顧客感動満足向上セミナー&交流会レポート(2007年11月1日)
『フードビジネス通信 2008年1月号』掲載
取材:西山博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
2007年11月1日、繁忙期に向けた特別企画として「顧客感動満足向上セミナー」が開催されました。当日は全国から経営幹部の皆様が一堂に介し、親睦を深める交流会も執り行われました。
以下に、顧客感動満足の実践企業4社様による特別講演でのお話をレポートしました。
特別講演の部では、事例の内容を振り返り、CIS(顧客感動満足)とEIS(従業員感動満足)の関連性について真剣に議論を交わしました。
現場と想いを共有 ~株式会社ハーバーハウス
株式会社ハーバーハウス 代表取締役副社長 高橋 拓也氏
私たちが店長向け研修プログラムを始めたのは、実はある店舗の閉鎖がきっかけでした。当時「ざうお」の業態開発が当たり、新宿の店が大盛況を喫していました。その勢いで赤坂にも出店したのですが、この店舗が大赤字となり、撤退を余儀なくされたのです。店舗に初めて撤退を勧告しに行った時、スタッフ全員が本当にシクシクと悔し涙を流しました。その時店長から言われたのが、「副社長と現場の距離がものすごく遠くなっているように感じる」「会社がどんどん変わって、冷たい会社になっているようだ」という言葉でした。上場を目指すあまり、いつの間にか現場との距離が離れてしまっていたことが分かり、非常にショックを受けたのです。
それなら一緒にやろうと、私も6ヶ月間現場に入ることにし、現場で一緒になってやっていたら、「会社の考え方は変わっていなかったんだ。やっぱり前と一緒だったんだ」という声が現場から上がってきました。これが嬉しくて、他の店舗スタッフとも想いを共有したい、風土を変えたいと思いました。これを契機に、『現場回帰』という方針を打ち出したのです。それと時を同じくして、LCAさんの店長向けプログラムを始めました。
1年目は試行錯誤を繰り返しながら研修を通して土台作りに邁進した結果、店長は成長してくれたのですが、想いが現場まで浸透するのには時間が掛かりました。そこで、2年目に入った時、担当の高野さん、湯瀬さんに相談し、現場のクルー(アルバイト)まで巻き込んだHERBプログラムをやるぞと決めたのです。
HERBプログラムを始めて現場を直接巻き込んでいった結果、本当に、クルーが率先していろんなアイデアを出すようになっていったのです。現場で想いを伝え、成功に至る順序を整理し、現場でも改めて実践しています。
例えば、所沢店のクルーが、誕生日のお客さんにいっぱいご来店頂きたいと考えていた。でも、なかなかお客さんは来ない。そこで、ファミリークラブという会員制度を作り、会員カードを配り、囲い込みを始めました。家族全員、親御さんからお子さんまで全員の記念日を聞いて、その誕生日の記念として、前月までにはがきでお祝いのメッセージとお店の告知を贈るのです。そして、来てくれたら徹底的に感動してもらう演出をしようという企画を、クルーから発案してくれました。お蔭様で所沢店は年間売上げ昨年対比を越え、昨年対比128% という売上げを叩き出す月もでてくるほど成長いたしました。他にも昨年の年間売上を大幅に超える店舗が続出してくるという結果となり、一連の運動が生んだ改善がこの結果をもたらしたに違いないと考えています。やはり現場で想いを共有するということが大切です。
私はこれからも、地に足を着けながらも夢は大きく、志も大きく持っていきたいと思っております。
無限の可能性に挑戦 ~株式会グローバルダイニング
株式会社グローバルダイニング 執行役営業管理本部リーダー 吉原 弘氏
『無限の可能性にチャレンジする』というのがグローバルダイニングの社是です。そこに何があるかと言いますと、3つあります。(1)民主主義(発言の自由の担保)、(2)情報公開(PL・BS、ボーナス・給料も全部徹底的にオープン)、(3)実力主義と終身雇用(日本代表になるのだという志を持っていないと残れない、徹底的な人選)です。
我々の目標というのは、「世界で通用するレストラン」ということです。ホスピタリティの分野で世界を目指しています。
