店舗活性とCS改善のポイントは、No.2への権限委譲
東京圏駅ビル開発株式会社
東京都渋谷区恵比寿4-1-18 恵比寿ネオナート6階
会社ウェブサイト:http://www.atre.co.jp/company/
『季刊MS&コンサルティング 2009年冬号』掲載
取材:相崎哲史、文・写真:西山博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
JR東日本の駅ビル開発事業に加え、直営店シャン・ド・エルブの運営を手掛ける東京圏駅ビル開発株式会社。全15店舗を展開するシャン・ド・エルブでは、2008年6月よりミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入し、組織開発に活用している。店舗運営を統括する直営事業部でシャン・ド・エルブの運営を担当する大辻まりこ氏に、具体的な店舗活性化の取り組みを伺った。
御社では、右腕となるナンバー2の育成による店舗活性化で成果を上げられていますが、プロジェクトを開始されたきっかけと経緯を教えて下さい。
数年前から相次ぐ出店がありましたので、いつでも店長になれるような人材を育てることを目的に、契約社員、正社員を集め、計数管理、在庫管理、人材管理等の店舗運営を勉強する機会を設けたことがきっかけです。そうやって店舗運営に関する知識習得のための時間を設けてはきましたが、今後はCSにも力を入れていくことが重要と考え、各店舗のナンバー2を集めた2番手研修を始めました。内容は、外部の研修と同時進行で、各店スタッフが互いの店舗を審査して意見し合うというものでした。
しかし、2番手研修で何かを決定して店舗に持ち帰っても、やらされ感のために浸透しないという状況に陥っていました。例えば、お客様に対する挨拶を徹底するために“ウェルカムバッジ”という制度を作り、バッジを付けた人をお客様への挨拶やご案内をする専任にしようと決めました。
しかし、バッジを付けたスタッフが他のスタッフに気を遣ってストック整理などを始めてしまい、結局、お客様がいらした時には挨拶ができないという状況が発生してしまいました。こうして、何のために制度があるのかという意味の理解が曖昧であったために徹底することが困難となり、バッジの制度は廃止することになりました。誰が挨拶をする役で誰がそうでない役なのか、というようなルールの徹底ではなく、スタッフが主体的にお客様の立場に立って考える風土を作ることの必要性を感じた出来事です。
こうした問題を解消するため、2番手研修を接客会議という名称に変更し、CS向上の役割をこの会議のメンバーに託すことを決めました。研修には何かを教わって帰るという印象があり、考えることは自分の役割ではないという認識になってしまいがちです。自分の役割だと認識した上で集まり、権限を与えて参加スタッフの意見が店舗に反映されやすいようにすると、だんだんと意見が出るようになってきました。
直営事業部 大辻まりこ氏
研修やVTRでMSR導入後の成功イメージを全社で共有
このタイミングで外部の研修とMSRを導入し、接客会議を前半・後半に分け、会議体系を整えました。外部の研修は、自己開示、役割の認識などの自己啓発から、教え方、褒め方などのコミュニケーションに関する内容まで、ロールプレイングや発表を踏まえながら進めています。また、毎月のMSRの結果は、各自で気付きをまとめた上、接客会議内で時間を設けて話し合っています。
それらの成果のひとつとして先程の例を挙げると、バッジ制度の廃止の後、店舗内でエリアを区切って担当者を決め、受け持つエリア内では完璧にお客様に対応できるようにすることで、お客様に喜んで頂こうという取り組みが生まれました。接客会議が順調に進みだしてからは、こうした取り組みがいくつも生まれ、各店舗での定着・改善が図られています。
プロジェクトの中で、MSR導入のきっかけは何だったのでしょうか。
最初はテレビを見てMSRに興味を持ちました。活用のためのツールやサポート体制、スタッフのやる気が出てくるようなお客様からのコメントによって、現場に浸透するイメージが沸いたことがきっかけです。
覆面調査では、本部で設定したブランドコンセプトが実現できているか、正しい接客方法ができているか、という面のチェックも重視すべきポイントですが、それと同時に、お客様の素直な気持ちをキャッチできることも大切です。お客様の視点で見ると、本部が考えているポイントは実はあまり意識されていないことがあります。お客様が購入を決めるのは、買いたいか、買いたくないかというシンプルな基準です。MSRは、調査項目の数が豊富で具体的であることに加え、コメントが詳しく書かれているので、注意点や褒めるポイントがよく分かります。
また、導入に当たっては、他社の事例をはじめとしたMSR活用のポイントを伺い、予め研修やVTRで導入後の成功イメージを全社で共有していました。
ベストなタイミングでの導入にこだわって準備をしていましたので、御社のMSRを導入したら、きっと魔法に掛かったように皆が進んで話し合いを始め、改善のために取り組んでいくだろうというイメージを最初から持つことができました。
最後に、CSに対するお考えを教えて下さい。
