ミステリーショッピングリサーチを活用したライセンス展開スキーム。 「ろくまる五元豚」が、ライセンス展開を開始。
株式会社クラウドプロスパー
東京都渋谷区渋谷1-20-28 美竹41ビル1F
会社ウェブサイト:http://www.cdpr.jp/
『フードビジネス通信 2007年5月号』掲載
取材:草間淳史、砺波敬之
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
ミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)で200点満点を取って昨年6月に本紙でも紹介した「ろくまる五元豚」が、ライセンス展開を開始した。ライセンス販売のスキームでもMSRを活用し、加盟店を通してCIS(顧客感動満足)を幅広く提供していく考えだ。今回は、ライセンサーである株式会社クラウドプロスパーの代表取締役 羽中田英治氏と、ライセンシーである「ろくまる五元豚 学芸大学駅前店」オーナー 伊藤哲氏に、ライセンス展開における顧客満足度管理の重要性やポイントについて伺った。
「ろくまる五元豚」業態の特徴はなんですか?
羽中田氏:商標登録されている上州五元豚のしゃぶしゃぶをメインに提供しています。五元豚とは、5つの豚を掛け合わせて1番おいしい状態に作った豚です。豚しゃぶは、そばつゆに付けて味わう「返し豚しゃぶ」、コラーゲンスープで食べる「コラーゲン豚しゃぶ」、カレースープをベースにした「焙煎カレー鍋」、香辛料の入った火鍋「薬膳長寿鍋」の4種類。豚料理を中心に、焼酎に合う和食メニューも揃えています。冷凍食品は、できる限り使いません。料理は、調理人の温もりも加わってこそ、おいしくなるからです。
直営店は現在5店舗で丸の内のビジネス街や恵比寿の繁華街、ラゾーナ川崎という大規模商業施設などに店舗を構えています。各地域の環境に合った利用形態になっているので、ターゲットの幅が広く、さまざまな立地に適合する業態と言えるでしょう。客単価は、ディナーは平均して約4700円。ランチから営業している店舗もありますが、基本的にはお酒と一緒に料理を味わうお店なので、ほとんどの店舗の営業時間は夜のみです。
接客では、マニュアルを最重視していません。たとえば、大人のお客様と子供のお客様では話し方や接し方が違いますから、それぞれのお客様やシーンに合わせ、心を込めたサービスにするためです。もちろん、約束事はいくつかあります。例を挙げると、お客様から呼ばれた際「少々お待ちください」ではなく、「ただいまお伺いします」と返事することになっています。「少々お待ちください」だと、お客様に“相手にされていないな”と感じさせてしまうことがあるかもしれません。「ただいま伺います」なら、お客様が“邪険にされていないな”と思ってくれるでしょう。サービス思想はマニュアルに記したり研修で話したりしています。他のことについては、直営店に限らずFC店も含め、各店舗の運営方針がありますから、当社でノウハウを提供しながら、各オーナーの特徴を生かしてもらっています。
またお店の内・外装は、立地やターゲットに合った設計にしているので、各店舗ごとで異なります。全店舗に共通しているのは、落ち着ける和食業態、というテーマ。カジュアルでオーセンティックな雰囲気に仕上げています。
株式会社クラウドプロスパー 代表取締役 羽中田英治氏
伊藤氏:私は48年以上、学芸大学駅前に住んでいます。地元で業態転換店「ろくまる五元豚 学芸大学駅前店」をオープンさせていただけたことに喜びを感じ、サービス1番店を目指しています。「ろくまる五元豚」に携わる前は、批判はまったく聞いたことがなく“おいしい”という評判しか耳に入ってこなかったので、食べに行ってみたことがあります。私自身も“本当においしい”と感じました。
実際に店舗を運営してみても、入って来るお客様の声はすべて“うまい、おいしい”ばかりです。味の評価が悪いと、従業員の気持ちが萎えてしまうと思いますが、お客様から大変好評な商品力のおかげで、店舗運営の自信につながっています。サービスにもよりいっそう力を入れることができますね。
ろくまる五元豚の人気メニューは、女性だと圧倒的にコラーゲン豚しゃぶです。男性からは、“何が1番おいしいのか”と聞かれることが多いので、自分がおいしいと思う料理をおすすめしています。
「ろくまる五元豚 学芸大学駅前店」オーナー 伊藤哲氏
MSRを活用した人材育成のノウハウについて教えてください。
羽中田氏:MSRは、店長評価制度の基準や、各店舗の問題点・良い点を店長会議で判断するツールとして、活用しています。他店舗と比較できるため、店長たちはMSレポートの点数を常に意識しているようです。私は点数だけでなくコメントもよく見ています。会議では、コメントの内容について徹底的に話し合います。MSRはログインページから他社のデータも一覧表示できるので、自社のサービスが全国ではどのレベルなのかを知ることもでき、他社との比較にも大変役立ちますね。社内でも、マネージャーが店舗へ出向いて調査を行う制度があります。調査項目は、MSRを参考にして作成しました。
ライセンス展開のきっかけはなんですか?