ただ、この規模になり、グローバルダイニングはマーケットの中でお客様の評価を客観的に捉えることが出来ているのだろうかと考えた時に、店舗査定を始めました。店舗査定は、我々のボーナスにもリンクしています。私たちの会社はすべてが信賞必罰です。例えば、人件費にもリミットがありまして、それを超えると給料カットとなります。そういう風な非常に重たい罰則規定があるのです。
これがなぜミステリーショピングリサーチ(以下:MSR)をやるきっかけになったかというと、元々コンセプトリーダーが評価していた店舗査定を公明正大にやれる仕組みをつくろうという話になったからです。
MSRの結果は非常に真摯に受け止めており、お客様の評価というのは素晴らしいと思っています。例えば入り口でお出迎え出来なければ、ものすごく点数が下がります。そんな出来て当たり前のことが出来ていなかったりすることがあります。しかし、マネージャーやスタッフ自身、こうしたことは感覚では分かっているのです。感覚では分かっているのに出来ないこと、気付けないことがある。私たちは世界レベルのサービスを目指していますから、それらが実際に点数やダイレクトなコメントとして現れてくると、自分の懐に響くのです。
さらに、我々はMSRをより厳しく活用するために、サービスについて弊社の中で与える影響度合いの高い設問事項を定め、実際の結果でその設問をエラーしますと、入店~退店、オーダーなど、その設問が含まれるカテゴリが全て0点になるようにしています。そうすることにより、サービスに対する徹底度合いを測っているのです。頂くコメントに対しても、現場では徹底的に読み込んで自分自身を見直すツールとして使っています。
そうした取り組みを行っているのも、全スタッフが、自分達はお客様に感動を与えるエンターテイナーであるという意識を持っているからです。我々の目指すべきところは、お客様に感動を与えるレストラン、すなわちエンターテインメントレストランなのです。
組織の成長と人財の成長 ~ワタミDFS株式会社
ワタミダイレクトフランチャイズシステムズ株式会社 代表取締役社長COO 桑原 豊氏
「わたみん家」は、お陰様で北海道から甲信越、首都圏、関西、中四国まで多店舗展開を行ない、126店になりました。しかし、それまでには節目があり、必ず問題が起こってきました。
まず3店舗目をオープンした際に、初めての壁にぶつかりました。それは自分たちのお店がお客様に受け入れられているか? ということです。市場で受け入れられるような業態コンセプトを確立しなくてはなりません。10店舗を超えると、オペレーションのばらつきが発生してきます。だからマニュアル化などをやらなくてはならない。
次が30店舗で、人材の不足が起こるため、採用と教育が必要になってきます。そして100店舗を越えた現在の私たちは、組織の成長と人の成長のバランスを取ることが大きな課題となっています。
同業者の方に、100店舗で今のまま突っ走ったらどこかで倒れますよ、と言われました。そこで、一度全従業員のアンケート調査をやろうということになり、結果を分析して頂きましたところ、思っていたとおりの結果となりました。言ってみれば、すべて社長一人まかせなのがDFSの姿だったのです。同時に今こそ主体的な人材を育てないと、私が目指している全国300店舗は実現できないこともはっきりしたのです。
そこで、自ら目標を掲げ、問題を発見し、問題解決が出来る“クリエイティブマネージャー”を育てるため、LCAさんに特別研修プログラムを組んで頂きました。半年間の計6回で、現在、全店長に参加してもらっています。HERBリーダーシップ研修(※注)という、アルバイトさんを巻き込むためのプログラムです。
※注:HERBリーダーシップ研修は、店長が自ら考え、リーダーシッブを発揮し現場の改善意識を高めるためのプログラム。
例えばミーティングに関して、当時の店長たちは、「お店でミーティングをしなくてはいけない」程度の認識でしたので、一緒に働くメンバーの人生の目的や目標にまでは触れずに、形式的なところで終わっていました。しかし、プログラムを始めてからは、ミーティングの重要性を改めて理解し、メンバーの一人ひとりの人生観、アイデア、意見を聴くことに各店長が真剣に取り組んでいったのです。
