「また来たい」と思ってもらえるゴルフ場を目指して
鹿沼グループ
取材:廣瀬 鮎美
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
栃木県を中心に「鹿沼カントリー倶楽部」「鹿沼72カントリークラブ」「富士御殿場ゴルフ倶楽部」「栃木ヶ丘ゴルフ倶楽部」の4つのゴルフ場を運営する、鹿沼グループ。設備産業の側面が強く、メンバーを中心とした特殊な顧客構造を持つために、サービスの品質や顧客満足度の向上に関する意識や取り組みが他のサービス産業と比較すると遅れがちなゴルフ場業界にあって、いち早くその重要性に着目。「『また来たい』と思ってもらえるゴルフ場」をビジョンとして掲げ、その具現化に向けた施策の一つとして2014年よりミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入。中でも「新規顧客のリピート化」を重要テーマと位置付け、現場のマネージャーやスタッフも主体的に参加した取り組みを展開している。一連の活動を推進してきた代表福島範治氏にお話を伺った。
最初に、現在のゴルフ場業界の状況について教えていただけますか。
少子高齢化によるプレイヤーの減少、いわゆる「ゴルフ業2015年問題」に直面しています。昨年度発表されたゴルフ人口は720万人で、ピークの6割くらいです。一方でゴルフ場の数はそれほど減少しておらず、低価格で大量集客するようなスタイルのゴルフ場も出てきて、価格競争も起きています。
もともとゴルフ場は装置産業の側面が大きく、また会員権ビジネスがありましたから、コースさえ良ければ接客が悪くても食事が悪くても関係ないという、サービス軽視の風潮がありました。
しかし私たちはそうした考えとは一線を画し、真のサービス業としてお客さまに満足していただき、「また来たい」と思ってもらえるゴルフ場を作っていこうという理念を掲げて取り組んでいます。
鹿沼カントリー倶楽部
CS重視の経営に取り組まれるようになったきっかけは、どのようなものでしたか。
私がそれまで勤めていた銀行を退職して、父が社長を務めていた鹿沼グループに入り、債務超過状態に陥っていた会社の再建を始めたのが平成11年のことです。その後、再建が軌道に乗り始めたというときに、今度はメインバンクの足利銀行が国有化され、継続支援を受けられるかどうかが不透明な状況となり、民事再生法を申請する決断をしましたが、3年後には予定通り再生手続き終了決定を受けることができました。
再建に取り組むにあたっては、メンバーの皆様や地元の方々にさまざまなご支援・ご協力をいただきました。そうした方々に「(当社が)残って良かった」と思っていただきたい、そのためには「素晴らしいゴルフ場になった」と言われる改革をしないといけないという思いが、CS重視に方針を転換した最大の理由であり、原動力でもあります。
具体的には、たとえばそれまでは土日は可能な限りお客さまを入れていました。非常に混雑しますので当然クレームも増えますが、とにかく売上が増えれば良いという発想でした。しかし方針転換後は入場数を制限して、その分、平日の売上を伸ばすための取り組みをしながら、満足度を高めていく施策を行っています。
CS重視の取り組みを始めてから、厳しい目を持つメンバーのお客さまからもお褒めの言葉をたくさんいただけるようになったと言う(鹿沼カントリー倶楽部メンバーズラウンジ)。
CS向上のための施策としてMSRを選ばれた理由をお聞かせください。
MSRの導入を決めた理由は、大きく二つあります。
一つは、冒頭申し上げた「また来たい」と思ってもらえるゴルフ場を目指すために、来場されるお客さまがどのような部分で何を感じられるのかどこでお客さまが「また来たい」と思って下さるのかを具体的に知りたかったからです。選択と集中をしていくための見える化ツールとして、MSRは魅力的でした。もう一つは、これまでメンバー様重視の経営をしてきましたが、冒頭申し上げたように「ゴルフ業界2015年問題」が到来し、メンバー様だけではなく、新規のお客さまにリピーターになっていただくための取り組みもしていかなければならないという環境下で、まずは新規のお客さまの目線を学ぶ必要があると考えました。メンバーのお客さまであれば基本的には過去の(当社のゴルフ場での)経験との比較になりますが、ゲストや初来場のお客さまは他社での経験との比較になります。当然ニーズも違ってきますから、その違いをしっかりとキャッチする上で、MSRは最適だと思いました。
老若男女問わずゴルフ場とゴルフに興味を持っていただくことを目的に、鹿沼72カントリークラブで開催された体験ふれあいイベント「ごるふぁみふぇすた」。
実際に導入されて、どのような変化や成果が生まれましたか。
具体的な取り組みとして大きなところでは、新規のお客さまへの対応方法を作りました。ゴルフ場では、フロントだけではなくコース上やレストラン・売店など、お客さまとの接点が多岐にわたっており、その全てで適切な対応をするためには、新規のお客さまであることを全スタッフが知っておく必要がありますので、まず署名カードに「初めて来場されたお客さま用のチェック欄」を設けました。ここにチェックが入ると、フロントスタッフがシステムに入力し、そのデータが全館で共有される仕組みです。このデータをもとに、たとえばフロントではロッカールームのご案内をしたり、レストランではお勧めメニューのお声がけをしたりと、初来場のお客さま向けのインフォメーションに役立てている他、お帰りの際には手書きのメッセージカードをお渡しして、「ぜひまたご来場下さい」という気持ちを伝えています。
