新人離職率50%→10%を実現、スタッフの専門性と働きがいが高まる「事業部制」の取り組み
首都圏でサービスステーションをはじめ、車検事業、コーティング事業など、自動車関連サービスを展開するヤマヒロ株式会社。同社は、各店舗で訴求するサービスを絞り込む事業部制を採用。スタッフの専門性を高め、2013年から2021年の8年間で売上総利益をおよそ2倍にまで引き上げました。2023年には経済産業省が創設した「おもてなし規格認証」において、最上位認証である「紫認証」を受賞。そんな同社に、受賞に至るまでの背景や業績を伸ばし続けている独自の取り組みについて、お話を伺いました。
新しいことに挑戦し続けるからこそ、生き残れる
―「おもてなし規格認証」に取り組んだきっかけを教えてください。
山口社長:当社は日本経営品質賞に取り組んだことで、経営面はもちろん、様々な点でプラスの影響を受けました。そんな中で、おもてなし規格認証について知る機会がありましたが、日本経営品質賞が組織全体を審査するものであるのに対して、おもてなし規格認証は一つひとつの店舗の審査もある点が特徴でした。各店舗の質をアップグレードする機会になると判断し、取り組むことを決めました。
※お話を伺った、代表取締役 山口氏(右)、取締役販売部長 伊藤氏(左)、経営企画室 室長 青山氏(中)
—業績が好調です。そのベースにある「事業部制」について教えてください。
山口社長:燃料販売だけでは収益が成り立ちづらくなり、ガソリンスタンド事業は転換期を迎えています。社長を代替わりした時、ある程度は仕組みで売れるようにしなければならないという危機感を持っていました。
そんな時、店長会でふと疑問に思ったことがありました。店長が数人ずつのグループに分かれて、「今月の販売収益をどう達成するか」を話し合うのですが、毎月同じ結論で終わるんです。例えば、「点検を500件します」「車検のチラシを100枚配ります」などですが、結局次月になってもそこから発展がないのです。議論に発展がなければ、売上の発展も見込めない。
その時、得意分野や設備など、店舗によって状況が大きく異なる状態で議論しても、それなりの結論しかまとめられないのではないかと気づきました。逆に言えば、似通った店舗同士の議論に変えることができれば、深い知識を貸しあうことができ、お客様に寄り添った、より本質に迫った結論が生み出されるのではないかとも感じました。この時の、気づきが、得意分野別の店舗グループをつくるという、事業部制の発想のもとになっています。
そこから事業部制を進めていきました。燃料販売に加えて、車検、洗車、コーティング、保険とひとつの店舗で何でも販売するのをやめて、各店舗をグループに分け、手がけるサービスと手がけないサービスを決め、専門分野を磨けるようにしたのです。
現在は、3つの区分けで店舗をグループ分けしています【図1】。
【図1】ヤマヒロを支える事業部制
—思い切った決断です。勇気がいりませんでしたか?
山口社長:今までと違う売り方をするのですから、数字が一時的に落ちる覚悟が必要でした。しかし、各店舗の専門性を追求したことが、今では様々なプラスを生み出しています。
例えば、先日のキーパーコンテスト(コーティングの施行技術を競うKeePer技研が開催するコンテスト)では、なんと入社3年目のスタッフが東京チャンピオンを獲得、全国大会のファイナリストになりました。サービスを絞り込むことで、スタッフの専門性が育ち、外部からの評価が高まり、お客様からは「ぜひやってほしい」と言っていただける。業績が安定して伸びる土壌が、事業部制だと考えています。
サービスを絞り込むことで、スタッフの働きがい・定着率が改善
―事業部制はスタッフには、どのような影響を及ぼしましたか?
伊藤取締役:スタッフの専門性が高まりました。特に入社1〜2年目の社員の成長スピードは格段に速くなりましたね。スタッフが早期に仕事に自信を持てるようになったことで、入社1年以内の離職率も、5割ほどあったものが、現在は1割前後となり、数値にも表れてきています。
青山氏:私が新人だった頃は、車に詳しくない自分が、車に詳しい人ばかりの中に混じって、店長になれるイメージが持てませんでした。しかし、その後に事業部制が始まり、必然的に覚えるべきことが絞られ、私は外装の専門家としての自信をつけ、4年目で店長になることができました。事業部制がスタッフ一人ひとりの可能性を広げてくれている面は確実にあると思います。
― スタッフの働きがいという面では、弊社の従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」にも取り組んでいただいています。活用を通した変化を感じますか?
伊藤取締役:当社には社員主体で運営する部門横断型のワーキンググループが5つあるのですが、そのうちのひとつ「従業員重視ワーキンググループ」が、従業員エンゲージメント調査の結果を踏まえ、働きやすい職場環境づくりを推進してくれています【図2】。また、1年半前から、チームアンケートの結果を店長評価に加点ポイントとして加えています。店長の意識が変わりましたね。アルバイトスタッフの離職率は低下していますし、学生のアルバイトが社員として入社したいと申し出てくれる件数も増えています。
【図2】部門横断型ワーキンググループ(WG)
次世代につなぐ組織づくり
—事業部制を導入されてから約10年、組織はどう変化しましたか?
山口社長:事業部制を導入したことで、各事業については私よりも知識量を持ったプロフェッショナルが育っています。一部の幹部に経営業務が集中しなくなってきましたね。私は将来のオーストラリア移住を公言しているのですが、社長に頼らない緊張感を作り、さらに経営体制を強固にしていきたいと考えています。
新人離職率50%→10%を実現されたヤマヒロ株式会社様では
「従業員エンゲージメント調査」が活用されています
※取材日:2023年9月11日
※取材:株式会社MS&Consulting 専務取締役 渋谷 行秀
※記載の数値や固有名詞などは取材当時のものです