そのような取り組みの結果、このHERB研修では約30店舗で実績が上がり、今は店長たちが自らリーダー研修を行うまでになりました。今後も継続して自社の仕組みとして根付かせていこうと強く思っております。
目指すは「マリノが好き」 ~株式会マリノ
株式会社マリノ 取締役営業部長 橋本 信之氏
私たちがMSRを導入したのは2001年でした。マリノでは、1店舗あたり月1万人のお客様に来て頂いているので、幹部も最初にたった一人のモニターさんの意見に耳を傾けるべきなのかという疑問を持っていました。しかし、MSレポートを読んでから実際にお店に行くと、その通りの状況が起こっているのです。それからはお客様一人ひとりの意見を氷山の一角のように考えるようになり、1万人の中の1人の意見でも重要視するようになっていきました。
とはいえ、数値目標を立てて出店をするうちに、いつしか会社の本部からは、「売り上げを伸ばせ」「業績、業績」ということばかりになり、会議でお客様をテーマにすることが少なくなっていってしまいました。現場のスタッフの中でどこかやらされ感が生まれ、だんだん組織自体も上辺だけの関係になっていきました。「何の為に働いているんだ」「自分たちの存在って何なのだろう」「会社のために業績だけ上げればいいのか?」というような、後ろ向きな意見を言うスタッフたちが出てきました。そんな中でも店舗は出店を続け、社員は育たず辞めていき、なかなか組織が安定しないという状況が続いていました。
そこで、悩み続けた2005の年明けに、初めてワークショップ型のLCAさんの研修を受けてみたんです。そのとき、自分たちに足りなかったものは、まさにこの研修の内容だと感じました。まず、改めて思い出されたのは、お客様の大切さでした。売り上げが上がるのはお客様がマリノに来店して頂けるからだという当たり前のことに改めて気付かせてくれたのです。マリノはもともとお客様に喜んで頂くのが大好きな会社で、そのことがまさに社員の喜びでした。数字を追うあまり忘れかけていたことを、新鮮に思い出すことができました。そこからスタートし、毎月の研修を店長が楽しみにし、どんどんお店が変わって行きました。この研修を受けていないマリノは想像できないくらいです。
コンサルティングはお金を出すのだからすぐに成果につながるべきだと考える方もいらっしゃると思います。しかし私は、価値を感じて成果に繋げていくのは自分たちだと考えています。弊社の社長もそうですが、お金を出したからコンサルの方が何かをしてくれるとは考えないのですね。知恵をもらってもそれを使っていくのは自分たちなので、それを履き違えて他力本願になってしまうとなかなか成果は出ないのではないかと思います。
私たちのワークショップを主体としたプログラムが成功したのは、社長も参加して同じような意見を同じように聞き、社長が従業員と同じ目線でやってくれたのが良かったのだと思っています。上の人は、どこかで見ていて、「はい、お前らやれよ」となりがちですが、やはり一緒になってやったことが従業員にとってはすごく嬉しくて、一体感に繋がったことが大きな要因の一つではないかなと思います。
15店舗くらいは平均170点(全国平均点153点)を超えているような状態を維持しています。このことからも、昔と比べると、改めて働く環境というものが非常に大事なのだと感じます。
嬉しいことに、うちは従業員もアルバイトの皆さんもみんなマリノが好きと言ってくれます。私たちの目標は、そんなマリノが好きと言ってくれる従業員をどれだけ増やしていくかに尽きると思います。それが、企業が繁栄していく一番の秘訣じゃないかなと私なりに考えています。
交流会
交流会では、普段意外と接することが少ない同業他社の方々同士で親睦を深め合うことにより、共に業界発展に貢献していくきっかけを作って頂きました。人と人とが触れ合うことで、大きなシナジー効果が生まれます。華やかなオープニングムービーから始まった交流会は盛況のうちに閉会され、互いに今後の更なる飛躍を約束しました。