店舗全体のサービスレベルを底上げする 「第4回 D1グランプリ」開催
株式会社ダイナック
事業概要:「食の楽しさをダイナミックにクリエイトする」をコンセプトに、関東・関西でレストラン・バーなど245店舗(2014年6月時点)を経営
東京都新宿区新宿1-8-1
会社ウェブサイト:http://www.dynac.co.jp/
『季刊MS&コンサルティング 2014年夏号』掲載
取材・文:宮本 紗和/担当:有賀 誠
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
ダイニング・居酒屋・カフェを経営するサントリーグループの株式会社ダイナックは、7月16日、四谷区民ホールにて同社の社員・パートナー(アルバイト)を対象とした接客技術を競うコンテスト「第4回D1グランプリ」を開催した。本コンテストには、全国から208名がエントリーし、予選を勝ち抜いた総勢13名が決勝大会へと進んだ。D1グランプリ開催の背景や顧客感動満足度向上への取り組みについて、営業推進本部 営業推進部 担当部長の池田好彦氏にお話を伺った。
D1グランプリを立ち上げた経緯を教えてください。
営業推進本部では、他部署との連携を取りながら人材育成や社員・パートナーのモチベーション向上、顧客感動満足を高める施策を推進しています。これまでも 毎年テーマに沿って商品を開発し、味、見た目、コストパフォーマンスなどを競う「商品開発コンテスト」やオリジナルカクテルの開発と技術を競う「カクテル コンペ」など商品力を向上させる取り組みを10年以上実施してきました。しかし、今まで接客サービスに特化した企画がありませんでしたので、全社的なイベ ントが何かできないかと考え、2011年に立ち上げたのが「D1グランプリ」です。NPO法人【繁盛店への道】様が主催する「S1グランプリ」(※飲食店 で働く接客スタッフのサービスレベル向上を目的としたコンテスト http://hanjyoten.org/)や他社のサービスコンテストを見学し、参考にしながらようやく実現に漕ぎ着けました。最初は手探りの状態でしたが、エントリー数や企画内容に対する反響が予想以上でしたので、さらに活気あるイベントにしようと2回目以降は外部の方もご招待し、さらに力を入れてきました。
営業推進本部 営業推進部 担当部長の池田好彦氏。D1グランプリを同社で一番のビックイベントへと成長させた。
外部の方を無料でご招待された結果、社内の反応は?
社外の方を招くことで当社の認知が向上し、社員・パートナーのモチベーションもさらに上げることができると考えています。ありがたいことに、来場される取 引先や外食企業の方々から「ダイナックには、こんなに素晴らしいスタッフがいるんだ」と、SNSに書き込んでいただくことも増えてきました。以前はサント リーの外食グループというイメージが強かったのですが、最近では「接客サービスに力を入れている会社」と言われるようになり、特に昨年頃から当社の認知が 向上したことを実感できるようになりました。
ロールプレイングのテーマは、社員・パートナーに参考となるように「料理が遅い」「見た目が違う」など、現実に即した内容となっている。
D1グランプリならではの特徴は何ですか?
本コンテストは、個人の接客ロールプレイングを評価する形ではあるのですが、頑張っている店舗スタッフを賞賛す るだけでなく、店舗全体のサービスレベルを底上げすることに主眼を置いています。そこで、エントリーは1店舗3名までを店舗内の推薦で選ぶことにしてお り、個人ではなく店舗で参加しているという意識を持ってもらえるようにしています。
また、フィードバックに力を入れていることも特徴ではないかと思います。一次予選、最終予選終了後に、採点表を 本人にフィードバックしています。決勝大会の審査は社長以外全員社外の方々にご協力いただいており、立ち居振る舞いや言葉遣いなどをとても丁寧に細かく フィードバックしていただけるので、エントリー者は全員、「参加して良かった」と話してくれます。
VOC成果発表会に選出された響 丸の内店では月一でミーティングを行う。毎月VOCで要望の多かった意見をテーマに、店舗スタッフと意見交換をし接客向上に努めている。
4回のイベントを通して何か変化はありましたか?
目に見える変化は、D1グランプリに出場するメンバーのレベルが確実に向上していることです。賞を取れなかった者は悔しくて、「来年もう1回出ます」と宣 言したり、前回予選落ちした者が再度チャレンジしてグランプリを受賞するなど、エントリー者の接客レベルは年を追ってかなり高いところまで到達してきてい ると実感しております。
ワイン倶楽部は、豊富な知識でワインのお勧めやスピード提供に定評があり、D1グランプリ受賞の常連店舗となっている。
顧客感動満足に向けた他の取り組みとは?
