【オルビス】3期連続、再来店意向満点比率50%達成 理想の接客像実現までの道のり
オルビス株式会社
ポーラ・オルビスホールディングスのグループ企業として、通信販売と店舗販売をチャネルに中価格帯市場で化粧品等を販売するオルビス株式会社。全国114店舗(2018年10月時点)を通じて「あるべき接客像」を統一するため、2014年から全社共通のスローガン「お客さまに何度も行きたいと思っていただけるナンバー1のショップであり続けること」を掲げ、チームビルディングに取り組んでいる。実行力の高い組織の作り方について、同社 店舗営業CS担当の下川 達也様、教育担当トータルビューティークリエイターの島田 久美子様、なんばCity店長の岡本 宏子様にご講演いただいた。
再来店意向UPの秘訣は、目標に階段をつくること
下川氏:オルビス株式会社では、2014年より「お客さまに何度も行きたいと思っていただけるナンバー1のショップであり続けること」というスローガンのもと、接客の向上に取り組んでまいりました。その結果、顧客満足度調査「ミステリーショッピングリサーチ」(以下、覆面調査)の再来店意向の満点比率で小売業界平均を上回る50%を3年連続達成しています。このスローガンには、購入というアクションだけでなく、フラッと立ち寄っていただけるような、ブランドとのコミュニケーションの場となってほしい、という意味を込めています。
店舗営業CS担当、下川達也氏
スローガンができる3期前から覆面調査を導入し、基本姿勢、アプローチ、カウンセリング、お会計の4項目に沿って接客対応の状況を把握してきました。当時は「基本の徹底」を方針としていましたが、ある程度安定的な評価を得られるようになった2014年より次のステップとして「来店頻度向上」に取り組み始めました。他社では珍しいかもしれませんが、当社ではスタッフに営業ノルマを設けていません。この取り組みを浸透させるには、この取り組みの成果を評価するべきであると考えているからです。このように、段階に合わせてステップをつくることで、意識レベルから行動レベルにまで落とし込めたのだと実感しています。
店舗営業CS担当、下川達也氏
図表1|再来店意向(また来たいと思いましたか)
店長と全店舗スタッフの意識を変える具体的な方法とは
島田氏:当社では接客スキル向上のために、トレーナーと呼ばれる私を含めた8名の店長経験者が、様々な研修を企画・運営しています。
2014~17年に実施した「第1~3回接客研修」では、店長165名を対象にお客さま一人ひとりに対応できる「個対応力」を養うための考え方やアプローチ方法についてワーク形式で学んでもらいました。当社の接客スタイルは、セルフ&カウンセリングですので、百貨店の化粧品ブランドのように、座って対面でカウンセリングを行うようなカウンターはございません。来店目的や買い物スタイルも様々ですので、お客さまが自由に商品を試し、何かあれば気軽にスタッフに相談をしていただけるような店舗づくりを目指しています。そこで、ワークではまず「お客さまの来店目的」を付箋に書き出し、内容に合わせてセルフとカウンセリングに分類していきました。その結果、お客さまの気持ちはその時々で変化するため、分類はできないという事が分かりました。当時は、“クレンジングの詰め替えを持っていらっしゃればリピーターのため、お声がけは必要ない”といったように、スタッフがお客さまを分類してアプローチをしていました。しかしこの研修を通じて、大切なのはお客さまの気持ちを汲み取りアプローチをすることだと結論づけました。このワークの狙いは、店長同士のディスカッションや発表を取り入れ、本部からの一方的な発信ではなく、店長と本部が一緒に接客方針をつくりあげていくことです。一緒につくった方針だからこそ、店長が納得して取り組むようになり、本部と店長の意識が統一されていきます。この結果として、覆面調査のアプローチ項目の平均得点率が108%上昇したことも、現場や本部にとって励みになりました。
教育担当トータルビューティクリエイター島田久美子氏
また、2015~17年に実施した「第4・5回接客研修」では、対象者を全スタッフに拡大しました。毎月、東日本と西日本で合計5日間行い、新商品情報・基本肌構造・メイク技術や、納得して商品をご購入いただけるような「提案の流れ」など、カウンセリング力を強化するコンテンツを展開しました。この研修により、「カウンセリングの目的が“商品を売るため”から“お客さまを知るため”に変化し、自然とコミュニケーションが図れるようになった」「接客が楽しくなった」という声を多くのスタッフから聞くようになりました。スタッフ個々の提案力が向上したことにより、覆面調査カウンセリング項目の得点率が112%アップと、目に見える成果がでてきたことも大変嬉しいです。
