従業員エンゲージメントを高めて人手不足を解消!2つのポイント
近年、店舗ビジネスを経営する企業においても、深刻な人手不足が問題になっています。本記事ではそのような状況へのヒントとして頂くため、約6万7千人の店舗スタッフに対して行った従業員エンゲージメント調査の結果を分析、「従業員エンゲージメントの視点から探った人手不足解消の打ち手」を解説しています。
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店舗スタッフの人手不足の背景
近年、様々な業界で深刻化する人手不足の問題。店舗ビジネス業界においても、その状況は深刻で、求人を出してもなかなか応募が集まらないという現状があります。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和5年1月分)について」によると、令和5年1月の新規求人(原数値)は前年同月比4.2%増となっており、産業別では、宿泊業・飲食サービス業(27.0%増)、卸売業・小売業(3.8%増)と、人手不足が進行している様子がうかがえます。
では、なぜ人手不足の問題が起きているのでしょうか?
人手不足の背景として、まず第1に「労働力人口の減少」があげられます。少子高齢化が進む日本では、労働力人口が年々減少し続けており、これが人手不足の一因となっています。
また、第2の原因としては「人材の流動化」があげられます。終身雇用・年功序列の制度がなくなりつつあること、日本でも転職が一般的になってきたことなどを背景に、人材の流動化が進んでおり、今までと同じやり方では離職を防げない時代になっています。
求人を出しても応募が集まりにくい状況を改善するためには、今までより働きがいの高い職場をつくりだし、売り手市場になっている採用市場の中でも選ばれる会社になることが求められています。また同時に、今いる人材の定着率の改善し、出ていく人数を減らすことが求められています。
では、どのような職場において人材不足問題が解消されるのか。次の章からは、従業員エンゲージメント調査の結果を分析した、現場の生の声をお伝えします。
関連コラム:サービス業の人手不足対策は「採用増<離職減」
:従業員エンゲージメントとは?今さら聞けない定義や向上方法をご紹介
人手不足を感じている店長は約4割
まず、実際に現場をあずかる店長はどの程度「人手不足感」を持っているのかを見ていきましょう。サービス業に従事する店長2,445名に質問したところ、実際に4割近くもの店長が「人員が足りない」と感じていることがわかりました【図1】。
【図1】店舗の人員不足をどれほど感じていますか?
人手不足感の高い店舗は、パート・アルバイト離職率も高い
次に、「パート・アルバイトスタッフの離職率」と「人手不足感」 の関係を分析しました。結果、人手不足感が強い店舗ほど、パート・アルバイトスタッフの離職率も高いことがわかりました【図2】。
【図2】「人手不足感」と「離職率」の関係
※離職率の計算式:「直近1年間で辞めたパート・アルバイト人数」÷「現在の在籍人数+直近1年間で辞めたパート・アルバイト人数」
人手不足の店舗では、スタッフ一人ひとりの負担がじわじわと増える、店長がプレイヤー業務に追われマネジメントの質が落ちるといったことが起こり、結果として、さらに離職率が高まるという悪循環に陥ってしまっている姿が浮かび上がります【図3】。
【図3】人手不足の悪循環
では、この悪循環を断ち切るためには、どのような解決策から取り組めばよいのでしょうか?人手が足りず色々な対策に手を出せない状況にある中では、効果性の高い取り組みに集中する必要があります。
次に、人手不足解消の効果的な糸口を探るため、「人員が足りない店舗」と「人員を充分に確保できている店舗」 では従業員エンゲージメントにどのような違いがあるのかを調べました。その結果を紹介します。
関連コラム:従業員エンゲージメント調査とは?目的や流れ、6つの活用方法まで徹底解説!
