テナントとの「イコールパートナー主義」を土台に、 コミュニケーションの「質」を強化
株式会社パルコ
『季刊MS&コンサルティング 2015年春号』掲載
取材:大塚信也/編集:鬼熊春子、宮本紗和
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
株式会社パルコの経営理念は「訪れる人々を楽しませ、テナントを成功に導く、先見的、独創的、かつホスピタリティあふれる商業空間の創造」。不動産業ではなく小売業として登記し、1969年の「池袋PARCO」オープン以来、テナントとパルコは“互いの価値観を共有しながら、ともに成長・発展していくパートナー”である、という「イコールパートナー」の考えを軸に、テナントと同じ方向を向いて歩んできた。テナントとのコミュニケーションをさらに強化するために2013年よりミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入し、中長期を視野に入れた改善活動に取り組んでいる。CS/顧客政策部 部長(現・メディアコミュニケーション部 部長)の久保田晋一氏にその内容を伺った。
御社にとって、CS向上の取り組みは小売店や飲食店などの、一般消費者を顧客とするビジネスとはまた異なる難しさがあるのではないでしょうか?
私たちは商業デベロッパーですから、パルコのショップに来られる消費者の皆様とショップスタッフの皆様という、二つのカスタマーがいらっしゃいます。また、前者の顧客とは直接の接点が少ないと言えます。
こうした状況にある私たちにとってのCSとは、まず「ショップスタッフの皆様に、パルコで働くことが楽しいと感じていただけるようになること」です。そして、「あのスタッフさんにまた会いたいから、パルコに行こう」と思っていただけるようになることが、消費者の皆様に対するCSであると考えています。
つまり、私たちの二つのカスタマーに対するCSを高めていくためのアプローチの起点となるのが接客力アップであると考え、取り組んでいます。従いまして、ショップスタッフの皆さんへの研修などの内容はモチベーションアップを重視しており、「パルコで働くのが楽しい」と思ってもらうことを一つの目的としています。
CS/顧客政策部(取材当時)の久保田晋一氏(右)と、中島孝二氏(左)。
ロールプレイング(以下、RP)プログラムも御社独自の工夫を凝らしていらっしゃいますが、いつ頃から始まったのですか?
RPプログラムは2011年からスタートしました。RPコンテストを単体で行うのではなく、コンテストを軸として各種の接客力向上のためのプログラムを体系化している点が一番の特徴だと思います。
まず、RPコンテスト自体は他社でも多く行われていると思うのですが、弊社のコンテストで特徴的なことは、チーム戦で行うということです。一回戦・二回戦・決勝戦と、ずっと同じ人が出場するのではなく、剣道の団体戦のように3人それぞれ違う人に出場してもらいます。これは一人のスター販売員ではなくて、ショップ全体を魅力的で活気あるお店にしていこうという考えに基づいています。
また先ほど申し上げたように、RPコンテストは「イベント」ではなく、あくまでも接客力向上のためのプログラムの一環と位置づけています。コンテストの数ヶ月前からキャリア別の接客研修を行っており、この研修の受講をコンテスト参加のための必須条件としています。さらにコンテストが終わった後には、館の全ショップスタッフを対象にフォロー研修を実施し、楽しかったというだけでなく日常の接客業務のスキルアップにつながるように考えています。
第一号店の池袋PARCO。創業以来、ファッションを中心にしながら、音楽、アート、演劇など、様々なカルチャーを積極的に紹介し、街に新しい価値を生み出してきた。
RPプログラムを開始されて今年で4年目ということになりますが、成果はいかがですか?