下川氏:さらに、研修を実施して終わりではなく、現場でどのように活かしているのか、お客さまに伝わっているのか、ということを覆面調査によって確認していきました。最初は、チェック項目ができているかどうか(基本の徹底)ばかりに注目しがちだった店長も、段階を踏んで取り組んでいったことで、レポートのコメント(お客さまからの声)へと関心が移るようになりました。
この仕組みをつくるために、年2回各店長と振り返り面談を実施しました。その際、事前準備として店長には覆面調査と同じ項目で自店舗に点数とその点数を付けた理由を記入してきてもらいます。点数は、店舗スタッフとの個人面談や日々のコミュニケーション、また日頃の接客状況を見た上で、店長の主観で付けることになります。そこで、MS&Consultingさんから届く覆面調査結果と比較し、その点数やコメントを店長は想定できていたのかどうかということを確認します。お客さまの声をレポートしている覆面調査を活用することで、店長の主観を補うことができ、店舗における接客力の理想と現実のギャップを把握することができました。この活動を継続することで、客観的に物事を見る精度が高まり、お客さま視点を養っていくことができます。また、自店舗が今どのレベルにいるのかを店長自身が把握できるようになってきたことも、本部としては大変心強いと感じています。
図表2_提案の流れ
店舗内での取り組みについて
岡本氏:なんばcity店は、2017年度覆面調査「再来店意向(また来たいと思いましたか?)」の項目で、小売業界の満点比率平均が37.5%のところ、年2回の全調査で満点をいただきました。しかし、私が赴任してきた2015年当時は、スタッフ個々の力はあったのですが、「なぜこの仕事をするのか」という目的を考えずに動いているもったいないチームでした。そのため、「スタッフに目的を意識させる」ことに時間をかけて取り組みました。
まず、全体ミーティングを行いました。ミーティング時にも、覆面調査のレポートを確認し、お店全体で目指していることがお客さまにきちんと伝わっているかどうかを把握するツールとして活用しています。
なんばCity店店長岡本宏子氏
そして、「また来てもらう(=お店の理想像の)ためには、お客さまに合わせたお声がけが必要だよね(=すべきこと)」と伝え、「お客さまの悩みを解決するためには、お客さまを知り、気持ちに寄り添うことが必要(=なぜ行うのか)だけど、そのためにはどんなお声がけをしたら良いと思う?」ということを話し合いました。同じ情報を伝えても理解の差で伝わり方が変わります。そのため、どのように理解しているかを確認し、行動に移せるように全スタッフと意識をすり合わせることに注力しました。例えば、あるスタッフが「店長にお声掛けをしようと言われましたが、私苦手なんです…」と相談すると、スタッフみんなでその解決策を考えます。「そんなに難しく考えずに、まずはお客さまがレジに来られた時に話しかけてみようよ」などと、スタッフ同士でアドバイスをし合います。店長からのトップダウンではなく、スタッフみんなで考えていくことで、各々が自分事として考えるようになります。こうして、スタッフが今何に行き詰まっているのかを把握することができ、接客に対する意識や考え方がチームとして統一されていったことが一番の成果だったと思います。
図表3|大阪なんばCity店のMSR調査結果2017年
また、より良いチームにしていくために、「タスクの見える化」にも取り組みました。お店全体の取り組みがスタッフ全員から見えるように、シールボードを作成しました。接客に必要な項目を4点程度挙げ、できたら各自シールを貼ります。お店全体としてどの項目ができていて、どの項目ができていないのかを見える化することで、取り組むべき課題が見えてきます。そのほか、「今日すべきこと」と「今月すべきこと」もバックヤードに貼りだしています。接客以外に今日すべき業務内容を全員に共有することで、みんなが気持ちよく働けるようになります。さらに、「目標の掲示」も行っています。目標を忘れないようにするためでもありますが、大きな目標の実現に向けた小さな目標を立て、それを一つ一つ達成していくことが、取り組みを継続するモチベーションとなっています。
図表4|赴任当時の現状と意識改革に向けた目的設定
最後に
島田氏:お客さまに「また行きたい」と感じていただけて初めてゴール達成です。そのため、どんな取り組みもお客さま視点で振り返ることを重要視しています。ショップ内で目的や価値観を共有し、気付き力を高めることで、より精度の高い視点での接客力向上を目指しています。
下川氏:研修、面談やミーティングなどの時間を確保し、スタッフと店長、現場と本部がすり合わせをしていくことが実行力の高い組織づくりの成功の秘訣だと思います。
※文:宮本紗和
※この記事は、第11回クオリティサービス・フォーラムの講演内容をレポートするものです。
※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。