと本部が思っていることがかけ離れている際、私たちが話をすることで、テナント本部側が合わせてくれることがあります。できるだけ一つに集中できるようにしてあげたいと考えています。
――2年目を迎え、「共通凡事」という言葉も生まれたそうですね。
横山氏:2年目を迎え、各店舗の凡事活動をアミュプラザ長崎全体に拡げる活動を始めました。具体的には、店長会で各テナントが毎月、前月の凡事について振り返りをしています。同じSCの中で商売をしていると、同じような悩みがあり、良いことも悪いことも共有することで、自分たちを客観的に見ることができ、横のつながりも生まれているようです。このような取り組みを通して、今では170店舗中約8割が凡事徹底に取り組むようになりました。このプロジェクトの位置付けがだいぶ上がってきたことも実感でき、大変嬉しく思っています。
店長会の様子