【サッポロドラッグストアー】 中期経営計画で掲げた改善の仕組みづくりに全社で取り組む
株式会社サッポロドラッグストアー
http://www.sapporo-drug.co.jp/
『季刊MS&コンサルティング 2013年春号』掲載
担当:小林 栄貴・編集:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
札幌を拠点に、現在約120店舗のドラッグストアと11店舗の調剤薬局を運営するサッポロドラッグストアー。2010年より取り組んでいる4カ年の中期経営計画が、今期で最終年度を迎える。常務取締役営業本部長の富山浩樹氏は、「本部と店舗の連携が強まり、精神論によらない仕組みづくりができつつあると思う」と、その手応えを語る。
“お客さまのために”ではなく、“お客さまの立場で”の接客
経営理念「健康で明るい社会の実現に貢献する」を根幹とし、さまざまな客層が利用するドラッグストアの「あるべき姿」を追求し続けているサッポロドラッグストアーは、昨年創業40周年を迎え、業績も右肩上がりと好調だ。
特に近年、経済環境が厳しい中でも着実に成果を上げているのは、4カ年の中期経営計画を立て、2010年春より 着手している改善・改革によるところが大きい。前述の理念に基づき、「お客さまから学ぶ経営」「一人一人の可能性を引き出す経営」「常に新しいことに挑戦 していくチャレンジマインドの経営」の実践を掲げている同社では、「大きなテーマは変わらないが、そのときどきの問題点に応じて小テーマは変わる。それを 適切に抽出・設定し、どう改善していくかの仕組みづくりを具体的に進めていく」(常務取締役営業本部長 富山浩樹氏)と、市況や顧客の要望、あるいは現場の状況を加味した課題解決に取り組んでいる。
常務取締役営業本部長 富山 浩樹氏
2012年の全体を通したテーマとして挙げていた営業スローガン「作業を変える・お客さまに向き合う。掛け声ではなく仕組みとやり方を変えよう。」も、中期経営計画で目指すテーマだ。
「これからさらに店舗を増やしていく中で、魅力ある売り場づくりや、接客の質の維持・向上は、特に意識しなけれ ばいけない点として挙げていました。ただ掲げるだけではなく、それらを推進できる仕組みと体制をつくり上げようというのが、今期の営業スローガンに込めた 想いです。とりわけ『お客さまに向き合う』という姿勢については、鈴木敏文さんの言葉『“お客さまのために”ではなく“お客さまの立場で”』を実践しよう と現場にも伝えてきました。お客さまの“ために”何かをするのは提供する側のエゴ。そうではなく、お客さまの立場になって、本当に望まれているものを提供 することを意図しています」(富山氏)。
さまざまな客層が、それぞれの悩みを持って訪れるドラッグストア。どのような接客が顧客そしてスタッフにとって最適なのかを探り、改善を進める。接客の質の維持・向上を意識するだけではなく、それらを推進できる仕組み・体制づくりに力を入れている。
地道な取り組みで実現した本部と現場とのベクトル合わせ
それを実践した施策のひとつが、独自のメーカー推奨品の設定だ。小売店では期間限定的に、目標を設けて特定メー カーの商品を推奨販売する企画が行なわれることが多いが、同社ではこれまで行なってきたそのような仕組みを改めた。「今月はこのメーカーの期間だとなる と、お客さまの好みに関わらずそのメーカーの商品を薦めることになる。それはお客さまの立場を考えているとはいえない」(富山氏)との考えから、年間を通 して顧客のニーズに基づいた独自の「年間推奨品」を設定。さまざまな客層の悩み毎に、メーカー推奨品を同社が選び、その数字を追うという仕組みだ。
「店側のエゴではなく、お客さまの立場になれというメッセージを強く本部側から打ち出したことで、現場にも『それをまず肝に銘じれば正しいのだ』という意識が根付き、スムーズにベクトルを合わせることができていると思います」と、富山氏は話す。
本部と現場(店舗)との足並みをそろえる難しさは、多くの業態で課題に挙がる。前述のように、本部の姿勢をはっ きり示して施策に落とし込むことも、ベクトルを合わせるのに大きく影響するが、富山氏はほかに「推進リーダーの活躍とHERBプログラム(※顧客志向の組 織風土をつくるプログラム)も、大変功を奏している」と語る。
この春から3年目に突入するHERBプログラム。店長、SVなど立場別に課題を整理し、現場のマネジメントに活かすことで、雰囲気のいい店舗づくりに反映されている。
