お客様は絶対だけれども絶対ではない。 絶対視するな。自分の経験や感性を活かして接客してほしい。

株式会社サッポロライオン

東京都中央区日本橋本町2-6-3 小西ビル


『フードビジネス通信 2007年5月号』掲載
取材:児玉彩子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

ビヤホール銀座ライオンを中心に、全国で直営192店、FC2店舗(2007年4月23日時点)を展開し、108年の歴史を持つ(株)サッポロライオンは、2006年5月よりミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を導入。お客様の喜びを通じて社員の喜びを実現する、その理念のもと様々な取り組みを社内で行い、団塊の世代から現代の若者まで幅広い顧客層から支持を得ている。今回は「108年の歴史を背負う」株式会社サッポロライオン代表取締役社長の山崎社長にお話を伺いました。

昨年よりMSレポートをお使い頂いておりますが、MSレポートについてどのような感想をお持ちでしょうか?

CSは企業の存続に関わるファクターであると考えています。MSレポートはCSを高めるきっかけとして非常に重要なものだと思います。御社との出会いを本当に嬉しく思います。また、実は当社の歴史を考えると「CSを高める」ということは一言では語りつくせない非常に意味深いものがあります。


社長就任後に行ったことについてお伺いしても宜しいでしょうか?

私が社長に就任したのが創業104年目。4期連続赤字の後の就任でした。その頃は「ビヤホールは古いもの」「業態疲労している」「流行に合わせてお洒落なものにすべき」といった風潮が社内でも強かった。しかし、私が抱いたのは、「ビヤホールは本当に古いのか?」という疑問でした。ビアホールが業態疲労しているのではない、ビヤホールという業態を疲労させてしまっているのは、我々社員である、それが自分の出した答えでした。104年続くビヤホールという業態は真理であり、普遍性であると考えました。この真理をゆがめているのは自分たちだったのです。ビヤホールの真理、それは「美味しいビール」、そして唐揚げやポテト、ウインナーなどメニューを見なくとも頼める商品。いくらビールが美味しくともお洒落であろうとも、これらのメニューが不味ければその店は駄目であると考えました。そこでライオン10種というビヤホールの定番メニューを徹底して検証・改善を行うことにしました。すると各店でライオン10種の味・形状が異なっていたり、材料の産地がバラバラ、などの問題が徐々に見えてきたのです。ライオン10種の商品力強化を行うことから改革が始まりました。

その後、サービス面ではビヤホールにお客様が求めているのは「元気で」「フレンドリーで」「明るい」接客、それを全従業員で再認識することで活気が出てきました。効果は目に見えて表れてきました。銀座七丁目店→五丁目店→新宿店→新橋店…と業績が上がってきたのです。この商品+サービスの改善を起爆剤として「ビヤホール」は復活。外食の総需要も落ちている中で既存店の売上高が3年連続で前年比を上回るということはもの凄い自信になりました。

今ではかつての声とは変わって、「ビヤホール業態を新しくつくらないのか?」という声が社内外から出てくるようになりました。今後も既存店の復活と新業態の開発による企業規模の拡大という2点が当社の戦略課題と捉えています。


御社の長い歴史と社長の就任からの復活劇、壮大なお話ですね。そこから学び取られた一番のポイントは何だったのでしょうか?

最も反省した事は「私たちはお客様のために」と言う、しかし「本当にお客様の声を聞けているのだろうか?」ということでした。まずお客様相談センターをつくり、顧客の声を聞くようにしたのです。そこには基本的には苦情が集まりました。それらのクレームを全ての社員にオープンにし、どうしたら同じクレームが起きないか、解決策を含めて全社員で情報を共有したのです。

しかしそれだけでは、苦情ばかりが多い会社に見えてしまいます。そこで設立したのが「感動情報共有センター」でした。感動事例を共有することで、俺はこの会社にいてよかった、あるいは、飲食業にいて良かった…と思うはずだと考えたのです。そうすると、社内から感動的な話が次々と出てきたのです。その感動事例に私もこういう感動を発信したいというメッセージが帰ってくる仕組みとしました。それが出来る社風だったのです。自分自身、「うちも捨てたものではない」という感動を覚えました。また、ここで出会ったのが御社でした。MSRというお客様の声を直接伝え、そこから従業員のコミュニケーションを促す仕組みとして活用をさせて頂きました。最初にも申し上げましたが、CSは企業の存続に関わる大変重要なファクターです。当社のビヤホール復活も、お客様の満足があってこそ成し遂げられたものでした。当社の理念である「Joy of Living」の言葉のもと食を通じて喜びを生み出し、お客様の喜びを通じて社員の喜びを生み出す。この目的のために、当社は日々新たな取り組みを創造し続けているのです。


「顧客満足が重要」は本当にその通りだと思います。
顧客満足の前提となる従業員満足については何か取り組みをされていますでしょうか?

