【第1回外食クオリティサービス大賞レポート】 株式会社マリノ



株式会社マリノ

URL:http://www.marino-net.co.jp/
本社所在地:愛知県名古屋市名東区上社4-45-1
店舗数:31店舗
中心業態:ピッツェリア・マリノ


※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。


株式会社マリノの設立は1988年、業態としてのマリノができたのは1933年。現在、社員86名、アルバイトが690名、社員とアルバイトを合わせて776名。中部地方を中心に直営19店舗を展開し、フランチャイズが国内7店舗、韓国に5店舗出店している。

マリノでは連日マリノを愛する地元の人たちで賑わいを見せている。マリノが誕生以来、全店ウェイティングがかからない日はないという。

創業してからの18年間、一度も下がることなく売上を伸ばし続け、平成18年度の実績は、直営で30億を超えた。1店舗あたりの月売上は平均約1,580万である。

利益に関しては苦労の連続で、何度か危機を迎えたことがある。一昨年の利益は過去最高の1億円を達成したが、昨年1,200万まで落としてしまった。しかし今年度は2億円まで利益を復活させた。その驚異的な回復へ向け昨年様々な取り組みを行ってきた。

また、その取り組みは企業理念に基づいたものである。マリノの企業理念は、【恋・愛・気・分】である。マリノという業態は、イタリアの陽気さ、楽しさを大切にして作られている。株式会社マリノでは『スタッフが陽気で楽しく働けるためには、どうしたらよいのか』という気持ちから【恋・愛・気・分】が生まれた。恋愛をするような気分でスタッフ同士が心を通わせ、お客様と接し、心のこもった料理を作り、恋愛をするような気分で仕事を楽しもうという考え方である。経営理念が恋愛気分だというと、初めて目にする方は、軽い印象を覚えるかも知れない。しかし、マリノの社員が非常に元気で明るく、料理に心を込めて楽しく働いているという評価を受けているのは、この理念の影響するところが大きい。

また、この理念に惹かれて入社してくれる人も多い。今回の取り組みに関してもこの理念が影響していることを感じずにられない。

働くスタッフが感動し、お客様が感動し、高い業績も上げ続けるこの正の連鎖を維持していくための人財育成と仕組みづくりに、マリノは力を入れてきた。発表を通し取り組み内容を聞くことで、マリノがいかにしてそのような状態を実現したのか、を知ることが出来る。


看板メニューの開発

昨年、利益を大きく下げた要因としては、看板メニュー開発に取り組んだことが大きく影響している。これまでも業績は順調だった。今まではパスタとピッツァの品質で勝負してきたが、今後の新しいマリノの1番商品を考えたときに、「もっとお客様と従業員が楽しめて、商品から陽気な雰囲気が伝わるような、臨場感とシズル感を感じていただけるメニューが作れないか」ということで、看板メニュー開発のプロジェクトがスタートした。

そこで開発されたのがこのパルメナーラである。大きなチーズをくりぬいた中に熱々のパスタを入れ、その場で削ったチーズと良く混ぜてから熱々のソースと絡めて、お客様の目の前で卵と和え、最後にペッパーとパセリをかけて召し上がって頂く。ワゴンを使ったサービスで演出効果も高くとても喜ばれる商品である。

開発の目的はお客様に楽しさとおいしさとイタリアの雰囲気をもっと味わっていただくためだったのだが、実施当初は現場からの反発の声があったという。このパルメナーラは演出効果が高い分、オペレーションが複雑である。これまではお皿に乗った料理を運ぶだけでよかったのだが、ワゴンを運んで目の前で調理をするため、毎回3分ほど1つのテーブルにかかってしまう。

マリノの来客数は平日で平均100組、土日で平均170組であり、今ではその大半がこのパルメナーラを注文するほどの人気商品になった。「大変ありがたいことなのですが、オーダーが入るとホールのオペレーションが大変になるので、当初は現場から、『この人数では回せない』というような意見も出たんです。」と発表者古澤氏は振り返る。

実際、原価率も人件費率も高騰し、平成16年には1億を超えた利益が、パルメナーラを入れた17年度は1,200万まで落ちてしまった。また、オペレーションに時間がかかったので、回転率が悪くなり、客数も若干下回ってしまった。

利益が1億から1,200万にダウン― ある程度予測はしていたものの、正直、ここまで落とすとは誰も予想だにしなかった。さらに下がっていったのは数字だけではなかった。オペレーションの大変さから、従業員のモチベーションも低下し、後ろ向きな意見も多くなったという。まさにマリノは負の連鎖に陥りかけていた。経営理念【恋・愛・気・分】という最も大切な想いすら失いかけていた。


プロジェクト推進

このままではいけない、そんな想いがマリノのメンバーの心に芽生え始めた。そこで立ち上がったのが、以下の10個のプロジェクトである。

(1) マリノイズム浸透プロジェク
(2) 新人アルバイトスピード育成&定着率アッププロジェクト
(3) 社内トレーナー育成プロジェクト
(4) キッチン強化プロジェクト
(5) 全社一体感強化プロジェクト
(6) 店長経営者化プロジェクト
(7) 原価削減プロジェクト
(8) オペレーション改善プロジェクト
(9) アルバイト主体性アッププロジェクト
(10) 成果発表会

これらのプロジェクトも取り組みの一部だという。取り組みの内容について詳しく紹介していく。


(1)マリノイズム浸透プロジェクト

取り組むに当たって、理念を忘れることは一番したくないことだった。リッツ・カールトンホテルをベンチマークし、株式会社マリノのクレドを作成した。MSAカードと呼んで、全社員が携帯している。店舗では毎日経営理念を唱和し、理念が実践できているかどうかを朝礼で確認している。また、毎月1回マリノプレスという社内報を発行し、全従業員に社長の想いが共有される仕組みになっている。

