変わりゆく「博多のまち」のシンボル 日本最大級のSC「JR博多シティ」の進化 ~厳しい市場競争に勝てるプロフェッショナル集団を目指して~
株式会社JR博多シティ
『季刊MS&コンサルティング 2015年秋号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
JR博多シティは、2011年3月に九州新幹線の全線開通と同時期に博多駅にオープンした巨大ショッピングセンター(以下、SC)。同SCではテナント向け研修を体系立てて設計することで約400店舗のCS・ESを継続的にレベルアップできるようサポートしている。さらに、施設本部スタッフ向けの研修や社内制度変更をおこない、プロフェッショナル人材育成にも力を入れている。2014年度「第6回日本SC大賞銀賞」「第17回テナントが選んだディベロッパー大賞敢闘賞」を受賞するも、現状に満足することなくさらなる進化を目指し「ショップスタッフ、お客さま、地域社会、テナント各社から選ばれるSCになる」というスローガンのもと組織一丸となり取り組んでいる。同社の丸山社長、CS推進部の上杉氏、企画部の長濱氏にお話を伺った。
※従業員満足度調査「HERB診断」は「tenpoket(テンポケット)」に名称変更しました。
代表取締役社長 丸山 康晴氏
インタビュー
JR九州グループが手掛けるプロジェクトの中でも、JR博多シティというのは一つの象徴的な意味を持つものではないかと思いますが、グループ全体における位置づけについて教えて下さい。
皆さんご存知の通り1987年に国鉄が分割民営化され、そのうちの一社としてJR九州はスタートしました。「本州のJRは民営化しても大丈夫だろうが、北海道・四国・九州の3社は経営が厳しいだろう」と、経営安定基金をもらって「鉄道の再生」を目標に掲げるという状態で、決して華々しいスタートではありませんでした。鉄道車両はすべて本州からのおさがりでしたし、駅ビルも1963年にできた古い建物でしたから、時代遅れでぼろぼろでした。
それが2011年3月に九州新幹線が博多まで全線開通、それとほぼ同時に床面積20万平方メートルと国内の駅ビルでも最大規模のJR博多シティが誕生し、博多駅は一変しました。新幹線の開業と駅ビルの開業が同時に行われるのはこれまで例がないことで、社内でも、また地域にとっても、強烈なインパクトのある出来事でした。
以来、おかげさまでJR博多シティは高い評価をいただくことができており、入館者数やテナント売上といった部分も当初の予想以上の数字となっています。JR博多シティは、九州新幹線、クルーズトレイン「ななつ星in九州」と並ぶ、JR九州の3つの柱のうちの一つであると考えています。
株式会社JR博多シティ 代表取締役社長 丸山 康晴 氏
今後の方向性についてお聞かせ下さい。
JR博多シティはおかげさまで開業以来順調に売上を伸ばすことができていますが、博多というまちが持つキャパシティを考えると、成長する余地はまだまだあると考えています。さらに来年の春には「KITTE博多(博多マルイ)」、オフィスビル「JRJP博多ビル」ができますし、2020年には地下鉄七隈線が博多駅まで開通する予定ですので、それに伴って博多駅を利用されるお客さまはますます増えていくでしょう。
こうした「まちの成長」に、いかに「人の成長」を追い付かせるかが最大の課題です。そのためには、会社の中だけで何でもやろうとするのではなく、MS&Consultingさんのような社外の専門家と信頼関係を築き、うまく連携することが鍵だと思います。
さらにESの面では、保育園を作るというアイデアも考えています。常時雇用のスタッフだけで1万人となると、小さいお子さんがいらっしゃるスタッフさんも相当な数になりますから。少しでも多くの方に、働きやすい、働きがいを感じていただける職場となれるように、そういう面からもバックアップしたいと思います。
JR博多シティは、一企業の収益事業にとどまるものではなく、地域全体に対して重要な社会的責任を負う事業であると認識しています。ここを拠点として九州を元気にする、そういう役割を果たしていきたい、いかなければならないと考えています。
博多のまち周辺の環境変化
CS推進部サービス課 担当課長 上杉 大輔 氏
インタビュー
今年度の合同研修の設計では、店長だけではなく「感動サービスリーダー」も巻き込んだ形での取り組みができるように意図されていますね。
当社では、テナントの各店舗に1名ずつCS向上の取り組みにおいて店長をサポートする「感動サービスリーダー」という役割を設けております。昨年は店長と感動サービスリーダー向けの研修はそれぞれバラバラに行われていたのですが、店長研修から感動サービスリーダー研修へ、そしてその研修の効果を測る場としての「感動サービスコンテスト(接客ロールプレイング大会)」へという、一連のサイクルを回す形でスケジュールを組み立てました(図表1)。すべてが連動しているので、昨年よりも店長と感動サービスリーダーとの連携がうまく図られるようになり、店長のやりたいことが店舗に伝わりやすくなったように感じています。
CS推進部サービス課担当課長 上杉大輔氏
研修体系を見える化するために「カレッジブック」などのツールも制作しましたが、評判はいかがですか?