プログラムを開始した当初は、ヒアリングが苦手な方が多いという印象でした。来店動機やライフスタイルなどの情報を十分に把握していない状態で提案を進めてしまい、結果として顧客ニーズとは違うものをお勧めしてしまったというパターンが散見されました。
ですから、本プログラムでは「ヒアリング力」を身に付けることを最も重視しています。しっかりとヒアリングをした上で提案し、それもどんどん提案していくのではなく、一つ提案をしたら、その都度必ずお客さまの反応を確認する。そして、お客さまのニーズに合致するものを見つけるまでそのサイクルを繰り返すことが「良い接客」であると位置付けており、RPコンテストにおいてもその一連のサイクルがしっかり行えているかどうかを審査の重要ポイントとしています。
チーム全体の接客力向上を目的とした、チーム制での出場が特徴の「チームで輝く接客ロールプレイングコンテスト」受賞者。現在は「ヒアリング力」の向上に注力している。
MSRの活用については、いかかでしょうか。
パルコの場合、大体1フロアに対して弊社から1名の営業担当者が付くという体制でショップのフォローを行っているのですが、この営業担当者とショップのマネージャーの方々とのコミュニケーションの「質」が課題であると認識しています。MSRは、このコミュニケーションの「質」を上げていく上で重要なツールだと考えています。
接客力向上を目指し、お客さまのニーズを汲み取るためのスタッフ育成研修。RPコンテストをはじめとした体系的な研修プログラムを用意し、MSRで確認する。
コミュニケーションの「質」とは。
弊社の場合、ショップスタッフの皆様と営業担当者とのコミュニケーションの「量」に関しては良好ではないかと自負しています。ただ、そのコミュニケーションの内容が、マーチャンダイジングやキャンペーンといった、売上や客数に直結する話に偏ってしまっていて、接客など数字との直接の結びつきが見えづらい部分の話ができていない営業担当者も少なくありません。そこが弊社の営業の課題だと感じていましたが、そういった話というのは売上や客数と違って根拠になるデータがこれまでありませんでしたので、どうしても個人の感覚頼みになってしまいます。そのため話題にしづらいですし、説得力がないという状態でした。MSRは、そうした売上や客数と中長期的に関連してくる内容についてのコミュニケーションを増やしていくためのツールとして、非常に役立っていると感じています。
コミュニケーションのためのツールを準備するだけでなく、コミュニケーションの場の設定にも、積極的に取り組んでいらっしゃいますね。
まず、MSRのレポートをもとにしたフィードバック研修の中で、今後どういった活動をしていくのかを具体的な活動計画に落とし込んだ「アクションプランシート」を作成します。それと、今年からはMS&C様に相談させていただいて、各ショップの店長を対象にした「自己診断アンケート」というものを作成・実施しました。これは簡単に言えば、ショップ店長の皆さんの視点で「自分のお店が今どういう状態にあるか」を振り返るものです。
そして、こうしたデータを基に個別面談を実施しています。これは、ショップの店長と弊社の営業担当者の二者面談で、必要に応じてパルコの事務所の上長なども入ります。また、「自己診断アンケート」の内容を鑑み、テナント本部の方を加えた三者面談も行っております。以前はテナント本部の方も含めた四者面談を基本としていたのですが、それだとどうしても全てのお店の面談が終わるまでにかなりの時間を要してしまうので、現在は二者面談以上、必要に応じ三者面談ということにして、面談実施率100%を目指して取り組んでいます。実際にはショップ営業の都合などにより、どうしても面談が実現できないこともありますが、それでも90%以上はカバーしたいと考えています。15年度はより面談が有効に機能するよう、二者面談、三者面談、四者面談はどのようなケースで行うかガイドラインを策定していく方針です。
また、これらのデータをショップごとに個別活用するだけでなく、2年間の調査データの蓄積の中から見えてきた傾向もあります。例えば2年連続で優良得点群に入っているショップの多くに共通する項目が分かってきました。具体的に申しますと、朝礼をやっている、ノートを回覧している、接客トレーニングを習慣的にやっているなどといったことです。こういったことも含め、現在ではショップの皆様とお話しするための材料が整えられたという状況にはなってきています。
一般的には、デベロッパーがそれぞれのショップの状況を把握した上で関わっていくというのは難しいことだと思いますが、接客実態調査として実施しているMSRなどのツールを活用することで、そこを一歩踏み込んで、ショップのスタッフさんと一緒になって、より良いお店づくりに取り組むという体制を目指したいです。
MSRのレポートをもとにしたフィードバック研修の中で、店長が具体的な活動計画を作成し、「アクションプランシート」に表現。改善の風土をつくっている。
MSRのレポートについて、ショップの方の反応はいかがですか。
やはり「それはこのショップが目指している方向ではないんだけどな」という部分で減点があったりすると、「このモニターさんは、ちゃんとお店を見られているのだろうか」と疑問に感じられることもあります。弊社では調査の母数が多いこともあって、それほど高い頻度で調査を実施できないので、お店ごとに見るとばらつきが生じやすいという面はあると思っています。
しかし、MSRのレポートというのは、間違いなくその時・その瞬間の一場面を切り取ったものではありますし、また実際の接客の場面の中でも、初来店のお客さまのニーズとショップのコンセプトがそもそもミスマッチだというようなことは多々あるでしょうから、「そのときたまたま」で無視して良いものではありません。現在は「お店の強みがお客さまに伝わっているか」をテーマとして取り組みを進めています。
いずれにせよ、単純に点数で判断するために導入しているわけではありませんので、「レポートが全てではないけれども大事なものだ」という共通認識をしっかりと持った上で、コミュニケーションツールとして活用していければ良いと考えています。
御社は、テナントショップさんとの距離が非常に近いと感じます。
そうですね。パルコの創業以来、テナント企業様は「イコールパートナー」、つまり一緒になって目標に向けて取り組む仲間であるという考え方がありまして、それが根付いているのだと思います。
最初に「二つのカスタマー」という呼び方をしましたけれども、距離感としては顧客というよりは仲間に近いですね。こういう感覚は、他のSCさんや百貨店さんとは違うところかもしれません。そしてこれは、自分が営業担当をしていた頃も、現在も、大きく変わらないように感じています。
今後もこういう距離感を大事にしながら、テナントのショップの皆様と一緒になって、より良いお店づくりに取り組み、それを通じて間接的にではありますが、パルコのショップにいらっしゃるお客さまにも喜んでいただくことを目指していきたいと思っています。