従業員満足を高めるというのは言葉では簡単ですが、かなり難しいことだと思っています。若い人に意見を聞くと、当社で働いているのはお金という理由だけではありません。働き甲斐、やり甲斐、そういったものが重要という声が聞こえてきます。中には会社へ提案したい、ということを言ってくれる社員もいます。そうした声を聞くために、年に3回社長座談会というものを始めました。そこで若いメンバーが会社に提案しててくれて、提言としてまとめてくれるのです。そのことで事業部や地区を越えて話すことが可能となっていると思います。その他にも、女性メンバーだけの改革プロジェクトを行っています。当社の女性社員数は少ないのですが、何とかして女性が組織の中で活き活きと働けるようにしたいと思いました。また、日本の人口の半分は女性、そのマーケットを開拓したいと思いました。そこで立ち上げたのが「リボン・プロジェクト」です。昨年4月に、女性マーケットの開拓、既存店の改善、社内の意識改革などを目的として発足しました。メンバーには初めから権利を主張するとこう着状態になりますので、まず結果を出して、そこから少しずつ変えていきなさいと話しました。

「リボン・プロジェクト」は当社で行っている業態開発グランプリで見事グランプリを獲得しました。(業態開発グランプリ…全69業態の応募があり、一次の書類審査、二次の社内プレゼン(20業態)を通過し、全国の支配人、設計会社の方が審査員となったファイナルプレゼンによりグランプリを決定する)提案業態は「おんなのこ おひとりさまで おさけとしっかりごはん」というコンセプトの丼をメイン商品においたカフェテリア「DON Cafe」です。現在、出店実現へ向けて物件を探しています。 その他にも、ビジョンプロジェクト、海の家開催、みかん狩り、全国ボーリング大会、8月4日ビヤホールの日、お客様からの作文コンクールなど、従業員から上がってきたアイデアや提案を実現させています。

また、MSRを使った取り組みとしては、ただレポートを全従業員の皆さんに見せるだけではなく、MSR Communication(毎月発行するミステリーショッピングリサーチ新聞:図表A)、全従業員の皆さんに対するMSレポートの意識調査(図表B)を当社独自の方法で行っています。MSR Communicationの紙面では、その月の全店舗ランキングや「輝いているスタッフ」の写真とコメント、お客様の感動事例などを記載し、全店へ発行しています。

毎月発行するミステリーショッピングリサーチ新聞


こうした取り組みを通じて理解してもらいたいのは、「お客様にも色々な感動情報やストーリーがある。そういう方がうちのお店にご来店されているのだな…。」ということです。全従業員の皆さんには人の人生に深く関わっているということを実感して頂きたいと思います。そうすることで社員だけでなく、アルバイトの方も含め、当社に関わる全ての人に成長してほしいと思っています。


素晴らしい取り組みをされていますね。またその背景にあるお考えあってのこの取り組み、成果だと思います。今後の御社の課題をお教え下さいませんでしょうか。

基本的な答えかもしれませんが、気配りです。自分は精一杯やっている、では、どうしてそれがお客様に伝わらなかったのか…を考えてほしい。徹底してほしいと思います。それがまだ足りない部分が当社にはあります。お客様は絶対だけれども絶対ではない。絶対視するな、と言っています。どんな場面でも自分の経験や感性を活かして考えてほしい。自分の頭で考え、自分なりのやり方でお客様に接してほしいと思います。


感動事例:感動情報共有センターよりNO.629

●車椅子のAさん(相鉄店・N副支配人・男性・32歳)

「兄貴の言葉がここまで解るなんて…。兄貴のこと、これからも宜しくお願いします。」その弟さんの言葉に、「…任せて下さい。」と涙ながらに答えるのが精一杯でした。

当店には車椅子でご来店されるAさんという常連客がいます。Aさんは、ほぼ毎日お一人でご来店されテーブルに置いたままのビールを、手で持てないためストローで飲むのが日課です。

