「強み」を引き出すパートナーシップで過去最高の業績と組織を実現
株式会社RETOWN
株式会社ウイングッド
『季刊MS&コンサルティング 2014年春号』掲載
取材:湯瀬 圭祐 、編集:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
関西を中心に飲食店11ブランド57店舗を展開する株式会社RETOWN(リタウン)。全社員・スタッフを巻き込む一体感と前進感を大切にする同社は、顧客満足を主体的に追求していく組織風土づくり、お勧め強化を経て、宴会獲得に挑戦。その武器としてメニューブックを開発・活用することで、大きな業績的成果を挙げた。「社員が商品に自信を持てる」状態をつくることが、CS・業績向上への一歩だったという。一連の取り組みを振り返って、同社代表取締役の松本篤氏と、メニューブック制作を手がけた株式会社ウイングッド代表取締役の勝良良太氏にお話を伺った。
これまでの取り組みの経緯を教えてください。
松本氏:当社は、「食から日本をかっこよくする」というビジョン、「つながりをデザインする」というミッション、そして「ほんものを誰にでも提供する」というバリューを経営理念とし、まず仕入れの仕組みや、商品開発の土台を固めていきました。メインの食材は、産地から8~9割を直送し、食材の良さをしっかりと引き出すために、仕入れの仕組み~商品開発、調理技術の向上に注力しました。それらが整った段階で、次の土台づくりとして組織力やサービス力の強化を図り、最後に全業態・全ブランドのメニューブックや、POP、ビジュアルなどの見せ方の部分に着手。ウイングッドさんの協力を得て、総合的なブランディングの強化に取り組んできました。そしてそれらの集大成として最後に取り組んだのが、宴会獲得キャンペーンへの挑戦です。
株式会社RETOWN 代表取締役 松本篤氏
土台づくりとして行われたという組織力強化について、詳しく教えてください。
松本氏:当社では、全社員・スタッフの一体感と前進感が最も重要であると考えています。そのための重要な施策として、ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)をきっかけに全員の目線を合わせるようにしました。毎月1回、5~6名をひとつのグループにしたディスカッションを中心とした研修会である「リタウンサミット」を行なっています。このサミットでは、アルバイトも含めた全スタッフがお客さま目線になり、MSRの結果を基に全員で話し合って改善していく流れを作ることに時間を割いています。サミットに参加できないスタッフも共に考え、意見交換できる仕組みをつくっており、決定事項も共有することで一体感を醸成しています。また、そのような状態になるまで根気強くサミットを継続して開催してきました。
「生産者が丹精を込めて育てた食材を、食材にとって一番美味しい食し方で提供することで、地域食材の魅力を消費者に伝えたい」という想いを持ち調理に当たる。
松本社長から見て、組織風土に変化は感じられますか?
松本氏:最初は、他の業態の社員・スタッフが顔を合わせる機会はほとんどなかったため、お互いに硬さが見られましたが、最近のリタウンサミットではだいぶ雰囲気が和やかになってきましたね。お互いに顔見知りになってきたため、その分発言も積極的になりました。特に、今まで課題に感じていたアルバイトの巻き込みには大きな効果があり、各業態の責任者から、MSRの導入前と比べて、アルバイトスタッフの関心が高まったという意見をよく聞くようになりました。このサミットの中で、MS&Consultingさんから提案してもらった「気づきシート」、「感動アップシート」というシートを使うのですが、これらはアルバイトを巻き込む上で非常に重要なツールです。サミットの現場や、宴会獲得キャンペーンの数字の推移を見ていても、こうした活動があってこそ現場改善や人材育成が進んでいるのだと感じています。
農業・都市・お客さまの架け橋となるような憩いの場を目指した、地域応援・地産地消をテーマとしたGreen Cafe(写真はカフェの店内)。
サービス力の強化はどのように行われましたか?
松本氏:業態や店舗の「強み」をお客さまに伝える取り組みを強化しました。みんなで何度も話し合い、お客さまへのアプローチの仕方を「商品のおすすめ」に絞ることで、現場ではお客さま目線が根付き、お客さまとの距離を近づけることに成功し、結果として、組織全体でも想定していた以上の前進感が見られました。
勝良氏:宴会獲得キャンペーンは素晴らしい成果でしたね。
松本氏:おかげさまで、組織力のさらなる強化という面でも、業績面でも、想像以上の結果を残すことができました。12月に行なった宴会獲得キャンペーンは、初めての試みで手探りでしたが、宴会獲得数が前年比120%になりました。さらに3ヶ月後の歓送迎会シーズンに行なった同キャンペーンでも、25日時点で前年比100%超を達成し、12月をはるかに上回る成果が上がっています。通常は12月の方が業績は良いので、この3月の結果は、社員・スタッフのモチベーションにつながります。お客さま感動満足の面でも、点数のアベレージが安定して高水準を保てるようになり、満足度・業績ともに前年を大きく上回る成果を獲得することができました。当然、店舗によってのばらつきはありますが、どの店舗でも大きな成果を上げ、過去最高月商・日商を記録した店舗もありました。
生産者のこだわりが見えるPOP。その背景には、生産者を豊かにしたいという想いがある(写真はGreen Cafe)
サービス力強化のポイントはどのような点にあったのでしょうか?