(2)新人アルバイトスピード育成&定着率アッププロジェクト

理念の広がりは新人から伝えていくのが効果的と考え、プロジェクトを組んだ。全店の新人を集めての研修会を月2回定例で行うことで、育成のスピードアップを図っている。理念についての考え方、基本的オペレーション、マリノで働く心構えを伝えている。この初期教育はすでに仕組み化され、早い段階でマリノらしさを身につけることで定着率アップ・離職率低下に貢献できるものとなっている。


(3)社内トレーナー育成プロジェクト

料理の品質の維持のため・接客レベルの維持のため、社内での教育機能が必要だとマリノは考えた。そこで店長の中から立候補を募り、トレーナーの育成に乗り出した。彼らが自分たちで企画し、研修会やOJTを実施していく仕組みを作り、品質とスピードの両立を実現して行っている。


(4)キッチン強化プロジェクト

マリノのピッツァは石窯焼きで、実はこの技術の習得は極めて難易度が高く、全店高いレベルで最高のピッツァを焼くのは至難の業である。だからといって職人だけを集めても、お客様とコミュニケーションを取ることができなければ、マリノ失格だと考えている。楽しくピッツァを焼いてくれる人は、経験者から募ることが難しいので、マリノではおいしいピッツァの焼き方を一から教えている。深夜にキッチンメンバーを集めて定期的に訓練を行っているのである。


(5)店長のビジョン会

毎月店長を集めて、さまざまな優良企業の取り組みを学んで自分たちのビジョンを描いて、それを持ち寄り、どうすれば理想のお店を作れるか、毎月議論している。


(6)店長経営者化プロジェクト

SVと店長と経営幹部のメンバーで毎月1回、会議を開いています。経営に対する考え方やB/Sの見方、改善の仕方など、経営者に必要な知識を吸収して店舗運営に活かしている。


(7)原価削減プロジェクト

原価は会社の仕組みが最も影響することなので、仕組みを全て見直した。仕入れ単価を1品1品見直し、食材相関図を作成し、品質を下げずにメニューを改定して行い、仕入れルートを一元化し、会社の仕組みとして原価を下げる道を探った。


(8)オペレーション改善プロジェクト

13年間の営業の中で生まれた思い入れの強いオペレーションもたくさんあったが、ゼロベースで1から目的を見直し、必要がないと思われるものを徹底的に見直していった。マリノの強みは何かを繰り返し問いかけ、その強みを発揮するのにベストな方法を検討して行った。マリノにおける入店からお見送りまでの全サービスオペレーションが洗い出された表を作成し、マリノの強みを分析し、強みを伸ばしていくものを重視し新たな接客ストーリーを構築することでオペレーションの簡素化・生産性の向上・回転率のアップに貢献することとなった。


(9)アルバイト主体性アッププロジェクト

全店のアルバイトを集めて合計6回の研修を毎月行っている。アルバイトはそのどれかに参加して、店舗メンバーの約半数が同じ内容を共有している状態を作っている。この研修を始めてから、店舗でのミステリーショッピングリサーチを使ったミーティングが一気に活性化していった。お客様のために、従業員のために、店舗ではいろいろな話し合いがなされて、全店に広まったオペレーション改善の具体的なアイデアもアルバイトからたくさん生まれてきたのだという。


(10)成果発表会

全店をクローズして、全社員・全アルバイトが参加した成果発表会が行った。各研修会で学んだことを店舗に持ち帰り、どのように取り組んでどのような成果が出たかを一生懸命発表した。すでに第2期研修会もスタートしており、4月には第二回の成果発表会も予定されている。

これらの活動を通して、1,200万まで落ち込んだ利益を、過去最高記録を2倍に更新する2億円達成という大きな成果を上げることができたのである。

売上は既存店の昨年対比108%アップ、客数106%アップ、客単価140円上昇、回転率も上がり、全店平均で4.25回転から5.15回転にアップした。

また、コスト削減にも全社を挙げて取り組み、原価率は約6%削減、人件費も3.2%の削減、原価率と人件費率の合計で約9%の改善を実現した。これは約2億7千万円のコスト削減を実現したことになる。

これだけの経営効率を上げてもお客様の満足度が下がってはだめだと、会社を経営する以上利益は大切であるが、お客様の満足度を一番に考えるマリノは、むしろ、「お客様の満足度の追及こそが利益の源泉」と考えている。ミステリーショッピングリサーチの結果はイタリアン部門で平均158点のところ、174点。再来店意思と紹介意思の合計「顧客ロイヤリティ」は平均7.92ポイントに対し、8.55ポイント。と、常に高い水準で維持している。

また、コスト削減で従業員の満足度を下げてもいけない。マリノの離職率のデータを見てみると、11.5%改善されている。従業員にとって働きやすくてやりがいが感じられ、マリノが好きだと言ってもらえる環境づくりに力を注いできた結果と言える。
最後にアルバイトから社員になり現在は教育担当として壇上に上がった古澤氏の言葉から、環境の素晴らしさが伝わってきた。その堂々と想いを口にする姿が深く心に残る。

「私はアルバイトが生き生きと働いてくれて、マリノのことが大好きだと言ってくれるのが心の底から嬉しいです。それは、全社員が同じ思いでやっていると思います。私はマリノが大好きですし、マリノが大好きな人たちが集まった会社なので、これからもマリノが大好きと言ってもらえる会社でありたいと思っています。」

pagetop