【ユタカファーマシー】 「おかげさま」の精神を軸に、各店の独自性の発揮を促す
株式会社ユタカファーマシー
『季刊MS&コンサルティング 2011年春号』掲載
取材:西山 博貢、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
ドラッグストア業界の市況は右肩上がりであるものの、大胆なディスカウントに注力する企業や、薬事法改正により新たに参入した企業などにより、群雄割拠の様相を呈している。そんな中、岐阜県を中心に中部から関西圏をカバーするユタカファーマシーは、創業時から変わらず「人材を大切にする」という理念を貫き、さらなるサービス向上へと尽力している。
新たなビジネスモデルの構築が迫られる業界
医薬品・化粧品や生活用品の物販を中心とした、いわゆるドラッグストアが日本に登場したのは、約25年前のこと。その後、地域に根差した薬局の延長上にある店舗以外に、全国展開のチェーン企業が参入したり、近年の薬事法改正によりホームセンターやコンビニエンスストアなどでも一般用医薬品が扱えるようになったりと、一般生活者が医薬品を手に取れる場所は増え続けている。当然、競争は激しくなっているのが現状だ。
1979年に設立した同社は、代表取締役社長の高木裕氏が一代で140店舗以上にまで拡大するという躍進を続けている(写真は大垣旭町店)。地域医療への貢献をテーマとした新たな事業展開も検討中だ。
ドラッグストア業態の黎明期に創業し、岐阜県・滋賀県・京都府を中心に8府県で142店舗を展開するユタカファーマシーの専務取締役 羽田洋行氏は、こうした現在の市場は二極化していると指摘する。「一方は、大規模な流通網を敷いてディスカウントすることでお客様に価値を提供している企業で、その多くは全国チェーンです。もう一方は、いわゆる昔の薬屋さんのような、地域密着型で事業を展開している企業で、我々はチェーンでありながらも後者を目指しています。一人のお客様に、より深くかかわりを持ってサービスを提供するという戦略を採っています」。
確かに、出店エリアにおけるユタカファーマシーの知名度は圧倒的に高い。自社はナショナルチェーンではなくリージョナルチェーンだと明確に舵を切り、店舗ごとにその地域の顧客との付き合いを大切にしながら着実に事業を拡大してきた。しかし現状では、市場競争の激しさに「市場全体の伸長の鈍化も避けられない」という。
「この25年間は、陣取り合戦ではありませんが、どの企業にとっても店舗がないところに出店すれば確実に事業拡大につながりました。ですが現在は、ドラッグストアがない地域などありません。それに加えて規制緩和の影響もありますから、まさに今、生き残るためのビジネスモデルを構築することを迫られている状況だと捉えています」。
専務取締役 羽田洋行氏
物質的な豊かさの提供から心の豊かさの提供へ
そうした転換期を迎え、同社は2007年に営業理念を変更。創業時からずっと「地域の皆様のユタカな生活を応援いたします」と掲げていたものを、「健康と美を通して、こころユタカな生活を応援いたします」に改めた。もはや「商品を販売する」ということだけで顧客とかかわろうとするのは限界だと判断し、その考えを迅速に行動に落とし込むために、営業理念を変更するに至ったという。
「近年までの『豊かさ』とは、物質的な豊かさを指しています。我々はそれを提供することを目指し、社名にも掲げ、当然ながらお客様のニーズに応える品ぞろえや価格、便利さに注力してきました。しかし、いまやどれも満たされているのが当たり前で、物質的な豊かさを実現しただけでは現代のお客様に満足いただくことは難しい。したがって、我々が事業を展開する上で最も重視している『人とのつながり』という原点に立ち返り、スタッフがお客様の心まで豊かにできることを目指そうと、営業理念を改変したのです」。
「おかげさま」という社是に基づき、チェーンでありながらも、いわゆる昔の薬屋さんのような、一人のお客様に深くかかわりをもつ、地域密着型の温かいサービスの提供を目指す。
「おかげさま」という社是にも表れているが、同社には元々、人とのつながりを大切にする文化がある。これは、人材教育の側面や、スタッフと顧客との関係を大切にするという部分にも表れている。いまこそ、「あの店員さんがいるからユタカファーマシーに行こう」と言ってもらえる店を目指すことが顧客と強いつながりをつくる策であり、厳しい市場に生き残る戦略だと考えたわけだ。
そのためには、一人ひとりのスタッフの現場での判断力や対応力を磨き、マニュアルではない心からのサービスを提供できる人材へと育てていかなければならない。そこで同社が開始したプロジェクトが、ミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)と、HERBプログラムである。
