【第1回外食クオリティサービス大賞レポート】 株式会社スマイルリンクル
株式会社スマイルリンクル
URL:http://www.smilewrinkle.com/
本社所在地:東京都千代田区内神田3-16-5 内神田第3ナガシマビルB1
中心業態:広島お好み焼
※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。
スマイルリンクルは、広島風お好み焼きのBig-pigをはじめ、東京都内に4業態6店舗(2007年2月19日現在)を展開しており、3月6日、22日にも、新店のオープンを控えている急成長中の会社である。発表を通じてなぜ、このスピードで出店するのか、また出店しても売上を上げられる仕組みができるのかその理由がわかる。発表にもあった「5~10店舗を展開する企業が元気になることが「外食産業の回復」につながるという強い信念の元、新しい視点で挑戦し続けるスマイルリンクルは、これまでと違った気づきを与えてくれた。情熱的で、斬新な切り口による気づきを与えたプレゼンテーションで聴衆を魅了したスマイルリンクルの発表について振り返ろう。
「たくさんの「笑いじわを作りたい」いう願い」が込められたスマイルリンクルという社名。今回、発表いただいた社長森口氏の誰からも好かれる笑顔は、まさしくスマイルリンクルの顔だった。その森口氏の前職は大手紳士服販売会社のセールスマンだった。
セールスマン2,000人中1位の販売実績、その後店長としても500店舗中1位の実績を収めるなど輝かしい成果を残す中、出身地広島で少年時代味わった本物の広島焼を東京の人にも食べてもらいたい」という思いをかなえるため独立する。今のスマイルリンクルの幹部を初め店長の多くが、前職の会社の広島出身の仲間であるという。
したがって、販売のプロであるが、飲食においてはずぶの素人集団であった。その素人集団が、設立以来13年連続で売上をアップさせ続け、パッケージ化されたフランチャイズ店ではなく直営店で8店舗まで展開するに至っている。この成功は、「販売業での経験」と「飲食に関してまったくの素人」、この2つが成功の要因と森口氏はいう。ミステリーショッピングリサーチにおいても後述する独自の視点により、どの業態においても190点以上をコンスタントにたたきだしている。
スマイルリンクルにも、現在の成功に至るためのターニングポイントはあった。それは、独立して出店して間もない頃だった。「お店を作った当初は、飲食ってなんて簡単な商売なんだろう」と正直「飲食をなめていた」と森口氏は振り返る。前職の紳士服販売では、買っていただけるかどうかもわからないお客様に対しても一生懸命接客をする。結果、買っていただけないことももちろんある。しかし、飲食ではどうか。よっぽどのことがない限り召し上がっていただける。すなわち、誤解を恐れず言うと、たいした接客をしなくても売上になるわけである。しかし、それはオープン景気によるもので、本当にお客様がついているわけでないことを痛感する。飲食業の仕事は、今来ていただいているお客様にもう一度来ていただく。それこそが飲食業の本当の仕事なんだと気づく。
「飲食業だけでもない」、「接客業だけでもない」、「飲食接客業なんだ」この考えが生まれた瞬間が、スマイルリンクルのターニングポイントになる。飲食業には、販売業にはない面白さがたくさんある。その一つに生産から消費まで全てが目の前で起こるということである。販売業では製造はなく、販売だけであり、消費はまったく未知である。
スーツを売っても、デートや商談の場にくっついていくことはできない。しかし飲食の場合は「おいしそう」とか「楽しそう」というのが見える。すなわち店や料理、接客の改善点やヒントが目の前に転がっているわけである。こんな楽しい商売はないという。社長森口氏は販売業での経験・考えをうまく飲食業に融合させている。
ここからは、発表にあったスマイルリンクルの具体的な取り組みについて紹介する。
発表では、5~10店舗の規模の会社が大きくならないと昨今右肩下がりだといわれている外食産業の回復にはつながらないという思いから、資金に余力がない中、お金をかけずに取り組めるポイントを説明した。そこには販売業をやっていたからこその視点がふんだんに盛り込まれていた。
妄想集団について
スマイルリンクルでは、「妄想集団」という言葉が社内に浸透している。一見すると誤解を受けそうなこの言葉も、社内ではお客様に対する姿勢として強力に浸透している「共通言語」である。
販売業では、消費が見えないためセールスマンは販売後の消費の部分は妄想して自己満足をしないとやっていられないという。しかし、そのような思考回路を叩き込まれているため、飲食業においてもそれが役に立っている。OLやビジネスマンの方々がお店に来られる前は、オフィスでどんな会話をされていたのだろうか。あるいはお店を出られた後にどんな会話をされるのだろうか。そんなことを妄想するのだ。そうすると常に妄想することを意識付けられているアルバイトには、「ああしろ」「こうしろ」と書かれたマニュアルは必要なくなるという。「お客様のことを一生懸命妄想する(考える)という幹の部分がしっかりとしていれば、後の枝葉の部分は勝手に生やしてくれるのだ。森口氏は店長から聞いた話を事例に出した。あるアルバイトがいった。
「お客様のことをしっかりと妄想しておくと、お客様がいらっしゃった時の『いらっしゃいませ』の声に魂がのった!!」18歳の女の子の言葉である。単なるイメージトレーニングではなく、もっともっと深い意味が妄想には含まれている。従業員だけでなく、アルバイトもそのことをわかっているからこそ「妄想」というキーワードが企業の強みになっているのだろう。また、それを定量的に図る指標としてMSレポートをうまく活用している。
