従業員満足度(ES)が上がると顧客満足度(CS)も上がる?相関関係とは?
人材定着や働きがい向上を目的に、従業員満足度(ES)向上に取り組む企業が増えています。その一方で、従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)をつなぐマネジメントシステムの構築にまで踏み込み、活動を業績にもつなげることに成功している企業もあります。一体、どのようにしたら活動を業績につなげることができるのでしょうか?本コラムでは、成功事例のご紹介や従業員満足度・顧客満足度・業績の相関関係について解説します。
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従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)とは?
まず、従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)それぞれの定義を確認しておきましょう。
従業員満足度(ES)とは
従業員満足度とは、スタッフが組織に対してどのくらい満足しているのか、その度合いを評価する指標です。英語では「Employee Satisfaction」のことで、「ES」と略されます。
仕事の内容や職場環境、人間関係、給与や福利厚生などの事項について、従業員にアンケート形式で 回答してもらい、その度合いを計測する方法が一般的です。
顧客満足度(CS)とは
顧客満足度とは、顧客の商品やサービス、企業やブランドに対する満足の度合いのことです。英語では「Customer Satisfaction」のことで、「CS」と略されます。
顧客満足度は、顧客が事前に期待していた水準(期待水準)と、実際のサービス利用時に得られた水準(知覚水準)のバランスで決まるとされています。
従業員満足度が上がると、顧客満足度や業績も上がるのか?
さて、「従業員満足度(ES)」が高まると、「顧客満足度(CS)」や「業績」も高まるのでしょうか?感覚的には「そうだろう」と感じる方が多いのではないかと思いますが、実は、この関係を研究・分析した、サービス・プロフィット・チェーンという考え方があります。次にご紹介します。
サービス・プロフィット・チェーンの考え方
サービス・プロフィット・チェーンは、ハーバード・ビジネススクールのヘスケット教授やサッサー教授らが1994年に論文「サービス・プロフィット・チェーンの実践法(原題:Putting the Service-Profit Chain to Work)」で提唱した考え方です。
成功したサービス企業の分析をもとに、「従業員満足度(ES)」「顧客満足度(CS)」「業績」には下図のような相関関係が見られることをモデル化しました。
①社内サービス(キャリア支援制度、顧客にサービスを提供するためのツール整備など)の質の向上により、②従業員満足度が高まると、従業員のやる気が高まり、③定着率や④生産性が向上します。このことは、⑤顧客サービスの質の向上につながり、⑥顧客満足度を高めます。結果、⑦顧客ロイヤルティは高まり、リピート率や口コミの拡大により、⑧売上や⑨収益を押し上げます。この収益を①社内サービスの質に再投資することで、②従業員満足度はさらに高まります。サービス・プロフィット・チェーンは、ESとCS、業績が生み出す好循環をモデル化した理論です。 |
※図:「サービス・プロフィット・チェーンの実践法(原題:Putting the Service-Profit Chain to Work)」より弊社編集
サービス・プロフィット・チェーン理論は、従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)を単体で考えるのではなく、それらを結びつけるマネジメントシステムをつくり上げることの重要性を教えてくれます。
調査結果から見る相関関係
実際に、弊社が保有するビッグデータにおいても、「従業員満足度(ES)」と「顧客満足度(CS)」「業績」に相関関係が見られます。
1.「従業員満足度」が高い法人は「顧客満足度」も高い
下記のグラフは、160法人の従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」と、顧客満足度調査「ミステリーショッピングリサーチ」の結果データを分析したものです。
従業員エンゲージメント調査のうち「お客様への思い」のスコアが高い法人は、顧客満足度調査における「再来店意思(このお店をまた利用したいか)」への評価も高くなっていることがわかります。
従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)の関係
お客様にサービスを提供することに喜びを感じながら、意欲的に働くスタッフのいるお店では、お客様の評価も高くなることを示しています。
2.「従業員満足度」が高い店舗は、「売上達成率」「売上前年比」も高い
次にご紹介するのは、店舗の業績と従業員満足度(ES)の関係を分析したグラフです。弊社の従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」をご提供している、複数店舗を運営する、あるアパレル企業のものです。
従業員満足度スコアは「S・A・B・C・D」の5つにランク分けされ、Sが最も高く、Dが最も低い値です。従業員満足度が高い店舗は、売上達成率と売上前年比も高いことがわかります。特にSランクが顕著に高い結果となっている点が特徴的です。
従業員満足度(ES)と業績の関係
https://www.msandc.co.jp/info/case/case218
進化した考え方「オーナーシップ」
