MSRの効果を全スタッフへ「3,000人の活動」を推進
ファーストキッチン株式会社
http://www.first-kitchen.co.jp/
『季刊MS&コンサルティング 2011年春号』掲載
取材:有賀 誠、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
現在、全国で130店舗を運営するファーストキッチン株式会社(以下ファーストキッチン)。ミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を導入して丸3年が経ち、代表取締役社長の田中政明氏はその手応えを「スタッフ育成だけでなく、マニュアル対応と思われがちなファストフード業でも十分にCSに貢献している」と話す。増益を続ける同社の成長の秘訣と、今後の展望を伺った。
相次ぐ出店戦略から人材育成にシフト
ファーストキッチンは、その店舗を都市部の路面店とショッピングセンター内の店舗に大別し、現在は路面店60店舗に対しSc店は70店舗を運営している。特に路面店では、「シティ・コンビニエンス・レストラン」とのコンセプトを掲げ、店舗リニューアルを続々と実施している最中だ。ファストフード業でありながら生パスタを提供し軌道に乗せるなど、競合店舗にない新しい取り組みによって躍進を続けている。
同社は日本発祥という点で、洋風ファストフード業界において数少ない存在である。サントリーグループに属する同社は、1977年、当時『生活文化企業』を標榜していたサントリーにより、「人々の飲食文化により貢献しよう」との意図で立ち上げられた。「外食産業では、上場企業であっても比較的オーナーの事業姿勢が表れる傾向があるように感じますが、当社は元々グループの事業多角化の一貫として創業しているので、事業拡大のためにはなにが必要かを常にフラットに見極めていく文化が根付いています」と田中氏は話す。
代表取締役社長 田中政明氏
10代目社長として田中氏が就任した2008年、ファーストキッチンは郊外の大型ショッピングセンターへの集中的な出店を終え、100店舗から150店舗にまで拡大した店舗の運営見直しに着手していた。「大型ショッピングセンターの開店ラッシュを迎えていた05~06年は、十分な人材トレーニングよりも、競合に先駆けて新店を布陣することを優先せざるをえない状況がありました。07年から採算を合わせるのが難しい店舗の整理を開始し、08年には30店舗を閉店しました」。
各店の採算を見極めながら、しばらくは出店を控えて体制を整える期間にしようとの経営判断の下、同社が強化を図ったのが人材育成だ。
社長就任時、田中氏は「約30年の事業で培った人材の厚さには安心感を持った」という。それまで所属したグループ内企業で合弁会社設立や合併などのタイミングに立会い、社内が混沌とする時期を経験していた田中氏にとって、ファーストキッチンで働くベテランスタッフの経験と中堅スタッフのパワー、そして若手スタッフの活気は心強く映った。
だが、相次ぐ出店により大幅な異動が頻繁に起こり、同社の強みである人材の力が十分に活かしきれない状態になっていた。「ベテラン、中堅、若手の力の相乗効果を発揮できれば、もっと素晴らしい会社になるはずだと確信しました」と田中氏は振り返る。
「City Convenience Restrant」とのコンセプトを掲げた路面店。リニューアルを終えた店舗では、常連の顧客とのコミュニケーションも弾み、スタッフのモチベーションが大幅に向上するという。
顧客に向き合う姿勢を整えた3ヵ年
そこで導入したのが、MSRの仕組みである。ファーストキッチンの前に所属していたグループ内の飲食業企業でもMSRを導入し、その効果を実感していたことから、導入に迷いはなかった。「メニュー開発などの企画業務から直営店の担当に移った際、改めて外食産業の現場における顧客対応の難しさを感じたのです。実際に直接お客様に接するのは店舗のスタッフですから、彼らと我々の関係が密であることと同時に、店舗のスタッフ同士が良好な関係を構築していることが不可欠。適度な緊張感のなかで、よりよいサービスに対する意見を出し合える環境でないと、お客様にも向き合えません。逆に言えば、それができればCSに反映される。そうした効果を、MSRを通して痛感しました」。
ただし、個々のサービスがCSに大きく関与するレストランのような接客業と比べて、マニュアルビジネスの側面が強いファストフード業では、MSRが直接的なCS向上にはさほど影響しないだろうと考えていたという。そのため、お客様を大切にするという企業姿勢を提示する一つの策としてMSRを位置づけ、スタッフのモチベーション向上を導入の主目的とした。「店内でMSRが話題になることで、パートやアルバイトスタッフなどの“メイトさん”も含めて店舗スタッフが一丸となり、互いに刺激し合える関係を整えたいと考えました」
