従業員エンゲージメントとは?今さら聞けない定義や向上方法をご紹介
近年、従業員エンゲージメントという言葉をよく耳にするようになったことで、自社のことを振り返り、気になっている方も多いのではないでしょうか。今回のコラムでは、従業員エンゲージメントの定義、また、従業員エンゲージメントに注目が集まっている理由や向上方法をご紹介します。
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従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントは発展途上の研究分野で、統一された定義はまだありません。しかし、その目指す姿の定義=従業員エンゲージメントが高い状態の定義はおおむね共通しています。それは、
従業員が会社の理念や戦略に共感し、その達成に向けて主体的に仕事をこなし、没頭している状態です。
つまり、従業員エンゲージメントとは「組織が目指す姿や自分自身の仕事に対する熱意・貢献意欲」ということになります。
【図1】従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントについては、「対組織」と「対仕事」に対するエンゲージメントの2つを含む概念と考えるとわかりやすいかもしれません。
・組織に対するエンゲージメント
従業員と組織の間に信頼関係、貢献関係がある状態。
・仕事に対するエンゲージメント
従業員の仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」の3つがそろった状態。
この両方を重視する考え方ということです。
【図2】2つのエンゲージメント
世の中には、従業員エンゲージメントに似た言葉としてワークエンゲージメントや従業員満足度があります。理解を深めるために、それぞれの言葉との定義を比較してみましょう。
●ワークエンゲージメントとの違い
ワークエンゲージメントとは、端的に言えば「仕事に対するエンゲージメント」です。先述の、従業員エンゲージメントが「仕事と組織」に関するエンゲージメントを論じているのに対し、ワークエンゲージメントは「仕事」にのみに着目している点が大きな違いです。
ワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授らが提唱した概念で、「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」、「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」、「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つがそろった状態として定義されています。
【関連記事】ワークエンゲージメントとは?定義から高める方法まで解説
【図3】ワークエンゲージメントとの違い
●従業員満足度との違い
従業員満足度とは、従業員がどのくらい組織に対して満足しているかを定量化したものです。具体的には、仕事の内容や役職、給与、福利厚生、職場環境、人間関係などの事項についての満足度を表します。
従業員エンゲージメントとの大きな違いは、従業員満足度が「社員が会社を評価する一方的な視点」であるのに対して、従業員エンゲージメントは、「従業員と会社の双方向的な関係性を問う視点」であることが挙げられます。
関連コラム:従業員エンゲージメントと従業員満足度の違いとは?他の似た言葉との違いもご紹介
【図4】従業員満足度との違い
従業員エンゲージメントが重要な理由
近年、従業員エンゲージメントが注目を集めています。その背景には、昨今の市場の状況から、従業員やお客様から選ばれる会社であり続ける難しさが高まっていることがあります。
●従業員エンゲージメントが重要な理由① 従業員から「選ばれる会社」になる
労働人口不足により採用は売り手市場となり、人材獲得競争が激化しています。また日本においても人材の流動化が進んでおり転職が普通のことになりました。採用も定着も従来通りではうまくいかない、「社員が会社を選べる時代」となったということです。
そのため、「この会社で働き続けたい」と思ってもらえるような、働きがいのある組織づくりにつながる従業員エンゲージメントに今まで以上に注目が集まっています。
下記のグラフは、店舗ビジネスにおける「従業員エンゲージメント(帰属意識)のスコア」と「店長が店舗運営に必要な人員を十分確保できていると感じている割合」の関係を弊社で調査した結果です。
【図5】「従業員エンゲージメント」と「人材不足感」の関係
従業員エンゲージメントスコアが高い店舗(S、Aランク)とスコアが低い店舗(C、Dランク)では、店長の人材不足感に10ポイント以上の差があり、従業員エンゲージメントを高めることが実際に人材不足の解消に役立っていることがわかります。