エンゲージメント向上① 仕事の意義を見失わないようにサポートする
まず、「人員が足りないと感じている店舗」 と「人員を充分に確保できていると感じている店舗」 で、店長・社員の従業員エンゲージメントにどのような違いがあるのか分析しました。結果、「心身の健康」に大きな差があることがわかりました【図4】。
「心身の健康」については、パート・アルバイトの差(0.0483)以上に、店長・社員の方が差が大きく出ており(0.0957)、人手不足をカバーするために店長・社員により大きな負担がかかっている様子がわかります。
また、「働きがい」「達成感」「仕事への誇り」といった項目でも差が出ています。人手不足の組織では、目の前の業務に追われ、仕事の意義や自分自身の存在意義を見失いやすくなっていると考えられます。結果として「帰属意識(この店舗に所属し続けたいか)」 も下がってしまっており、離職への不安材料となっています。
【図4】人手不足感で差があったエンゲージメント項目(店長・社員)
※「人手不足感」別に各従業員エンゲージメント項目の平均スコアを算出、傾きの大きさで順位づけ(SLOPE関数・回帰直線の傾き) 。利用データ=店長・社員16,684名の回答結果。
これらの結果を踏まえると、人手不足店舗の店長・社員に対しては、「自分達の仕事の意義、理念やパーパスを意識的に発信し続ける」「お客様からのお褒めの言葉をフィードバックする」など、忙しい中でも自分達の仕事の意義を見失わせないサポートを本部・マネージャーが行い、厳しい状況の中でも一つひとつ問題を解決していこうという前向きな気持ちを引き出すことが重要と言えそうです。
エンゲージメント向上 ②スタッフとのコミュ二ケーション機会を優先
次いで、パート・アルバイトスタッフについても、人手不足感の高い店舗とそうでない店舗の差を分析しました【図5】。
1つ目に差が大きかったのは「ミーティング頻度」「自ら考え発言する場」といったコミュニケーションに関する項目です。
2つ目に差が大きかったのは店長のリーダーシップに対する評価項目で、上位10項目のうち半数の5項目を占めています(信頼/ビジョン明示/ビジョンへの共感/具体的な計画/興味・関心) 。
人手不足に陥っている組織では、パート・アルバイトスタッフが 仕事に対する意見や不安を発言できるようなコミュニケーションの場が減少し、結果的にリーダーシップ評価が下がり、帰属意識にも影響を及ぼしている様子がうかがえます。
【図5】人手不足感で差があったエンゲージメント項目(パート・アルバイト)
※「人手不足感」別に各従業員エンゲージメント項目の平均スコアを算出、傾きの大きさで順位づけ(SLOPE関数・回帰直線の傾き) 。利用データ=パート・アルバイト50,589 名の回答結果。
充分にコミュニケーションを取っていれば早い段階で離職につながっている原因に気づき手を打てる可能性があります。
人が足りない中で店長・社員がパート・アルバイトスタッフとのコミュニケーション機会を取るのは大変であることには理解を示しつつも、本部やエリアマネージャーは、下記のような解決策を店長に伝え続け、人手不足の悪循環を断ち切ることが重要と言えそうです。
- 環境に甘んじていては人手不足の悪循環から抜け出せないこと
- 機会を見つけてはスタッフに話しかけ、意見や不安を言ってもらえる関係性を築くこと
- 特に要となるスタッフとは打合せの時間を取り、不満を聞き取り、対策を講じること
- 企業の制度として1on1ミーティングなどを導入し、従業員の不安を解消する機会をつくる
人不足→負担増→離職率アップ→さらに人不足の悪循環を断ち切るには?
人手不足を解消するためには、業務の効率化や今までより幅の広く多様な人材を採用するなど複数の解決策を組み合わせる必要がありますが、従業員エンゲージメントの観点では
- 店舗の人手不足感を把握し、不足感の高い店舗は重点サポート
- 仕事の意義を見失わないようにサポートする
- 人手不足店舗には、スタッフとのコミュ二ケーション機会を優先させる
- 本部としても「1on1」「リーダー会議」などの制度を講じ、
店舗内コミュニケーションの機会を確保させる
といった打ち手により離職の芽を摘み取り、人不足により離職率がさらに高まってしまうという悪循環を断ち切ることが重要と言えます。
MS&Consultingでは店舗ビジネス向けに特化した従業員エンゲージメント調査を行っており、組織の状態を調査・改善するサポートを行っています。お気軽にお問い合わせください。詳細はこちらからご覧いただけます。→
◆文責:株式会社MS&Consulting ブランディング推進部 コンサルタント 並木彩華
【調査概要】 調査手法:従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」 調査実施 :株式会社MS&Consulting |