先述のサービス・プロフィット・チェーンはさらに研究が進化し、2008年にはヘスケット教授、サッサー教授らによって新しい提言が出されました。それは、サービス・プロフィット・チェーン理論のフロントランナーとして成果を出している企業を研究すると、「満足」や「ロイヤルティ」を超える状態として「オーナーシップ」の状態が見られるというものです。
従業員における「オーナーシップ」とは、従業員が会社のビジョンや戦略を自分事としてとらえ、その成功のための労をいとわないという、従業員満足度(ES)を超越した状態を表現する言葉です。
「オーナーシップ」と「満足」の違い
※書籍:「OQ(オーナーシップ指数)―サービスプロフィットチェーンによる競争優位の構築」より弊社編集
従業員満足度(ES)と顧客満足度(ES)を結びつけ、連鎖的に価値が高まるサイクルを構築することで、企業成長を実現するという、従来のサービス・プロフィット・チェーンの基本的な考え方は変わりません。
しかし、その源泉となる従業員と企業の関係性について、どのレベルを目指す必要があるのかについては研究が進化しています。最近では「従業員エンゲージメント」といった定義にも注目が集まっています。
従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)をつなげた成功事例
では、サービス・プロフィット・チェーンによる好循環を自社にもたらそうと考えた時、具体的には何をすればいいのでしょうか?次に、「従業員満足度(ES)」と「顧客満足度(CS)」の両面に着目して業績を向上させた成功事例を2つご紹介します。
1.アパレル企業の成功事例
こちらは、先ほどデータを示したアパレル企業の事例です。同社は、まず現状把握のためにMS&Consultingが提供する従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」を実施しました。
そして、「従業員満足度のスコアランクが高い店舗」ほど、「予算達成率・売上前年比ともに高い」ことを発見しました。そこで、各店舗の従業員満足度の成熟度にあわせて、取り組む施策の優先順位を変えてもらうことにしました。
具体的には
- B・C・Dランク(ESスコアが低い店舗)➡チーム力アップ
- S・Aランク(ESスコアが高い店舗)➡ 接客スキルアップ
と各店にわかりやすく優先順位を示しました。
このように、まず従業員満足度、次に顧客満足度に取り組むという方針を明確にし、各店舗にはアクションプランシートで取り組みのPDCAを回してもらうようにしました。またC・Dランクの店舗には、早急に エリアサポーター(SV/スーパーバイザー)が臨店サポートに入りました。
従業員満足度(ES)で優先順位を変更
こうした取り組みの結果、店長だけでなくスタッフ全員を巻き込む仕組みとなり、全社的に活動が定着していきました。店舗の状態に応じて、従業員満足度と顧客満足度の両面から取り組みを行った好事例といえます。
2.アミューズメント施設運営企業の成功事例
2つ目は、アミューズメント施設を複数展開する、ある企業の事例です。
スタッフが活き活きと働いている企業は、業績や顧客満足度よりも従業員満足度を重視しているということを知り、そもそもスタッフがやる気になっていないと顧客満足度を高める活動も進まないと考え、
1年目は、従業員満足度改善に取り組む
2年目からは、顧客満足度改善に取り組む
上記のように順番をつけて取り組むことを決められました。
従業員満足度向上のために行ったのは、主に次の施策です。
①特命チームの立ち上げ
スタッフに元気になってもらう活動なら何でも取り組む「もっと元気チーム」の立ち上げ②毎日元気!リレー
仲間へのメッセージを全国の店舗や各部署がリレー形式でつなぐ③従業員エンゲージメント調査の実施
現場の健康診断、および、自分の名前と連絡先を記入できる欄を設けることで、誰にも相談できず孤立するスタッフを救う仕組みを構築
これらの施策で社内風土を高めていくと同時に、スタッフの採用率・定着率アップのために、「全国一律の募集」や「店長面接の標準化」を行いました。結果、入社半年以内のアルバイトスタッフと契約社員の定着率は60%から 80%へと20ポイントも向上しました。
この事例も従業員満足度と顧客満足度の両面から取り組みを行っているところが特徴的です。
取り組む順番で成果が変わる
2社の事例からわかることは、従業員満足度向上を起点としたことで、成果が上がった点です。顧客満足度向上や業績向上に取り組むものの、なかなか上手くいかない場合には、「従業員満足度向上をスタートラインとしてみる」「従業員満足度向上も含めて考える」という視点をいれて計画を見直してみてください。
【関連リンク】
株式会社ストライプインターナショナル様の事例
株式会社バンダイナムコアミューズメント様の事例
まとめ
従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)をつなぐマネジメントシステムをつくり上げることは、収益を恒常的に高めます。また、どちらか一方のみから取り組む場合は、従業員満足度(ES)の向上を行い、土台を固めた上で、顧客満足度(CS)向上の取り組みをスタートすることが有効である点もわかりました。
従業員満足度向上のための施策を実施するには、客観的な現状把握が先決です。弊社は、サービス・プロフィット・チェーンの考え方を取り入れ、「従業員満足度(ES)調査」「顧客満足度(CS)調査」の両面を行っております。
従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所との共同研究をベースに開発した、店舗ビジネス固有の組織構造にマッチした調査です。
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