ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)とは?全項目一覧も解説!
「ISO30414」は、人的資本に関する情報開示の国際規格です。自社で人的資本の情報開示を進める際の指針となるのはもちろん、人材戦略を検討する際のヒントにもなるガイドラインです。本記事では、「ISO30414」とはどのようなガイドラインで、企業はどう活用すべきなのかを、全項目一覧とあわせて紹介しています。自社の人材マネジメントを深めるきっかけとしてご一読ください。
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ISO30414とは?
ISO30414とは、2018年に ISO(国際標準化機構)が発表した、人的資本報告(Human Capital Reporting , HCR )のためのガイドラインです。自社の人的資本に関する情報を、社内外のステークホルダーに向けてどのように開示すべきかの指針が11項目58指標で紹介されています。事業のタイプ、規模、性質、複雑さにかかわらず全ての組織に適用できるガイドラインとされています。
【関連サイト】ISO30414(英語サイト)
ISO30414はあらゆる企業で活用できる
では、自社の人材戦略にISO30414をどのように活かせばいいのでしょうか?ISO30414との向き合い方や活用方法を確認していきましょう。
●ISO30414への準拠は必須ではない
日本でも、上場企業においては人的資本の情報開示の義務化が始まりましたが、開示内容は2023年1月31日に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令」に規定されており、自社の人的資本の情報開示を進める上でISO30414への準拠は必須ではありません。
【関連記事】人的資本の情報開示義務化とは?開示のポイントから好事例まで簡単解説
●ISO30414はあらゆる企業で活用できる
(1)上場企業
しかしながら、 上場企業にとってISO30414に準拠した人的資本の情報開示に取り組むことは重要です。国内外の投資家が経営における人的資本の重要性について強い関心を寄せており、ISO30414に沿った義務化の流れが進む可能性があるからです。
また、ISOは国際的なガイドラインです。特にグローバル展開している企業、グローバル展開を見据えている企業においては、今のうちから国際的なガイドラインであるISO30414に準拠しながら、もしくは、その一部を取り入れながら人的資本の情報開示に取り組むことが望ましいといえます。
(2)人事部や教育部
ISO30414には人材マネジメントに関する指標が網羅的・体系的に整理されており、人的資本の情報開示の義務化の対象ではない企業にとってもヒントが詰まったガイドラインとなっています。 自社の人材戦略を考えるうえで、ISO30414を意識的に取り込んでいくことが理想です。人事部や教育部など人に関わる仕事をしている方はISO30414の内容を押さえておくことをおすすめします。
ISO30414の全項目一覧
ISO30414 には、ステークホルダーの関心が高く、また、良質な人材を基盤とした経営に必要な人的資本に関する11項目58指標 がカバーされています。
まず、大きなカテゴリーが次の11項目にわかれています【図1】。「スキルと能力」「後継者育成計画」といった人材育成に関する項目から、「ダイバーシティ」「組織文化」といった戦略項目まで、良質な人材マネジメントを目指すために必要な11項目がまとめられています。
【図1】ISO30414の11項目
1 |
コンプライアンスと倫理 |
2 |
コスト |
3 |
ダイバーシティ(多様性) |
4 |
リーダーシップ |
5 |
組織文化 |
6 |
組織の健康・安全・福祉 |
7 |
生産性 |
8 |
採用・異動・離職 |
9 |
スキルと能力 |
10 |
後継者育成計画 |
11 |
労働力の解説 |
そして、これら11項目それぞれの状況を数値で計測できるようにするために「58の測定基準(メトリック)」が定められているのがISO30414の 特徴です【図2】。これにより、採用や教育といった人材マネジメントに関する活動の成果を感覚ではなく、数値で評価・検証することができます。
例えば、ISO30414で提唱されている採用活動を数値化するための指標を見てみましょう。採用力をあらわす 「募集ポストあたりの書類選考通過者数」「採用社員の質」といった指標だけでなく、スピードを評価するための「採用にかかる平均日数」や、重要ポストの人員不足状態を可視化するための「全欠員ポストのうちの重要ポストの割合」「幹部候補の準備度」といった指標まで網羅的に整理されていることがわかります。
【図2】11項目58指標
※出所:経済産業省 「事務局説明資料(経営戦略と人材戦略)」より弊社翻訳
このように、人材マネジメントに関する指標が網羅的・体系的に整理されているのがISO30414です。ISO30414の認証取得を考えていない企業であっても、ISO30414の11項目58指標に沿って自社の状況をチェックすることで多くの気づきを得ることができます。人材に関わる業務を担当している方にはぜひ有効活用していただきたいと思います。
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ISO30414に準拠した情報開示のメリット
では、ISO30414に準拠した人的資本の情報開示には、どのようなメリットがあるのでしょうか。ISO30414を活かした人的資本の情報開示のメリットを確認しておきましょう。
●ステークホルダーへの効果的な情報開示
これまでも「統合報告書」の中で人的資本の情報開示は行われてきました。しかし、書式が企業によってバラバラだったり、定性的な記載が多かったりなど、過去との比較や他社との比較が難しい傾向にありました。ISOは地域や産業を超えて通用する国際規格を制定している組織です。企業はISO30414に準拠して人的資本の情報開示を行うことで、国を超えて投資家をはじめとするステークホルダーに理解しやすい情報開示が可能になり、ステークホルダーとの信頼構築に役立ちます。
●人材データの戦略的な蓄積が進む
ISO30414に基づいて人的資本の状況を数値化するには、人材データの整理と蓄積が必要です。利用しやすい形で人材データが蓄積されることは、企業にとって大きな財産となります。これにより、データに基づいた経営判断が可能になり、人材戦略を成功させるための重要な基盤となります。
●より戦略的に人事施策が行える
ISO30414は「労働力の持続可能性をサポートするために、組織への人的資本の貢献を考察し、透明性を高めるため」に発行されました。人的資本の状況を数値化することで、課題を見つけやすくなり、効果的に人事施策を行うことができるようになります。また、人事施策が機能しているかどうかそのパフォーマンスの客観的な効果測定も可能になります。
企業戦略における人的資本の重要性がますます高まっています。国際的な規格であるISO30414に準拠して、自社の人的資本を考察することには大きなメリットがあると言えます。
ISO30414の今後の動向
ISO30414は、2011年に設立されたISOの専門委員会である「TC260(Technical Committee 260) 」が生み出しました。ISOには300を超える専門委員会がありますが、TC260はヒューマンリソースマネジメントに関する国際規格を専門的に検討・開発・発行する組織です。日本はこのTC260に、これまでは「Oメンバー※1」として参加していましたが、2023年2月から「Pメンバー※2」に昇格して参加をしています。
PメンバーはISOの規格づくりに積極的に関わるメンバーを意味します。日本は「人への投資」という政策の下、人的資本マネジメントの国際規格づくりに積極的に関わる姿勢を持っているということです。ISO規格内容は時代にあわせて数年毎に更新されていきます。今後も、ISO30414の動向を継続して追っていくことが重要になります。
※1:Oメンバー(Observer Member)、投票権がないオブザーバー参加者。
※2:Pメンバー(Participating Member)、投票権がある積極参加者。
まとめ
人的資本の情報開示は世界規模での潮流です。ISO30414に準拠した開示を行うことは必須ではありませんが、国際規格であるISO30414に基づいて、もしくは、その一部を取り入れて開示にはメリットが複数あります。また、人材マネジメントについて網羅的・体系的に整理されたISO30414は、人材戦略を考察する上でも大きなヒントになります。自社にうまく取り入れて活用していきたいものです。