松本氏:取り組みを進めていく上で気をつけたことは、「全員が目的を明確に理解する」ことです。単に業績獲得だけでなく、今まで作ってきた従業員感動満足、お客さま感動満足、業績を連動させ、高めていくのだという意識を徹底させました。
Green Cafeでは地域の食材を調理して提供するだけでなく、気軽に購入できる。(写真はショップエリア)
勝良社長からご覧になって、リタウンさんはどのように映っていますか?
勝良氏:リタウンさんは一体感があり、お客さま目線の意識がとても高いです。当社とは2週間に1回、メニューブックを作成するための「ブラッシュアップ会議」という名前の会議をしていますが、リタウンの社員・スタッフの方々は、常にお客さまにどう見せたいか、またお客さまがどう感じているかということを意識されています。メニューブックを作成する時も「ああしたい」「こうしたい」というアイデアが多く出され、現場の声が詰まった斬新なメニューブックになりました。
松本氏:ブラッシュアップ会議には各部署から責任者に参加してもらうようにしていましたので、各部署がどのくらいのスピード感で進んでいるかが明らかになります。それが、みんなが一体感を持って切磋琢磨できる環境を生み出すことにつながりますし、結果として見せ方のレベルが全体としてぐっと上がるという好循環を生み出しています。
約2年前よりブランディング戦略立案・実行のパートナーとして二人三脚で歩んできた、リタウンの松本氏(写真右)とウイングッドの勝良氏(写真左)。下準備の末、大きな業績的成果を創出した。
松本社長がマネジメントをされる上で意識されていることがあれば教えてください。
松本氏:最初は小規模でしたが、徐々に業態も社員数も増え、私一人で意思決定をするのでは正直追いつかない規模になってきました。そのため、前提となる方向付けについては私が意思決定を行ないながらも、具体的な所は事業部長やマネージャーに任せていくようにしました。とはいえ、もちろん、考え方やセンスは会社として統一させなければいけませんので、ブラッシュアップ会議をはじめとしていくつかの会議体系を設け、それぞれ、2週間に1度は方向性の確認をする環境をつくりました。特に、今回のメニューブックのデザインや具体的な内容については、ウイングッドさんのお力のおかげで考えていたことが形になり、それがやりがいにつながっているという話をマネージャーや店長から聞いています。
2週間に1度の「ブラッシュアップ会議」で各業態の責任者とウイングッドの社員が集まり、現場社員のアイデアが詰まったメニューブックを開発している。
社内外で連携し、相乗効果を生むためのポイントはありますか?
松本氏:常に、「仕入れ力」「商品開発力」「技術・サービス力」「組織力」「ブランディング」の5つの項目のレベルをどう上げていくかを目的として意識しています。そして、リタウンサミットを通して現状を把握し、課題を抽出し、改善を進めていく中で、自分たちでできることと、ウイングッドさんの協力を得たほうが効果的なことを整理してきました。例えば、ロールプレイングをしている時に、お客さまとの接点や接触頻度を上げていくためのアイデアを自分たちで考え、その時に意見が出た使いやすい武器をウイングッドさんに作ってもらう、というように、上手に役割を分けていくことが相乗効果を生んできたのだと思います。
所属業態が異なる社員の集合写真。リタウンサミットの定期的な開催により、部署間のつながりが生まれた。それによって全社に一体感が醸成され、現場での推進力につながった。
今後の展開について教えてください。
松本氏:冒頭でも申し上げたビジョン(食から日本をかっこよく)・ミッション(つながりをデザインする)・バリュー(ほんものを誰にでも)の経営理念のもと、新たな取り組みを始めています。今年の4月からは、技術力を高めるための「飲食人大学」という教育制度を始めました。また、秋からは仕入れ力のさらなる強化を視野に、「フィッシャーマンマーケット」という名前の活魚卸市場を立ち上げる予定です。まずは6箇所ほどの漁港と提携して毎日大阪に活魚を輸送し、そのまま一般のご家庭や、個人経営の飲食店に卸せるようにしたいと考えています。
さらにお客さま・スタッフ・産地の方々とのコミュニケーションの場として「食べマルシェ」という企画をスタートします。「食べマルシェ」では、専門の事業部も立ち上げましたので、お客さまとのつながりによって面白い商品が生まれることを期待しています。
厳選した黒毛和牛を生産者から直接買い付ける流通ルートが強みの、黒毛和牛焼肉専門店 犇屋(ひしめきや)。
リタウンサミットの場では、どんなチャレンジを考えていらっしゃいますか?
松本氏:リタウンサミットに関しては、今後はフランチャイズ契約をしていただいている法人様を巻き込んだ展開を考えています。現在、少しずつ告知を始めており、参加したいとおっしゃっていただける事業主様も年を追うごとに10店舗近く増えています。こういった取り組みを標準のパッケージにしていくことでお店としての質を上げ、今後は社内のトレーナーが取り組みをサポートできるような仕組みをつくっていきたいです。
鮪の脇口 ほんまや 天満本店:市場を通すと高価になる活魚だが、直送することでリーズナブルな価格帯を実現。