参加できる研修プログラムがたくさんありますし、複数回に分けて行われるものも多いですから、これまで店舗の皆さまから「年間の研修スケジュールがわからない」「研修資料がどこかにいってしまう」「誰がどの研修に出れば良いのかわからない」などの声をいただいており、研修に関する情報の一元化やスケジュールの見える化が急務となっていました。また、そうした研修を通じて何を目指すのか、研修の目的やJR博多シティのビジョンを明文化してわかりやすくお伝えする必要性も感じていました。
そこで「カレッジブック」を作ったのですが、「わかりやすい」「店舗の中で情報の共有がしやすくなった」と、研修に参加される店舗の皆さまから大変喜んでいただいています。対外的にもとても評判が良くて、他のディベロッパーさんなどにお見せしても、「これはすごいですね」というご意見をよくいただきます。
図表1:2015年度博多シティカレッジスケジュール
研修プログラムとしては、MSRを起点とした顧客満足度向上プログラムをご活用いただいています。
当社の場合、直接のお客さまはテナント店舗の皆さまということになりますが、MSRはJR博多シティにいらっしゃる一般のお客さまの声をテナント店舗の皆さまにお届けするために活用しています。
なお、その際には点数は発表せず、コメントだけを利用させていただいています。というのも、点数というのは良くも悪くもインパクトがあるものなので、点数を出すことによってコメントを見ていただけなくなってしまう恐れがあるからです。MSRのレポートは「事実ではあるけれども、すべてではない」と捉えていますので、敢えて点数をつけて他の店舗と比較したり順位を出したりすることは、当社のような活用方法においては必要がないと思っています。コメントから自店舗の状況を把握して改善活動に役立てたり、良かった事例をテナント店舗の皆さまで共有したりというところにフォーカスして活用しています。
こういう活用ができるというのも、コメント内容が充実しているMS&Consultingさんのレポートならではのことだと感じています。
来館されたお客さまに安心のサービスを提供するため、施設内で働くスタッフに対して年間数百回の研修を行い、スタッフのマインドとスキルアップのサポートを行う。
ESという点では、テナントスタッフの皆さまの働きやすさ・働きがいについても積極的に取り組んでおられますね。
そうですね。CS推進部は教育研修だけを行っている部署ではありません。CSはもちろん大切ですが、一方でESの部分も同様に非常に大切であると考えておりますので、「JR博多シティで働く」ということに対してロイヤルティを感じていただける、誇りを持ってもらえることを目指して、部署や会社の垣根を越えて取り組んでいます。
具体的には、ハードの面ではスタッフの休憩室・設備面の整備などに力を入れておりますし、ソフトの面では年に2回、懇親会の開催や従業員割引制度の導入などをしています。施設のビジョンとして「ショップスタッフ、お客さま、地域社会、テナント各社から選ばれるSCになる」というスローガンを掲げているように、一般のお客さまからだけではなく、働くスタッフの皆さまからも選ばれるSCになりたいと思っています。
ES面の充実に力を入れる同社は、”JR博多シティで働くことのロイヤルティを感じていただく”ための取り組みの一環として、年に2回の全店スタッフ対象の懇親会を開催している。
企画部企画課 担当課長 長濱 悠子 氏
インタビュー
株式会社JR博多シティのスタッフの皆さまの働きがい向上を目指したきっかけについて、お話を伺わせて下さい。
これまでJR博多シティの開業準備と、開業してからの売上・話題性の向上と運営の仕組みづくりをひたすらやってきましたので、会社として中長期的な視点から組織と社員の育成について落ち着いて考えられるようになったのは、2014年頃からです。
もともとはJR九州本社からの出向者がJR博多シティの主力でしたが、そのメンバーが戻っていき、人の入れ替わりが多く発生する中で、経験の浅いプロパーのスタッフの業務範囲や責任が急激に大きくなっていきました。そんな中で、JR博多シティに求められる期待の大きさと経験値やスキルとのギャップが、スタッフにとっては相当なプレッシャーになっていると感じていました。また異なる目標や価値観を持つスタッフが急に一緒になったことから、同じビジョンを共有していく難しさも感じていました。1万人が働くJR博多シティにおいて、その要となり、まちの姿を創る我々社員が活き活きと成長し続けられなければ、まちの未来も描けないという危機感が取り組みのきっかけです。
企画部企画課担当課長 長濱悠子氏
組織体制がダイナミックに動くのと並行して、評価制度や教育体系を整備されてきましたが、成功要因は何でしょうか。