成果発表会も2回を重ねたことで、その意義が社員に定着し、それぞれが手応えを感じられる場になっているようだ。「自分の店の取り組みを真摯に振り返り、また、他店から学ぼうとする姿勢も感じられ、地に足がついてきたという印象を受けました」(富山氏)。
「HERBプログラムは、3年間で内製化することを目標に、中長期のビジョンと連動する形で取り組んでいます。最初こそ戸惑う人もいましたが、今ではここで得たことがしっかり現場に活かせるということを実感したからか、前向きに取り組む人が増えています」(富山氏)。
成果発表会も2回を重ねたことで、その意義が社員に定着し、それぞれが手応えを感じられる場になっているようだ。「自分の店の取り組みを真摯に振り返り、また、他店から学ぼうとする姿勢も感じられ、地に足がついてきたという印象を受けました」(富山氏)。
スーパーバイザーの生の声を受けて、目標を具体的に設定
MSRおよびHERBプログラムをスタートさせてから、丸2年が経過した現在では、スーパーバイザー(以下 SV)の適切なアドバイスやフォローの下、店舗でのMSRの結果や気付きのシェア、ゴール設定とミーティング、そして改善活動という一連の改善サイクルが 非常にうまく回っているという。MSRは昨年12月に、平均点としては過去最高である163点を獲得した。これらの取り組みと成果は経営陣とも共有。会社 一丸となって取り組んでいることも、改善活動の推進に拍車をかけている。
同社教育人事部教育担当マネジャーの稲垣英樹氏は、「SVが自主的に動けるようになってきたことも、店舗での改善活動がスムーズに運んでいる要因」だと話す。
教育人事部教育担当マネジャー 稲垣 英樹氏
「どうしても現場目線というと店長が中心になり、SVと一緒になった活動ができていなかったというのが近年の自 分の反省点でした。そこで、SV向けの研修を行なった際にヒアリングをしたところ、SVは立場上、現場の自主性を活かしたいという思いから、一体どこまで 自分が関わるべきかという線引きに悩んでいることが多いと分かりました。SVの仕事に数値目標を関連付けるのは難しいですが、数字で分かるところは設定 し、それ以外もなるべく可視化できるように話し合ってSVと共有したところ、少しずつですが改善点や判断軸が明確になってきたと思っています」。
また、現場の改善活動がとりわけ進んでいる店舗では、店長やSVが「常にスタッフに声をかけている」と富山氏は 話す。「SVなら店長やスタッフに、店長もその日出勤しているスタッフに常に声をかけていて、明るく雰囲気がいい。基本的に、人に関心があるタイプの人が 多いと思います。コミュニケーションを重視することは、これからのマネジメントスタイルの基本ですね」(富山氏)。
店舗スタッフ向けのヘアカラー研修の様子。ドラッグストアで扱う商品はお客様の身体に直接影響を与えるものが多いため、正しい知識を身に付け説明できるよう、様々な研修を企画・実施している。
目下の課題はレジ対応。細かい言葉遣いまで検討
新しい年度を迎えるにあたり、目下の課題として挙げているのが、レジ対応の改善である。「たとえば、常連のお客 さまには親しみを込めた対応が喜ばれても、それをレジで並んでいる方は快く思わないはずですから、状況判断が必要です。また、レジ袋を小分けにするかどう かというような些細な点も、分けてほしい人は『ご一緒でもよろしいですか』と聞かれると『いや、分けてほしい』とは言いにくい。『お分けしてもよろしいで すか?』と聞かれて『そうしてほしい』と答えるほうがスムーズです。HERBプログラムの研修の中では、こうした細かい点まで話し合い、テーマを具体的な 改善点に落とし込んでいます」(稲垣氏)。
レジ対応の改善は、何もCSのためだけに挙げているわけではない。例えば接客をしながら深く腰をかがめなければ いけないなど、レジ内のオペレーションが動きづらいものだと、スタッフの負担になり、当然ながら接客の質も落ちてしまう。スタッフの動きも含めて、改善を 進める予定だ。
お客様との直接の接点となる場面は非常に重要だ。数年スパンでの成果を目指し、内部体制から細かな言葉遣いに至るまで、会社としてどうあるべきかの議論を進めている。
その他、レベル別のHERBプログラムや指導的な役割の新設、MSRの調査項目の見直しや、PLからMSRの点数まで店舗の現状を1枚のシートにまとめて いく「店舗カルテ」の計画など、さらなる展開に向けた策を現在着々と準備しているという。ピンポイントではなく経年での成果を狙い、施策に落とし込むこと が、改善効果を最大限に引き上げるポイントのひとつだと言えそうだ。
ドラッグストアでは、お客様が気軽に相談できる雰囲気があることが、お客様にとって重要だ。陳列をしている最中にも、お客様に気を配るよう意識している。