顧客意識の調査は過去にも実施したことがあるというが、ノウハウがなければ調査結果を元に独自でCSを改善していくのは容易ではない。「現場での改善を目的に導入するものなので、PDCAのA、アクションの部分まで一貫して支援を受けられることが取り組みを開始した理由」と羽田氏は説明する。
各務原那加店のビューティカウンターにて。同社では、現場での判断力や対応力を磨くことが、戦略的に重要だと考えている。
店長と接客リーダーの双方でHERB研修を活用
MSRの結果を現場で共有することに加えて、HERBには店舗において接客向上をリードする役割を担う「接客リーダー(パート社員の中から任命)」も参加。店長が毎月出席する研修に、隔月で接客リーダーも店長とペアで出席している。店長と接客リーダーが価値観を共有し、両輪で現場に働きかけることで、スタッフ一人ひとりにまで意識を浸透できるとの考えによるものだ。
同社では、「パートナー社員(パートのスタッフ)も重要な人材」と位置づけ、店長だけでなく、店舗スタッフ全員の接客向上を担う「接客リーダー」もHERB研修に隔月で参加している。
一人ひとりの顧客とのつながりを深めようとすれば、自ずとそこに求められるのは画一的なサービスではなく、「その店」や「その人」ならではのサービスになる。それに加えて、同社がカバーする愛知から京都というエリアは、中部と関西という地域色がそれぞれ色濃く、都市部か郊外かによっても生活様式やニーズが異なっている。
だからこそ、自分たちでその地域の顧客のニーズを把握し、独自性のあるサービスを現場で考えて実施することが重要だ。「いまは従来のチェーンストア理論が通用しない、『個店』勝負の時代。そうならなければ、もうお客様に来店していただけないと危機感を持っているくらい」だと羽田氏は話す。
これまでもそうした考えから、店長に最大限の権限を与えてきたというが、実際には20数年にわたりチェーンストアとして事業拡大を続けてきたため、店長や現場スタッフはどのように実行していいのかが分からなかったのだという。それが、研修を経て「自分たちで考えて実施できる」こと、さらにそれが「お客様に喜ばれる」と実感したことで、「自分たちが店を変えていくのだ」という自発的な姿勢が表れ始めている。
「人を大切にする」考えを貫く同社では、HERBプログラムの一環として、従業員意識調査(働きがい診断)やインタビューを通じ、全てのスタッフが活き活きと働けるような環境づくりにも力を入れている。
実は、こうした手応えを得ている背景には、初回のMSRの結果の中で「自分たちが強みだと思っていた“サービス面”の評価が特に芳しくなかったことがある」と羽田氏は語る。「日常的にお客様の相談に乗れるような教育をしてきたつもりでしたが、物販など品ぞろえに対する満足度の方が上回っていたのです。結果としてそれが、改善していこうという意識の統一につながったのかもしれません」。
HERB研修の一場面。あるテーマに基づきスタッフ同士で話し合った結果をまとめ、共有する。理念・戦略の実現のためには、一人ひとりの意識の高まりが何より大切だ。
医療や介護領域と連携し、地域住民の健康を支援
ユタカファーマシーの“次世代へのビジネスモデル”の一端が、専門性の強化だ。同社が自社の戦略として目指している専門性の一つに、介護や医療の領域が挙げられる。といっても、ドラッグストア業態としてかかわるので、介護や医療事業そのものに参入するというわけではない。
「介護施設や病院といった地域医療施設との連携を図っていくことを目指したい」と羽田氏はその考えを語る。「創業時から、地域に根差したドラッグストアであることを志し、調剤部門の併設にも力を入れてきました。その分野のプロとして、日常的に処方箋が取り扱われる医療施設や介護施設と、より積極的に連携を図れる可能性は大いにあると考えています。また、これまではお客様が来店するのを“待つ”状態でしたが、今後は一般生活用品なども含めた幅広い物販の強みを活かして、来店が難しいお客様のところに“出向く”ことも視野に入れています」。地域医療に貢献するという考えに基づいた、異業種との協業なども積極的に実施したいという。
これからも「おかげさま」という感謝の気持ちを軸に、営業スタイルを時代の変化に柔軟に対応させながら、着実に成長していきたいと羽田氏。「やはり、我々は人間力で勝負したいですし、その理念がぶれなかったからこそ、いまがあると捉えています。人材教育には終わりがありませんが、お客様や他社に誇れる社員を育てることが、今後も我々の店のファンを増やすことに直結すると考えています」。
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