組織風土がスタイルの質を左右
有限会社フィールド
『季刊MS&コンサルティング 2011年冬号』掲載
取材・文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
デザイナーズ・サロン「Neolive」のコンセプトは、生まれ変わりを提案し続けること。お客様の期待を超えるヘアスタイルの提案を通して、美容師を人の人生をも明るく変えてしまうような仕事をするデザイナーに育てていくことを目指している。「Neolive」への加盟企業の幹事を務める有限会社フィールド(以下、フィールド)代表の横山健治氏がその実現のために現在取り組んでいるのが、ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)によるお客様の声を基にしたCS改善活動だ。
活動開始のきっかけ
CS改善活動にMSRを利用している理由について、横山氏に伺った。「働く側は、どうしても主観的な目線で見てしまいがちです。お客様の目線とはズレが生じやすいため、客観的なお客様の視点を常に意識できるようにする必要があると思っています。しかし、本部や上司、または専門の調査員の方からのフィードバックだと、スタッフが構えてしまいがちです。生のお客様の声であれば、気付きが得られやすくなると考えています」。
最近の傾向として、フィールドではWEB販促からの新規客が増えてきているという。一方で、新規客の定着率が以前ほど高くなくなってきている。新規再来率は店によって大きく異なるが、概ね20~40%。その状況から、「新規再来率をどれだけ高めることができるかが経営上の重点課題」だと横山氏は捉えている。お客様目線の組織風土をつくるのと同時に、リピートして頂ける店づくりにつなげることが、CS改善活動のもう一つの狙いだ。
販促媒体に掲載するためのモデル撮影の場面。フィールドでは、販促媒体のコンテンツをスタッフが工夫して考え、作成する。
個々のお客様にとってのベストに力点
レポートがきっかけとなって改善していることはたくさんあるという。例えば、フィールドではお茶を出しているが、「髪の毛が入っているかもしれないので、ふたをしたほうが良いのでは」という意見がMSRのレポートの中にあった。以前から横山氏がそれに気付いて呼びかけていたものの、実行できていなかった点だったという。それが、お客様の声をきっかけに自主的に実行に移すことができた。
改善活動を続ければ続ける程、だんだんスタッフの見方が変わってくる。同じ質問項目であっても、捉え方が変化していくのだという。例えば、フィールドではMSRのカウンセリングに関する設問項目の中に「仕上がりのイメージがしやすかったですか?」という項目を入れているが、ずっと「できていない」と評価されていた。そこで、最初は、口頭で確認するようにした。それでもイメージが伝わらないのではと、写真やカタログを見せて確認するなどと試行錯誤を行ったものの、レポートでは相変わらずできていないにチェックが入った。活動の初期段階では「この項目は難しいので特に意識しよう」ということで終わっていたが、活動が進んでくると、「お客様の気持ちを考えると、平面で髪形を見せられてもイメージが沸かないのでは」という問題提起がきっかけとなり、別の視点からのアイデアが生まれてくるようになった。立体でイメージしてもらうために実際に長さを短くした場合のボリューム感を伝えようと、お客様の髪を持ちあげて見せたり、仕上がりのイメージに近いスタッフを探して見せたりした。パーマの場合はお客様の髪にアイロンを当てて具体的に見せた。施術の途中で確認を取る回数を増やすなど、他にも様々な工夫が生まれ、その過程が、「確認の方法はお客様によって違う」ということの実感につながっていった。「個々のお客様にとってのベストを考えて、アクションする。そういう意識が少しずつ身に付いてきた」と横山氏は誇らしげだ。
美容技術の練習風景。先輩・後輩の間で技術の共有と鍛錬を行う姿は、真剣さと温かさが共存している。
MSRのミーティングは最優先事項
フィールドでは、MSRのミーティングを最優先事項とし、スタッフのシフトに入れている。ミーティングは2時間。3つのチームに分け、その中でリーダーを決めてもらうことから始まる。チーム内のポジションなどはあえてばらばらにし、様々な角度から意見が出るように工夫する。
リーダーが決まったら、まずは前回のアクションの進捗確認を行う。次に、全員でレポートへ目を通し、良かったこと・もったいなかったことを一人ずつ挙げてもらい、書記がそれを書き留める。そして、1つ1つの意見についてどう対応していくかを議論し、アクションを決定する。チーム毎に1つか2つ、当月やることを決めてもらい、それらを合わせた3~6個のアクションを店のテーマとして実行に当たる。出てきた改善項目が多い場合には優先順位を付け、どのような順番で取り組むかを考える。すぐにできるようなアクションについてはバックヤードのボードに書いておき、出来たら消す。特に重要なことについては毎朝朝礼で確認するようにしているという。
MSRのミーティングを開始した当初は店長が話す割合が多かったが、徐々に、スタッフが意見を言いやすいよう、質問を中心とした進行に変化させていった。「今では、『どうしたらいいかな?』が店長の口癖になっています」と横山氏は笑顔で話す。
フィールドでは、2時間のMSR専用ミーティングをスタッフのシフトに入れて毎月欠かさず行っている。継続して全員で取り組みを続けることがポイントだった。
一番大切なのは「軸」を共有すること
「スタッフに店としての一つの軸を共有してもらうことができれば、店は強くなる」と強調する横山氏。その軸が、お客様満足とその先にある理念だ。Neoliveが提唱する“生まれ変わり”というキーワードには、「お客様も自分も仲間も、皆で豊かになっていこう」という想いが込められている。軸の共有のために、理念勉強会、MSRなど様々な方面から環境づくりを行う。
「ヘアサロンには、ベテランのカリスマ美容師やマネージャーだけでなく、若い人の感性が必要です。新しく美容師を志す人が入りたくなるような楽しい職場にしたい。人の気持ちを感じる力を養い、上辺だけではなく仲間同士が心で認め合うこと。結局それが、軸に向けて皆の心を一つにするための土壌となり、お客様の居心地だけでなく、提案できるスタイルの質にも影響するのです」と横山氏は語る。
改善活動を始めてから約1年が経った頃、指摘される点がいつも同じであることに気付いてマニュアルに落とし込み、お客様の再来を話し合うようになってから改善活動が加速していった。
記事のPDFをダウンロード