取り組みのスタートの段階でtenpoket(※)を導入して、第三者の客観的な視点から組織を分析していただいたことが大きなポイントだったと感じています。開業以来経営状況は順調に推移していますから、組織に対する問題意識はなかなか見えづらかったのですが、先述の通り、実際には組織体制の変化に対応するための課題もあり、全社で認識を共有しきれていませんでした。そして、このコミュニケーションギャップを解消するために客観的・定量的な共通認識を作りたいと考え、tenpoketを導入しました。
おかげで、階層間のギャップだけではなく、部門ごとの状況も把握することができ、さまざまな課題が明確になりました。これを起点として経営陣と認識を共有し、様々な対策を検討することができました。
(※)tenpoketとは、アンケート方式の社員満足度調査で、管理者のリーダーシップやスタッフの定着率に影響を及ぼす要素を詳しく数値化し、組織の状態を定量的に把握することが可能。
博多駅は県内のみならず全国やアジア各国から来られるお客さまも多い。JR博多シティは「博多のまち」のシンボルとして全国や世界中の人々へ、博多の、九州の魅力を伝えていく。
御社の課題と対策について、差し支えない範囲で教えて下さい。
tenpoketや社員インタビューから、「スタッフに求められる“あるべき姿”をより明確にすること」「あるべき姿に向かうためのロードマップとサポート体制」また「一緒にサポートしながら歩くマネージャーとのさらなる信頼関係構築」が組織成長のカギであるととらえました。まずあるべき姿の部分について、「自分は具体的にどのような意識・能力・行動を求められているのか」の判断軸として、評価制度を再整備しました。また、能力向上の面においては社内教育研修をブラッシュアップしていくことに注力しました。そしてマネージャーとのさらなる信頼関係構築のため、キャリア面談の制度をスタートしました。
レストランゾーン「シティダイニング くうてん」の緑にあふれた開放的な空間は、まさに九州の自然そのもの。食を中心に集い、語り合う場として、安らぎ、くつろげる場所となっている。
スキル不足という面では、評価制度を作ってマイルストーンを示すだけではなく、目指すべき目標に近づくための教育研修の制度もスタートされました。
ビジネスマンの基本スキルと、業界特有の専門性を発揮するためのスキル、この2つをスタッフ全員がしっかりと身につけることができれば、当社はもっと強くなれるのではないかということで、ビジネススキルについてはMS&Consultingさんの研修、業界スキルについては社内講師による月に2回の社内研修制度をスタートしました。
当初は入社1、2年目の営業担当スタッフを対象としていたのですが、「もう一度社員間でスキルを確認し直そう」と、結局マネージャーや経営陣まで参加しています。
ベテランのスタッフでも案外知らないことがあったり、新しい気づきがあることも多かったようで、「参加して良かった」という意見を多く得ています。今後はこういう講義形式でなく、先輩社員が新入社員に身についたスキルを自然と教えられるようになって、この研修を行う必要がなくなることがこの取り組みのゴールであると思っています。
同社では年間を通じて様々なイベントを行い、お客さまに喜んでいただける仕掛けづくりを行っている(写真は博多の冬物語「光の街・博多」と「クリスマスマーケット」)。
キャリア面談についてはいかがですか。
現段階の人事考課とは別に、もう少し中長期的な視点から、会社が求めている人材像をスタッフに伝えたり、逆にスタッフが将来やりたいと思っていることを聞く機会としています。日々の業務目標だけでなく、自分のキャリアを自分自身で見つめ直して構築していくことの大切さが感じられる場になればと思います。マネージャー陣も、この面談が組織のマネジメント上重要な位置づけのものであることを認識してくれていて、面談を通じてコミュニケーションがスムーズになったと感じています。
もちろん組織づくりや社風づくりは一朝一夕にとはいきません。しかし、今なお人口増を続け発達途上にあるこの福岡・博多の「顔」として、常に成長と進化を続けるまちJR博多シティと共に、我々スタッフも成長と進化を続けていくため、常に高みを目指す意識を忘れずにいなければなりません。
MS&Consultingさんは本当に当社の現状をしっかりと見てくださり、その状況に応じて柔軟に施策のカスタマイズや軌道修正をしていただけるところがありがたいと感じています。組織や社風づくりはまだ始まったばかりですが、臨機応変に当社に寄り添い課題解決に協力いただくパートナーとしてお力添えいただけると幸いです。