羽中田氏:以前から、他の飲食店経営者からこの業態を展開させて欲しいという引き合いを受けておりました。MS&CにMSRの分析をお願いしたところ、居酒屋の全国平均と比較した場合、自社の料理はおいしさの点数が高いことが分かり、商品力に自信を持つことができました(図表A)。MS&Cのアドバイスから他社に真似できないキーテクノロジーがライセンス展開には必要だと感じ、「五元豚の商標登録」「店舗外での肉のスライス技術の開発」を行い、これが他社との差別化になっています。今回ご紹介しているお店は和風ジンギスカン店からの業態変更で、壁などの大部分をそのまま使うことで、内外装費を約600万円に抑えました。出店コストを抑え、業態展開したい方にとっても大きな強みになると思います。
ライセンス・スキームに関して教えてください。
羽中田氏:前述の五元豚やスライス技術に加え、しゃぶしゃぶのスープとPBのタレなど主要食材は指定です。ドリンク等の指定は特にしていませんが、「ろくまる五元豚」は豚しゃぶと焼酎のお店ですから、焼酎は本部と同じものをお勧めしています。ビールなどの主要酒類は本部一括購入で価格を抑え、各店に提供しています。グランドメニューは本部が指定しているものですが、サイドメニューは「ろくまる五元豚」に合うものなら、独自のメニューを追加できます。各オーナーの個性を出したお店にしていただきたいですね。
研修は、丸の内店で行います。研修プログラムは約1ヶ月です。調理技術のレベルが人それぞれ違うので、スキルに応じた研修を実施しています。オーナーや店長はお店の経営者ですから、店舗をどう運営していくか、スタッフとどう接するかなどの心構えを、研修店舗で体感してほしいですね。出店後にオリジナル性を出していくことや店舗独自の問題点を本部と一緒に改善していくことも、研修の一貫と考えています。もちろん定点観測として、加盟店には必ずMSRを活用して頂きます。もし3ヶ月連続150点を下回ったら、本部からの臨店指導を行い、顧客満足レベルを引き上げることになっております。
伊藤氏:実際に私も研修を受けましたが、マニュアルに添って教えるという形ではなく、自分のレベルに合わせて教えて頂いたので、短期間で吸収することができました。研修をしながら、丸の内店で働くスタッフの「ろくまる五元豚」に対する熱い思いを感じ取ることもできました。定点観測としてのMSRは、自分では目が行き届かない問題点までも具体的かつ客観的に教えてくれるので、店舗改善や安定的な業績的成果に大変有効だと感じています。
ライセンシーから見た「ろくまる五元豚」の業態特性とはなんですか?
伊藤氏:しゃぶしゃぶは、私の中では高級料理と位置付けされていました。ただ「ろくまる五元豚」の料理を味わってみて、おいしさの割に価格が安いのではないかと思いました。さらに、しっかり利益が出るうえリピーターを獲得できるノウハウを本部が持っていることもわかったので、ライセンス契約を決めたのです。 実際に運営してみて、「ろくまる五元豚」には高い商品力があると感じています。本部からのメニュー提供システムもあるため、人財育成に特化して店舗運営を行い、リピーターを獲得していけば、高い利益水準を維持できるでしょう。さらに、客観的指標のMSRにより顧客満足度の管理ができますし、万が一、MSレポートの点数が低下した場合には本部からの指導が入るので、安心して運営できます。
立地が確定している以上、売上げを安定させるには、地場のお客様に気に入っていただき、リピートしていただくしかありません。MSRは、リピーターを獲得するためにお客様からの声を収集する機能として、とても重要だと考えています。MSRの調査結果をもとに、お客様の声に真摯に応えて店舗運営を行えば、本部の指導が入るボーダーラインである150点を3ヶ月も連続で下回ることはないと思います。毎月スタッフと200点満点を目指して日々お店の方向性を共有しています。
ライセンス1号店を出店してのご感想をお聞かせください。
羽中田氏:1号店ではすばらしいオーナーさんに恵まれて、本当によかったと感じています。これから、予想しなかった問題も起こるでしょうから、何があってもやり遂げる信頼関係を深めていきたいですね。出店後は、店舗運営力=人間力を高めるのみです。研修プログラムの開発を進め、本部の指導力を高めると共に、MSRを活用した定点観測機能とリピーター獲得のノウハウを蓄積していきます。今回、実際に成功したことで、今後のライセンス展開の方向性が見えて自信がつきました。商品力や立地開発力の強化、業態開発、成功要因のさらなる強力を図り、本部の臨店指導なしでも高い顧客満足度を幅広く提供できる、優良ライセンス業態に育てたいですね。
今後のライセンス展開はどのようにお考えですか?
羽中田氏:「ろくまる五元豚」業態の出店は、関東圏なら多くても直営も含めて20~30店舗だと考えています。伊藤オーナーのように「学芸大学駅前」という地元密着の考え方をお持ちのオーナーさんにも多店舗展開をして頂けるように、2番手、3番手のライセンス業態を開発し、同エリアでも多業態で多店舗展開して頂ける形にしていきたいと思っています。なぜならば当社は業態開発力で勝負しているからです。
伊藤氏:まずは「ろくまる五元豚 学芸大学店」の成功に向かって努力していきたいですね。株式会社クラウドプロスパーの業態はどれも信頼できて、自分の自信にもつながります。「ろくまる五元豚 学芸大学駅前店」の運営に携わり“1店舗ずつ大事にしていく”という考え方ができるようになりました。信頼関係を作り上げたうえで、2店舗、3店舗と、違うブランドを経営していくのも、面白いと感じています。
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