駅ビルはもともと継続的に利用されるお客様が多いために、立地に甘えてしまう部分があります。しかし、数値面を見ると全体的に客単価は上昇していますが、客数は昨年対比を下回る店舗もあり、リピーターを増やす努力を余儀なくされています。
そこで、CS向上のための施策として、弊社でもスマイルアップキャンペーンを実施していますが、キャンペーンだから笑顔で接するということではなく、どういう環境であればお客様が来やすくなるか、リピーターになって頂けるのかを考えていくことが大切です。
CS向上が売上の増加に直結するものではなく、CSは手段のひとつとして考えています。
売上を上げるためにCSに力を入れるのではなく、お客様を大事にするということを純粋に追求していきたいですね。
恵比寿店ショップマスターの岩村友香氏に、プロジェクトの成果を伺いました。
研修で教わったことを店舗運営に取り入れるようになって、この2~3か月の間に、急激に店舗が変わってきました。自分自身もそう感じますし、以前からのお客様にも「雰囲気が変わったね」と言っていただくことが増えました。また、雰囲気だけにとどまらず、それが業績にも如実に反映されていて、売上も伸びています。
具体的な取り組みを挙げると、たとえば、スタッフ同士で話し合いの時間を持つことがなかなかできないので、「出勤したら、各自がその日の目標をホワイトボードに書く」ようにしています。これは、研修で教わった「自分の考えをオープンにする」という取り組みの一つなのですが、これを始めてから、スタッフの意識がガラッと変わりました。また、アルバイトのスタッフへの接し方として、「相手の話を聞いて、引き出す」ということを意識するようにしたところ、今まではすごく他人行儀だったスタッフが、「他の店ではこんな商品がありました」とか、「こういうふうに陳列を変えてみたらどうですか」と積極的に提案をしてくれるようになりました。
スタッフが変わると、すぐにお店の雰囲気も変わり、そうすると本当にすぐにお客様の数も増え、売上も上がって、そうするとさらにスタッフのモチベーションが上がって…と、おもしろいように好循環が生まれています。
MSレポートの活用と店舗活性化に向けての取り組みと事例
【ミーティングの工夫】
接客会議では、各店舗のNo.2が15~16人が集まり、4人前後のグループに分かれて議題を検討する。接客会議に店長は参加せず、話しやすい雰囲気を作ることで、積極的に意見が交わされる。さらに、必ず全員が発言できるよう、各店の取り組み状況や悩みを発表する場を設けた。接客会議の内容は、No.2が店舗に持ち帰って店長に報告・相談した後、店舗内で共有。
【目標設定の工夫(ホワイトボード)]
最初は、本部で毎月接客目標を立て、進捗管理を行い店舗に浸透させる方針だったが、スタッフ自身で年間目標を設定し、進捗管理は自身に任せるよう方針を変更したところ、自主的に3ヶ月毎の目標を設定するようになり、毎日の目標を設定する店舗も現れている。あえて自主性に任せたことで目標が意識しやすいものとなり、自分で考える習慣が付き、活動が促進した。
【MSレポート]
MSレポートの結果は、最初にNo.2へ渡される。それによって店長とNo.2のコミュニケーションに必然性を持たせている。また、モニターコメントの中で、褒められているポイントには赤いラインを、改善すべきポイントには黄色いラインを引き、気付きが得られやすいようにしている。
【MS NEWS]
MSレポートの結果を利用して、本部で毎月「MS NEWS」を作成している。MS NEWSにはランキング表と店舗の良いところがピックアップされており、各店に貼り出している。
【MS気付きシート]
接客会議では、下記ような組み合わせで作成された「気付きシート」を準備し、参加者が事前に記入した上で意見交換に活用している。何も準備せずにレポートを眺めると、どこが駄目だったかに着目してしまいがちである。シャン・ド・エルブでは、MSによる話し合いを行う前に、自分たちの良いところに着目しやすいようなフォーマットを整え、事前にMSレポートからの気付きをフォーマットに記入した上で集まったところ、話し合いが活発になった。
MSレポートからの気付き |
店舗運営に生かす事項 |
お客様目線での気付き |
スタッフに伝えたいお奨めのポイント |
お客様目線での気付き |
改善ポイント |
お客様からのお褒めの言葉 |
お店の良いところ |
過去の調査から分かる弱点 |
強化目標 |
■担当コンサルタントが語る この企業はここが凄い
株式会社MS&Consulting 相崎哲史
この企業の強みは「実行力」につきると思います。新しい情報を得て、新たなアクションに取り組もう、と考えても実行できる企業は1割に満たない、と言われています。行動に移せる企業が生き残る時代です。こちらの会社ではMSRの取り組みを始めるとともに、その効果を最大限発揮するためにNo.2育成の研修や店長向けの研修会と階層別に目的を変え、実施をしてきました。現場が動く前にまずは本部が動く、その行動力とスピードが現場の改善を支えています。その中から生まれた様々な成果とプロセスを共有するために本部が動き、現場が応える、これがチェーン化していく企業のあるべき姿なのではないか、と自分も学ばせて頂きました。
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