「施設産業」から「ヒト産業」へ向けて ~お客様の声が起こした新しい風~
株式会社ルネサンス
『季刊MS&コンサルティング 2010年春号』掲載
取材・文:西山 博貢、写真提供:株式会社ルネサンス
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
『生きがい創造企業』を理念に掲げる株式会社ルネサンス(1979年創業)は、統合合併を重ねながら順調に業績を伸ばし、現在全国に100を超えるスポーツクラブを運営する。30周年を迎えた昨年は中期経営計画の中で「スポーツクラブ事業はヒト産業」宣言を打ち出し、その一歩としてミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を導入。同時にMSRによる改善運動をサポートする研修プログラム「HERB」もスタートさせ、顧客心理に基づく改善活動により新規入会率を向上させた同社の取り組みを、一部ここで紹介する。
お客様の声から得る気付きを行動変革につなげる
「ここ数年のスピード成長に伴って社員も大幅に増える一方、本来私たちの企業理念としている“生きがい”を感じることが少なくなりつつありました。我々の 仕事の社会的な価値や、お客様にもたらしている感動などを、以前であれば社員同士で語り合うことも多かったのですが、今ではそのような機会は段々と減って きました。その中でMSRによりお客様の声を聞くことは、自らの仕事や姿勢について考える良いきっかけとなりました」と話すのは、品質管理部長の武藤亮夫 氏。
写真左:品質管理部長の武藤亮夫氏
HERBの中で顧客心理ステップ(図1)の考え方に共感した品質管理部 教育・育成支援チーム課長の豊田実子氏はこう話す。「新規会員獲得はフロントスタッフが主に担当していましたが、それだけではダメだという気づきがありま した。見学に来られるお客様は、プールやトレーニングジムなど色んな場所を見学したうえで、最後にフロントに戻って決断して頂くわけですが、各セクション でお客様の心理ステップをきちんと踏んでいかないと、最終的にルネサンスで運動しようという気持ちにはなって頂けないことがとてもよく分かりました」。
―両氏だけではなく、MSRやHERBから新たな気付きを得て、自らの行動変革に結び付けているスタッフが同社 には非常に多い。同規模の企業と比較しても、MSRの活用スピード、改善の実行力は秀でたものがある。その理由を武藤氏は、「何よりも基になっているのが “お客様の声”だからでしょう」と分析する。『生きがい創造企業』という理念の下でお客様にベクトルを向けるスタッフにとって、MSRによるお客様の声は 予想以上に響いた。
もともと同社には『スマイルシステム』と呼ばれる独自の評価制度があった。ホスピタリティマインドのレベルを4 段階で評価し、首からかけるストラップの色で分けるというもの。最初は「青ストラップ」から始まり、ある一定の接客レベル、ホスピタリティ精神を持ってい ると評価された人は「赤ストラップ」。その上の「黒ストラップ」と、さらにその上の「黒ストラップに赤文字のストラップ」を持つ者はサービスリーダーと呼 ばれ、各クラブに数名ずつ存在する。青、赤ストラップ保持者の研修を行ったり、テストを実施したりするのがサービスリーダーの役割だ。役職や、雇用条件に よる区別はない。
『スマイルシステム』が立ち上がって10年。研修も含め仕組みが整うと共にマンネリ化も見られてきた。本来、ホスピタリティ精神の醸成を目的にしてきた仕組みだが、ここ数年は仕組みの形骸化を心配する声があった。その中でMSRの導入は非常に良い刺激となった。
特に動きを見せたのは、HERB研修を受講した静岡クラブの黒ストラップのサービスリーダー達だ。自クラブの中 の他セクション、例えばフロントであればスイミングやフィットネスのセクションを客観的に評価し、良いところや悪いところを確認し合う仕組みを作った。こ れは非常に効果的で、改善が進んだ。スマイルシステムの仕組みそのものを考え直すのではなく、サービスリーダーの自分たちがどうあるべきかといった本質を 考えての施策となった。このような自主的な取り組みが各クラブで生まれつつある。
セクション間の連携により新規入会率の向上を実現
MSRの分析から、フロントやトレーニングジムなど、各セクションで基本的な仕事をきちんとこなしていても、全体として連携していないと非常にもったいな い結果を生んでいることも見て取れた。スタッフがミーティングを開き、具体的にどの場面でどういったアプローチをするかを話し合い共有することでクラブの 中に改善の輪が広がった。結果、新規入会率も向上。「パートナー(アルバイトスタッフ)自身もチームとしてディスカッションに参加しているので、そこで 各々が気づきを得て、自ら考えて動けるようになったことも良い結果として現れているのでしょう」と豊田氏は捉えている。
また、長年の固定概念を崩される気付きもMSRの中にあった。「フロントスタッフの間ではお客様の入会に繋がる、決め手となる(入会のきっかけとなる)一 言をなかなか言い出せず、そこから何年も抜け出せませんでした。それが今回のMSRの結果から、フィットネスの価値に納得されたお客様は本当は入会のお勧 めをして欲しかったのだということが分かり(表1)、それに気付いたスタッフ達は改善を意識していったようです」と豊田氏。その言葉どおり、MSRの実施 後はクロージング率が飛躍的に向上した(表2)。
『帰属意識』をテーマに『生きがい創造企業』を追求
また、MSRのさらなる有効活用として、豊田氏はこうも話す。
「ここ5年ほどのスピード経営の中で、標準化に注力しすぎたという反省があります。イレギュラーが起こった時に 臨機応変な対応を取れなかったり、マニュアルや仕組みの中にないから勝手な判断をしてはいけないと捉えているスタッフがいたりもします。今期の中期経営計 画では、“標準70% 工夫30%”でのクラブ運営を目標にしています。色々な業務の中でも基本的なことにはしっかり取り組み、30%はクラブの中でいろいろ工夫しても良いとい う意味です。私たち品質管理部は、会社で決められたことがきちんと展開できているのかというところを確認していく役割を持つ一方、その他30%の工夫がで きるような体制もサポートしていかなければなりません。MSRの中にそのヒントがあるのではと思っているので、それを読み取って課題を見つけていきたいで す」。
今後同社では、HERBを各地区で開催し、それぞれの特色を踏まえて地区全体の向上を目指す方針だ。また、会社 全体の展望としては、『帰属意識』をひとつのキーワードとして取り組んでいく。身体に現れる効果だけを目的とするのではなく、「ルネサンスに来て非常に心 地良い、ここに帰って来れて良かったと言って頂ける会員の方をたくさん増やしていきたい」と武藤氏。数年かけてでもそのための仕組みを整えていくことが当 面の大きな目標だ。「まず社員や従業員に、会社に対する帰属意識を持ってもらい、次にスタッフとお客様の間の帰属意識、その後にはお客様同士の帰属意識 ――と、ステップアップしていければと思います。今年度は、継続会員を対象としたMSRもやってみたいですね。」と、武藤氏は展望を語ってくれた。
お客様にとっての生きがいだけではなく、社員にとっての生きがいをも追求しているルネサンス。順調な業績拡大の 裏で守り続けた『生きがい創造企業』の理念が30周年の節目に再び熱を帯び始め、スポーツクラブ業界のリーディングカンパニーとして、そしてヒト産業とし て、今後への期待が高まる。
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