Aさんは、麻痺により身体の自由がほとんど利かなく、言葉の発音もままならないために、どうしても話していることが解らずに、アルバイトが困惑することもしばしば。私も当初は戸惑ったものの、Aさんは恐ろしいほどの明るい方で、何回も話を聞き直したりしながら、段々とコミュニケーションが取れる様になりました。

そんななか約3年もの間、ほぼ毎日ご来店されるAさん。常に明るく、耳にピアス、煙草も楽しみ、飲むビールは5杯以上の酒豪。障害を持つ悲壮感など微塵も感じないその人柄に、スタッフの人気者。

今ではお店手前50mから、『シャーッ』という車椅子の音が聞こえれば、スタッフ全員「Aさんのお席準備!」と気配で分かるまでになっています。底抜けに明るいAさんに、スタッフ皆ほとんど友達感覚で付き合うまでになりました。

先日、そんなAさんから初めて予約を頂きました。いつもお一人だったAさんからは珍しく、4名様でのご予約でした。ご来店されるとAさん以外の3名は健常者の方でした。とても楽しそうにご飲食をされるなか、そのなかの一人の男性が私に声を掛けてきました。「実は俺、Aの弟なのです。いつもありがとうございます。」

Aさんは3人兄弟の長男、ご予約は一番下の28歳の弟と従姉妹の女性2名でのご利用でした。その日、いろいろな身の上話をAさん達から伺いました。長男のAさん、そして次男の30歳の弟さんも障害をお持ちということ。20年前にご両親が亡くなり、ご苦労されたこと。今はAさん、次男ともに障害を持ちながらも自立をし、一人暮らしをしていること。トイレから帰ってくるAさんが、私にこう言いました。(こんなスムーズに話していませんので、私なりの訳です。)

「兄弟で障害が無いのは、弟だけなんだ。迷惑掛けたくないんだけど、なかなか結婚できないのは俺のせいかもな。やっぱり相手の親御さんに、婿の兄弟に障害者がいるなんて知れたら迷惑だよね。両親もいないし。」

そんな言葉に返す言葉を失いました。初めて見せたAさんの悲壮な表情。その言葉の重さ、健常者には分からない今までの苦労、それらを感じさせず底抜けに明るく、当店のスタッフと触れあい、むしろ健常者である我々が元気をもらっているほど…。いつも明るいAさんの初めて見せたギャップに、深く考えさせられました。

そして帰り際に、弟さんが私に掛けた冒頭の「兄貴の言葉がここまで解るなんて…。兄貴のこと、これからも宜しくお願いします!」入社して10年、初めてお客様の前で涙ぐんでしまいました。

次の日もAさんは変わらず、『シャーッ』という音を響かせライオンにやってきます。そして、こう言ってくれました。

「ライオンの皆が好きだから。ライオンのビールが好きだから。」


お客様の声 (社内新聞MSR Communicationより抜粋)

【羽田空港店】

他のライオンさんの店舗も利用したことがありますが、店員さんの対応の様子は今回の店が一番良かったと思います。店員さんたちの気配りとチームワークの良さがとても目立ち、印象に残りましたので、今後も変わらずにいって欲しいと思います。また行きたいです。


【銀座七丁目店(1F)】

海老原さんにビールを入れて欲しいということを言うと「今日はお休みなんですよ」と申し訳なさそうに言ってくれたり、伝統のカミカツの商品や、商品の提供の際にもテーブルにスムーズに置いてくれたり、とても気のつく嬉しいサービスを沢山してくれました。お店の外に貼ってある、アルバイト募集のポスターにも載っている方のようでした。

【銀座二丁目店】

素晴らしい接客姿勢で、常にお客様への気配りをされている様子が伺えました。他の店ではここまでしてくれてることは少なかったです。 その他、金城さん、餅原さんにも対応して頂きましたが、両名とも素晴らしい接客姿勢です。

【地下鉄名駅店】

接客態度が非常に良かったです。 頼んだすぐ後にもまだメニューを見ていると、別のスタッフさんがオーダーを聞きに来てくれたぐらいでした。 また、ビールを頼むとくじ引きが引けました。それによってスタッフさんともコミュニケーションがとれて非常に好印象でした。 また、くじ引きの時に「頑張って下さい」や「賞が当たったらすごいですね」といった感じに声をかけて下さって気持ち良かったです。


記事のPDFをダウンロード



この記事を読んだ人は、こんな記事も読んでいます。

無料メルマガ会員に登録すると、メールマガジンで
「最新記事」や「無料セミナー・イベント」
情報が届きます!

pagetop