活用するに当たって、基本となるコメントや顧客ロイヤリティを確認するのはもちろんだが、スマイルリンクルでは独自の「店外満足度」という視点も加えて改善している。店外満足度というのは、お客様がお店にいらっしゃる前(オフィスや道中)にどのような会話をされているのだろうか、あるいはお店を出られた後、どのような会話をされているのだろうか。そう妄想するのである。ミステリーショッピングリサーチの業務チェック項目では、お客様の入店にすぐに気づき対応してくれたかや出口まで出てお見送りをしていたかというのがある。スマイルリンクルでは、その前後からしっかりと妄想する意識をつけることが、190点以上が続出するポイントだという。
一例として「お見送りの時には角をまがって見えなくなるまで、頭を下げなさい」と指導している。ここまではやっている会社もあるだろう。しかし、お帰りになられるお客様に感謝するのは当然として、その後ろにいらっしゃる店内のお客様にアピールすることがポイントなのだとアルバイトにしっかりと伝えているだろうか。「背中に目をつける意識をつける」それが店外満足度につながる、うわさや口コミにつながるところだという。10坪のお好み焼き屋のときに「たかだかお好み焼き屋のくせによくがんばっているね」よく言われたそうだ。飲食に対するイメージ、ハードルが低いところにあるので、ちょっとした心配りが大きな評価につながる。
アルバイトの定着率をあげるために
アルバイトの定着率については、どの企業も頭を悩ましていると思われる。店内の人間関係をよくし、個々人にやりがいを持たせることが最も重要であることは変わりない。スマイルリンクルでもそのような従業員満足度向上運動といった取り組みはしているが、最近は多くの企業が取り組み出している。そこでスマイルリンクルでは、それ以外のアルバイト定着率アップに向けた取り組みについて発表してもらった。それが、「自己分析チェック」と「勤続時間ステップアップ制度」である。この2つについて後述する。
自己分析チェック
スマイルリンクルでは、就職や卒業など仕方ない理由以外での退職はほとんどないという。定着させるための一番のポイントは、人間関係ややりがいが重要になる。アルバイトへの気配り、プライベートの相談などが重要である。そういったこともたくさんやっている。それとは別に待遇面も充実させなければならないと考える。人間関係と待遇をセットにしなければ離職に歯止めがかからない。現在、アルバイトには毎日の自己分析チェックをさせている。自己分析チェック項目は、3、40項目におよび退店時につけさせている。自己チェックさせ評価に反映させるというのは他社でもやっているところもあるだろうが、他とは違うのは、あえて「評価に反映させない」ということである。評価に反映させてしまうと待遇を意識した接客になってしまうからである。「本人の気づきのツール」として活用したいというのがこの自己分析チェックの活用方法である。
勤続時間ステップアップ制度
もっと明確な時間給制度をしくことが重要と森口氏はいう。仕事ができるかどうかは関係ない。たくさんシフトに入ってくれる人の時給を上げるようにしようと考えた。「なんであの人の給与はこんなに高いのか」、「あの人は年下のくせになぜ時給が高いのか」「あの人より僕の方が仕事ができるのに」などという不満がでてくる。だからこそ、明確な制度が必要だと考え、勤続時間という数字の目標を立てた。飲食店においてビールを何倍お薦めできたかなどについても数字に落とし込めることはあるが、評価のための接客になってしまっては本末転倒になる。
販売業でも数字に囲まれて生きてきたため、どうすれば、どのように報酬になるのか明確にしてあげるべきだと考えた。また、勤続時間を設定することで店長も楽になる。シフトにたくさん入ってくれる人の方が楽である。「頼むからなんとか入ってくれというのはしんどい。」そうすると精鋭だけが残るようになる。人が足りない。採用コストがかかる。
すぐに辞めてしまうので、教育費もかかる。と負のスパイラルに陥りがちである。しかし、スマイルリンクルではこういった仕組みにより正のスパイラルが循環し、アルバイトの定着率アップにつながっているという。
すぐに辞めてしまうので、教育費もかかる。と負のスパイラルに陥りがちである。しかし、スマイルリンクルではこういった仕組みにより正のスパイラルが循環し、アルバイトの定着率アップにつながっているという。
最後に発表にあったユニークな取り組みを紹介しよう。
大きなトラックを使った移動販売である。トラックのコンテナに厨房を作り、イベントやお祭り、ニーズのあるところに責めるとのこと。精鋭が育っているので、様々な活躍の場をつくりたいと森口氏は考える。
また、これにはもう一つの「視点」が込められている。それは「待ち」ではなく「攻める」という視点である。これまではお店に来ていただいたお客様にご満足いただいていた。しかし、これからは価値あるサービスをどんどん攻めて提供していこうという視点からこのようなアイデアが生まれたという。
「5~10店舗の規模の企業は、とにかく待っていても何も始まらない。我々、5~10店舗規模の企業が元気になることが「外食産業の回復」につながる。とにかく外食産業を盛り上げたい。」そう情熱に森口氏は語る
紳士服販売業から飲食業への挑戦。発表を聞くと業種の違いからくる経験・視点の違いをうまく活かしているが、決して簡単なことではない。他業種からの挑戦による苦労ももちろんあっただろう。しかし、常に試行錯誤し挑戦し続けることで、新しい視点が生まれるのだと気づかされる。固定概念の鎖に縛られないよう意識していても知らず知らずのうちに、誰もが取り組んでいることを真似ていることにふと気づかされる。改めて「攻める姿勢」を持って、挑戦し続けたい。そう感じさせる発表だった。「笑顔のしわをお客様と一緒に作りたい」最後にこう締めくくった森口氏の発表は、参加した多くの5~10社の企業経営者の心に響き、勇気を与えられたに違いない。スマイルリンクル森口氏に感謝申し上げたい。