人手不足はサービス品質の低下を招くほか、店舗の営業時間を短縮せざるを得なくなるなど、業績悪化に直結します。現場の負担が高じて離職が続き、さらに人手不足になるという悪循環を断つためにも、従業員エンゲージメントの視点を取り入れた経営が注目されています。
●従業員エンゲージメントが重要な理由 ② お客様から「選ばれる会社」になる
市場競争が激化する中、お客様に選ばれるためには、優れた顧客体験(CX)を提供することがより重要になってきています。
その鍵を握るのは、現場でお客様に直接関わる現場のスタッフです。従業員エンゲージメントを高め、会社の方針に共感し、仕事に熱意を持ち、自発性や創造性で組織の活力を高めてくれる現場スタッフの存在が戦略的にも重要になっています。
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●従業員エンゲージメントが重要な理由 ③ 資本家から「選ばれる会社」になる
世界的に、無形資産投資への関心が高まっています。無形資産とは、特許や商標権、企業文化、従業員の持つ技術・能力など、形を持たない資産のことです。ビジネスの競争力の源泉が、工場や設備などの有形資産から、従業員のアイデアや想像力といった無形資産にシフトしつつあることから、注目が高まっています。
言い換えると、投資家から選ばれる会社になるためには自社の無形資産についての開示が重要になってきているということです。日本でも2023年3月期より有価証券報告書等による人的資本に関する開示が義務化され、人的資本経営に関係の深い従業員エンゲージメントへの関心も高まっています。
従業員エンゲージメントを高める方法
では、どのようにすれば従業員エンゲージメントを向上させることができるのでしょうか。主な方法を4つご紹介します。
1.企業理念やビジョンの浸透、共感の獲得
従業員に対して企業理念やビジョンを浸透させることはもちろん、それらに対する共感を育むための施策を行います。組織の目指す姿や将来の展望に従業員が心から共感できれば、おのずと組織目標を実現することへの主体性やアイデアの積極的な提案や仕事への熱意が生まれ、従業員エンゲージメントの高い組織へと変化していきます。
2.上司との良好な関係の構築
従業員が組織や職場について評価する時、直属の上司の影響は甚大です。上司と部下の関係を本人達だけに任せるのではなく、建設的なフィードバックや承認といった良好な関係を築くための定期的な1on1ミーティングをルール化するなどの施策が必要です。「上司に期待されている」「上司がサポートしてくれている」といった意識が従業員エンゲージメントを強めるきっかけとなります。
3.熱意を持って仕事に取り組める環境の整備
仕事に対する熱意や意欲を持ち続けてもらうためには、「仕事の裁量権」「意思決定への参加」「建設的なフィードバック」「成長できる機会、キャリア開発の機会」といった環境整備が大事であることがわかっています。管理型のマネジメントから権限移譲型のマネジメントへの移行が大切です。
4.従業員アンケート調査による現状分析
従業員は今、どのような思いを抱きながら働いているのかは、直接聞いてみることが重要です。アンケート調査を実施し、現状分析を行うことで、前述したような多数ある従業員エンゲージメントの向上方法の中から何を優先的に実施すべきかを客観的に判断できます。
ポイントになる「サービスプロフィットチェーン(SPC)」の考え方
サービス業において従業員エンゲージ向上のための施策を行っていく際には、サービス・プロフィット・チェーンの考え方を取り入れることが大切です。
サービス・プロフィット・チェーン(Service Profit Chain/SPC)とは、1994年にヘスケット(J.S.Heskett)・サッサー(W.E.Sasser,Jr.)らによって示された、「従業員満足度」「顧客満足度」「収益」の3つを互いに結びつけ、好循環サイクルを目指す考え方です。
組織が従業員のエンゲージメントや従業員満足度を大事にすれば、従業員の定着率や生産性が高まり、顧客に良いサービスを提供するようになります。その結果、組織の業績が向上します。そうして得られた原資を元に、組織は従業員満足と顧客満足をさらに高めることができるという良い循環が生まれます。
【図6】サービス・プロフィット・チェーン
ただ従業員エンゲージメント向上の施策を行うのではなく、顧客満足度向上の施策も合わせて行い、互いに結びつけながら実施することも、サービス業においては特に大切なことである点も、最後に述べておきたいと思います。
まとめ
従業員エンゲージメントを向上させることは、特に店舗ビジネスとって重要性が増しており、すでに多くの組織が取り組んでいます。
弊社では、店舗ビジネスならではの特性をふまえた従業員エンゲージメントを向上させるためのお手伝いが可能です。従業員に対する調査のご提供とともに、運用や施策実行のサポートも行っております。
従業員エンゲージメントを向上させるためには「観測→分析→設計→適用」のサイクルが重要であり、分析サポート、改善施策のご提案も併せて行うことが可能です。お気軽にご相談ください。