まず、ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)は営業本部からの反響が良く、もう9年間継続していま す。当社が課題として掲げる「ドリンクのスピード提供」、「倶楽部ダイナックのお勧め」、「料理のお勧め」の3つは、MSRの設問の中でも特に重要視して います。MS&Consulting様から届くMSRの結果は、取り組みが各店舗にきちんと浸透しているか一目で把握することができるので、とて もありがたいですね。またMSRの結果を見やすくまとめた「MS通信」というレポート(社内報)も2種類作成してもらっています。内容としては、パート ナー向けのお客さまからいただいたコメントを抜粋してまとめたレポート、それにグラフや数値を加えた営業本部や店長向けのレポートです。
当社では、MSRの活用も含めて、店舗運営の具体的な部分は店舗に任せています。全社的に推進していく事項につ いては予め方針を示し、MSRの調査項目の中に入れるようにしていますので、それに対してどうするかは店長の裁量です。例えば、「倶楽部ダイナックのお勧 めがなかった」という結果が上がってきたことを受け、「どうすればお客さまにカードの紹介をする時間が確保できるか」というテーマでプロジェクトチームを つくって意見交換するなど、テーマも共有方法もさまざまです。
他には、ファイブスター制度というパートナー向けの評価システムを導入しています。年2回の面談を通して経験や 能力などを5段階で評価して星を付け、時給などを決めます。その他、VOC成果発表会(VOC=Voice Of Customer:お客さまの声)といって、メールやお電話、店舗での直接のコミュニケーションによって受け取るお客さまからの声や反応を、上手く商品や サービスのレベルアップに活用できているお店を年一回集め、成果発表会をしています。まだ3年目ですが、各営業部から1店舗ずつ推薦され、店長と調理長が 社長の目の前でプレゼンテーションを実施します。各店舗がこれを踏まえたミーティングを行っているため、VOC成果発表会はひとつの節目として社員のモチ ベーションにつながりつつあります。
MSRの結果を見やすくまとめたレポート「MS通信」は、お客さまからいただいたコメントを抜粋してまとめたパートナー向けのレポート(写真右)と、グラフや数値を加えた営業本部や店長向けのレポートがある。
今後の展望をお聞かせください。
営業推進本部の役割は、営業本部と店舗の架け橋となることです。現在それぞれで運用している人事システム、イベント、MSRなどの施策を連動させていくことで、すべての場面で、お客さまへの感動満足という共通の軸をもって活動できるよう推進していきたいと思います。
ステージ上では笑顔のファイナリストたちも、控え室では黙々とスピーチの練習をするなど、緊張感が漂っていたという。毎年200名前後の応募が集まる、同社最大のイベントだ。
第4回 D1グランプリ 大会概要
D1グランプリの審査は3段階。1次予選では東京24名、大阪12名のユニット代表をユニット長が選抜。2次予 選では東京8名、大阪5名の合計13名が営業本部によって選出され、決勝大会を迎えた。評価項目はMSRの項目と連動しており、決勝大会ではスピーチ審査 も行う。応募者が毎年約200名。その中からグランプリ1名、準グランプリ2名、特別賞1名が選ばれる狭き門だ。
今回グランプリに輝いたのは魚盛池袋西口店の中尾和夫氏。審査員を務めた株式会社 MS&Consultingの常務執行役員渋谷行秀は、「中尾さんのようなお奨めをされたことは今までありません。オーダーを受ける時にしゃが み、お客さまより目線を下げて対応するダウンサービスなど基本的なことができているという安心感はもちろん、お客さまの懐にぱっと入る緩急が素晴らしい。 本当にお店が好きなことが伝わりました」と講評した。トロフィー授与式の後、中尾氏は「一人の力は大した事はありませんが、人数が増えていき、波長が合っ ていくと素晴らしい感動の瞬間が作れます」と話し、五本締めで締めた。準グランプリには、有楽町ワイン倶楽部の三宅明子氏、カフェエバールフォーレ天王寺 店の知念真子氏、特別賞には三田レークサイドカントリークラブレストランの小林太郎氏が選ばれた。
最後は、代表取締役社長の若杉氏が「第4回を迎え、確実に進歩し成長していることを強く感じました。私たちはこれからもQSCを磨き続けていかなければな りませんが、その手ごたえをしっかりと感じております。一緒に働く仲間や、我々を支えて下さるお客さまに感謝しています」と締め括った。
D1グランプリの評価は50点満点。「審査委員の方が採点しやすいように極力シンプルな採点表にしました」と池田氏。
審査員は5名。公正な審査を行うため、代表取締役社長の若杉氏以外は全員社外の方にお願いしている。
第4回 D1グランプリ受賞
魚盛池袋西口店 中尾和夫氏インタビュー
お客さまを呼び込む接客の秘訣を教えてください。
私が心掛けていることは、お客さまとの「間」です。例えば料理のお勧めをする際、メニューを覚えてたくさんの情報を話すと、お客さまは最初の方に話したこ とを忘れてしまいます。そのため、「この人に任せておけば大丈夫」という安心感をつくり、お客さまの気持ちが良くなる絶妙なタイミングで簡潔にお勧めする ようにしています。また、一度しかお会いしたことがないお客さまにも、よく顔と名前を覚えていただくのですが、顔見知りのお客さまに対する接客を、あえて 他のお客さまに見ていただくことで、じわじわと心配りが伝わっていって、最終的に「中尾さんがいるあの店に行こうよ」と言っていただけるようになるのだと 思います。いつも同じメニューを注文されるお客さまには「いつものですね」とひと言添えて接客するなど、プラスαの何かを常に提供するように意識していま す。このような一つ一つの積み重ねが大切なのだと思います。
グランプリを受賞した魚盛池袋西口店の中尾氏(写真中央)は、20年以上サービス業に携わり、現在も自身でお好み焼き屋を経営している。写真上はD1グランプリでのロールプレイングのシーン。
D1グランプリを目指す方に伝えたいことは?
接客は、その場、その場で色んな失敗や恥ずかしい思いをしないと成長しませんから、実践することが大事です。例えば、お客さまからご指摘をいただいた時 も、お客さまに最後に気持ちよく「じゃあ許してやろう、また来るよ」と言っていただくには、謝り方、表情、頭の下げ方はどうするのかをリアルな場で経験し てみなければ温度感が分かりません。今回、受賞という形でひとつの土台をつくっていただくことができましたので、いつか池袋店の誰かが経験を積み、魚盛の Tシャツを着て、また決勝大会の場に出てくれることが今から楽しみです。
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