【第1回外食クオリティサービス大賞レポート】 有限会社楽食



有限会社楽食

URL:http://tullysshiojiri.naganoblog.jp/
本社所在地:長野県塩尻市広丘原新田225-9
中心業態:タリーズコーヒー


※記載されている会社概要や役職名などは、講演者(掲載)当時のものです。ご了承ください。


楽食は、長野県内でタリーズコーヒー松本駅前大通店、塩尻店、上諏訪店の3店舗と、自然食ビュッフェレストラン大地のテーブル松本平田店の、計4店舗を日々全力で運営している企業である。カフェ業態でありながら、平成18年5月~12月、タリーズ3店舗のMS平均得点数182点という成果を残している。また、フェロー(フェローとは仲間という意味で、タリーズでは従業員をフェローと呼ぶ)の定着率UPによるスキルUPを目指している。それによって、事実毎年の人件費率の改善につながっている。


機能店になりやすいカフェ業態にも関わらず目的店を実現している。その秘密は“EISなくしてCISなし”という考え方の浸透にある。常にフェローの笑顔や幸せを追求し、ただの職場ではなく、フェロー全員の人生において意味のある、成長できる場を創造している。“愛”、“笑顔”、『一笑懸命』!この愛で、どれだけみんなを幸せにできるか。ほんの小さな笑顔や幸せに、どれだけ感動できる自分で在れるか。それが、楽食の常に追い求めるテーマである。このテーマを実現する為に理念共有、そしてスキルよりも人間性を高める人財育成を行っている。具体的にどのようなことを行っているのか紹介したい。


楽食の理念共有は面接から既に始まり、オリエンテーション、そして、毎日の朝礼・終礼へと続いていく。楽食の面接は非常にユニークである。「ご趣味は?」、「あなたの大好きなものって何ですか?」、「最近1番感動したことって何ですか?」などという問いかけを行う。直接仕事の話だけではなく、この人ってどんな人だろう? この人のこと、愛せるだろうか? 家族になれるだろうか? もちろん、こちらのゆずれないモノも伝える。仲間として、同じモノを追い求めていけるように、理念・目指すべき姿を明確に伝える。「そんなおいら達のこと、愛せるかい?」というように。面接のポイントは楽食という家族の一員になれるかどうかである。


そのような面接で相思相愛になれたあと、オリエンテーションに移る。オリエンテーションではしっかりこちらのことを伝え、楽食とはどのような会社なのか知って頂く。

ハウスルールからオペレーション、理念の詳細に至るまでを、時にはビデオも見ながら、約3時間かけて伝える。これだけ新人のアルバイトさんに時間をかけている企業は他にないと思われる。そこが楽食の強みでもある。

日々行っている朝礼・終礼の中にもポイントが隠されている。


「どうだった? 不安なことは?」 「あなただったら、そんな時どうする?」「今日はアレがすごく良かったね! じゃあ明日はここまでやってみようか!」「大丈夫? やっていけそうかい?」 「よし!じゃあ明日も一緒に頑張ろうか!」

このようなやり取りがなされている。先輩フェローはサポートを行うだけで、直接の指示は行わない。決定権は自分自身にある。失敗したときどのようにすれば良かったのか、もっと良くなるためには何をすればいいのか、自分で考え自分で行動を決める。この自主性を促すことを楽食では互いの想いを確認し合っていると表現している。何か特別なことを行っているのではなく、ただ、日々想いを確認するという凡事徹底が楽食の強みになっている。

また、MSの点数だけではなく、実際に顧客感動満足を創造していることがこれから紹介するエピソードから分かる。

松本駅前通りの常連客のある一人のおじいさんの話。

そのおじいさんは火・木・土曜日の午後2時過ぎた頃に必ず来店され、フェローたちは「雪村のおじいちゃん」と呼んで、いつもおじいさんが来店されるのを心待ちにしていた。おじいさんはいつも大好きなアップルパイと本日のコーヒーで、午後のひと時を過ごす。そのため、朝のオープンフェローは、おじいさんの来店する日はアップルパイをひとつおとりおきしておく。おじいさんはかなりの甘党である。そのため、お砂糖5個とミルク1個は必ず添えてお持ちする。フェロー全員がいつもおじいさんの来るのを心待ちにしていた。雪村のおじいさんは「おじいさんセット」をお持ちすると、いつもほんわかした笑顔で昔の話をよくしてくれた。息子さんの話、戦争の話、お相撲の話、様々なことを多く話してくれるおじいさんであった。フェローからフェローへと受け継がれ、お店のフェロー全員がおじいさんのことが大好きであった。

しかし、ある日を境におじいさんの来店がなくなってしまった。おとりおきしたアップルパイは他のお客様のもとへ。そんな日が何日か続いた。

ある日の閉店間近、おじいさんと時々一緒に来店して下さっていたおじいさんの息子さんがアップルパイを求めて来店してきた。そのとき衝撃的な一言を聞いてしまった。

『おじいさんの仏壇にあげようと思って』

お話を伺うと、数日前に雪村のおじいさんは突然亡くなってしまっていた。

『このお店に来ると、何も言わなくてもいつものセットを用意してくれて、よくしてもらっていた。ありがとう。』と感謝のお言葉を頂いた。その時、担当したフェローはおじいさんが居なくなってしまったという現実が信じられず、そのご家族と一緒にただ泣くばかりであった。

結局、その日アップルパイは売り切れてしまったので、おじいさんのお仏壇にはあげることはできなった。しかし、翌日 息子さんが朝来店して下さり、アップルパイはおじいさんの元へと届けられた。

今でも、火・木・土曜日の午後二時過ぎた頃。いつものように来てくれるような気さえしている。今でも おじいさんの顔をはっきりと思い浮かべることができる。お気に入りのあの席で、窓の外の風景を眺めている様子は忘れられることはできない。ふとしたときにおじいさんが来店してくれるのではないか。それほどフェロー一人ひとりのおじいさんへの想いは強い。

このようなエピソードは松本駅前通り店だけに限ったことではない。タリーズコーヒー3店舗全店で同じようなエピソードがたくさん生まれている。お客様が喜ばれることはどのようなことだろうか、と常に考えて接客を行っているので同じような毎日がやってこない。昨日とは違う今日。今日とは違う明日。毎日いらっしゃる常連客でも気分や体調が違っているはずである。この微妙な変化を感じ取り、お客様に一言、二言お声がけをしているため、常に高い顧客満足度を創造することができる。

組織の在り方についても共通の考え方が、フェロー一人ひとりに浸透している。人間一人ひとりというものは大変小さな存在である。顧客満足を創造するという大きな目標を達成するためには、全員の協力が必要である。喜びも、悲しみもともに分かち合える仲間が必要である。そのことをフェロー一人ひとりが認識している。自分たちにとって働きやすい、居心地の良い環境を自ら作って頂く。お互いの成長に関心を持ち、何でも言いあえる環境を作り出している。


その考え方の根本には、フェローは家族であるという塩原氏の考えがある。一人ひとりの人生の貴重な時間をこの楽食で頂いている。だからこそ一人ひとりの成長に執着している。些細なことでも構わない。この楽食で働くことで何か人生の中でためになることを見つけて欲しい。この考えの基、人財育成を行っている。

塩原氏のこの考えがすべての成果の源泉となっている。まずは、一緒に働くアルバイトさんに関心をもつこと。なかなかEIS(従業員感動満足)が上がらないという企業はこのところから始めて頂ければいいのではないか。ぜひ参考にして頂きたい。

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