しかし、私が一番の成果だと感じているのは現場スタッフの意識の変化です。サービス向上ということに関してスタッフの意識が高まり、自主性・積極性が増したことで、MSRのレポートをもとにアイデアを出し合い、チャレンジして、うまくいけばその成功事例を部門やコースを越えて共有するという、PDCAサイクル(Plan‐Do‐Check-Act Cycle)を自分たちで回せるようになりました。
そうした動きの大きな契機となったのは、MSRを導入する際に御社にやっていただいた研修です。MSRというのはひとつのツールですが、そのツールをなぜ今導入するのか、それを使って私たちは何を目指すのかというところを非常にわかりやすく説明していただきました。共通言語ができたことで、その後の取り組みが非常にスムーズに、また活発になりました。
ただ、現在はまだマネージャー陣が中心ですので、今後はこうした動きが若手のスタッフにもどんどん広がっていけばと思っています。
署名カードに初来場客用チェック欄を設け、その情報をフロント、コース、レストランといった全館で共有。それぞれの場所で、新規客向けの対応を行う。
CSということにまだ目が向いていないゴルフ場も多い中で、かなり先進的な取り組みをなさっていると感じます。
弊社がお客さまの声を聞くために使っているツールは3つあります。一つ目が、メンバーの方への郵送アンケート。会報や優待券を送る機会を利用して年に1回アンケートを同封し、要望や改善事項を集めています。二つ目が、新規・ゲストのお客さまの声を聞くためのツールとしてMSR。そして三つ目は、スタッフがお客さまから伺ったことをカードに転記した「お客様の声カード」です。
このカードの当初の目的は、直接お客さまと会う機会のないコース管理スタッフや調理師にもお客さまの声を届けて、モチベーションを上げたいということだったのですが、最近ではお客さまとのコミュニケーションツールとして活用されるようになってきました。つまり、以前はお客さま同士の会話に意識を向けることで声を集めていたのですが、最近では「コースはいかがでしたか?」「お食事の味はいかがでしたか?」と直接お伺いし、そのときにいただいたお話を書くようになってきたのです。こうして記入したカードは全部クラブハウスに貼って、毎日の朝礼で発表します。今では一カ月で300~500枚のカードが集まります。この取り組みを始めた当初は「忙しくて書いている暇がない」といった文句もあったのですが、最近はみんないろいろな工夫をして、少しでもたくさんのカードを書こうという雰囲気になってきています。
カードの数が集まるようになってきたということは、スタッフの皆さんが自発的に、楽しんで取り組まれているからでしょうね。
「一人最低何枚」といったノルマでやっているわけではありませんので、そう捉えても良いのかなと思います。
同様に営業会議も運営方法を変えまして、以前は数字からだったのですが、今はまずこのお客さまの声から初めて、MSRのレポートをみんなで読んでワイワイやって、最後に数字という順番にしました。「数字のための品質」ではなくて、あくまでも一番は品質、その品質を継続するために数字も必要という考え方になりました。
栃木ヶ丘ゴルフ倶楽部
若手スタッフのお話が出ましたが、御社は近年のゴルフ場では珍しく、新卒採用を毎年続けていらっしゃいます。
ゴルフ場業界で継続的に新卒採用に取り組んでいる会社は数少ないと思いますが、弊社では8年間新卒採用を続けており、現在では正社員の4割がそうした若手プロパーのメンバーです。「ゴルフ業界2015年問題」を根本的に解決するためには、若手のゴルファーを増やしていかなければなりません。そしてそのためには、同じ若い世代の目線が大事だと考えています。そこで、彼らが中心となって次世代のゴルフ場を考えるプロジェクトチーム「若プロ」を結成しました。「入社3年目以上、30歳以下、役職がサブチーフ以下」という条件で、各ゴルフ場の対象者全員に募集をかけ、集まった有志のプロジェクトです。みんな真剣に議論をしてくれ、時にはぶつかりあうこともありますが、所属の部署を超えた横のつながりができて、何かあったときに相談しあえる仲間ができたことが良かったと言っています。
今後は、若手メンバーにもっと責任と権限を渡していかなければなりません。どうしても過保護になってしまう傾向がありますが、権限委譲をし、責任ある仕事を任せていくことが、若手メンバーを育てていく上での課題となっていくと思います。
個人的には、経営危機を乗り越えて少し落ち着いてきたために、大企業病とでも言うのか、ベンチャースピリットみたいなものが少し薄れてきている感じもしていますので、ここでもう一度しっかりと見直しをしていかなければならないと考えています。
若手ゴルファーの開拓を目的として、各ゴルフ場の若手有志メンバーで結成されたプロジェクトチーム「若プロ」。次世代のゴルフ場のあるべき姿を考え、取り組んでいる。
最後に、今後に向けての抱負をお願いします。
他のゴルフ場での成功事例を取り入れるという待ちの姿勢ではなく、弊社が先陣を切ってでも、積極的に新しい取り組みをしていかなければならないと感じています。子供向けのイベントや、今日お話ししたような、貴社の力を借りて取り組んでいるサービスの生産性の向上など、現在業界内で注目されるようになってきた取り組みに、弊社ではいち早く取り組んでおりますが、今後もそうした姿勢が必要だと思っています。
ゴルフ場というのは新しいものをそうそう作れませんから、参入障壁が高く、その分既存のゴルフ場は守られてきました。新しい取り組みをしなくても、何とかなってきたという面があります。
しかし、ここ10年くらいで外資系の大手企業などの参入もあり、ゴルフ場業界にもこれまでになかったような競争が生まれてきています。こうしたサバイバル時代の中で、いろいろなチャレンジを続け、業界を変えていけるくらいのグループになっていきたいと思っています。
鹿沼グループ代表の福島範治氏。「『また来たい』と思ってもらえるゴルフ場」をビジョンとして掲げ、さまざまな施策を推進してきた。