人材育成にかかわる取り組みは、一朝一夕で結果が出るものではない。それを見越し、08年のMSR導入時から、田中氏は3ヵ年計画を敷いた。まず初年度は、MSRの意義や評価の理解をスタッフに促すことに重点を置いた。2年目には店長クラスを中心に、研修制度を導入。ミーティングの開き方や、MS評価の活かし方などをレクチャーし、各店舗での展開を推進した。
大船店の内装。スタッフルームにはMS評価が張り出してあり、評価を受けたスタッフが次に取り組みたいことなどのコメントを記すことで、今度にどう活かすかという視点が他のスタッフにも浸透している。
MSリーダーの存在が現場の活性化を促進
3年目の2010年には、さらに多くのスタッフに顧客発想を根付かせるために、“メイトさん”を含めた各店舗のスタッフの間で「MSリーダー」を選出。リーダーを中心により良いサービスを提供しようとする取り組みを実施した。現在、MSリーダーは約170人。1店舗あたり1~3人が選ばれ、経験の浅いスタッフを率いる重要な役割を担っている。MSリーダーを対象に実施しているリーダー研修は、リーダー以外のスタッフにも門戸を開いているという。
また、同社が以前から行っていた「モデル店舗」認定制度にも、MSRを活かしている。業績、商品の品質、メンテナンス面という従来からの評価基準にMS評価を加え、現在はこの4つを基準にモデル店舗を選出。さらに09年からは、モデル店舗の年間の取り組み成果を発表する発表会も実施している。2011年のモデル店舗には前年を上回る31店舗のエントリーがあり、「現場の積極性を実感した」と経営陣からも声が上がったという。
08年、09年ともに増益はしていたものの、店舗総数は減じていたため増収には一歩及ばなかったが、10年には増収とともに増益も実現、目標予算も大幅に上回る数値で達成。特に10年はテレビメディアの取材が重なり、キャンペーンとの連動により購買を大きく後押しした。
「足掛け3年にわたるMS活動で、お客様に向き合う姿勢が確立していたことで、『報道によってお客様が増えてもサービスが未熟だったら逆効果になる』と現場スタッフもよく理解していた。だから身が引き締まり、メディアの報道効果を最大限に活かすことができたのだと考えています」。導入当初はスタッフのモチベーション向上を目的とし、CS向上は強く意識していなかったものの、「結果的にファストフード業でもMSRがお客様へのサービス向上に大きく貢献したことが分かった」と田中氏は手応えを話す。
「足掛け3年にわたるMS活動で、お客様に向き合う姿勢が確立してきた」と田中社長。段階を追ってMSRの理解・活用を推進させ、2011年は「3000人の活動」と銘打ち、全員でCS改善に取り組む意向だ。
路面店リニューアルからさらなる事業拡大へ
2011年は満を持して、全スタッフにMSRの効果を波及させることを意図し、「3000人の活動」と銘打って全員でCS改善に取り組む意向だ。また、引きつづき路面店のリニューアルを進め、着実な成長を狙う。見込みがあるショッピングセンターの撤退物件が持ち込まれることも多いため、新規出店も手堅く検討していくという。
近年の業績は好調に推移しているものの、現時点で同社が成長段階にあるかというと、「いまだ体制を整えている段階だと捉えている」と田中氏。リニューアル店では客席の稼働率を高めることで、前年対比120%~130%の伸長も当然だとする一方、既存店の100%維持は毎年大きな課題になっているからだ。特に、3年連続の増益を打ち出した後となる今年は、いわば事業拡大の“踊り場”になると考えている。
「12年を目処に、路面店のリニューアルを完了させる予定です。その間、我々経営陣は13年以降の経営戦略をしっかりと準備しておく必要がある。我々の業態は売り場の数を増やすことが事業拡大のベースになりますから、路面店とSc店のバランスをどうするか、そして、現在の展開エリアや展開規模なども含めて、戦略を検討していきます」。
09年よりサントリーグループがホールディングス制に移行したことで、グループの全事業を通した全体最適が図られる時期を迎えている。「当社の増収・増益を追う視点をシフトさせて、さらなる経営の健全性と利益率向上を目指して邁進したい」という田中氏の言葉から、中長期的な成長にかける同社の意欲が伺えた。
モデル店舗による発表会(FK CISグランプリ)の様子。その年のモデル店舗に認定された店で実施した取り組みと成果を、店長ではなくスタッフが中心となって発表する。発表会を目指して日々の業務に取り組むことで、張り合いが生まれている。
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