居酒屋・レストランなど飲食店に関するクレーム要因調査結果分析
『超優良店ガイドブック2012年』掲載
文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
飲食店の顧客ロイヤルティ向上のためには、基本的なオペレーションの徹底が必要であることを先のコラムで述べました。弊社では、満足を感動に変える活動の重要性やその方法についてお伝えする機会が多いですが、いかに安定的なサービスを提供するかという観点からは、不満をなくす活動も同時並行で進めていく必要があります。ここでは、その際の指針について、「居酒屋(ダイニング)業態」、「レストラン業態」に絞り、過去の調査結果から見えたことを簡単に解説いたします。ここでいうレストラン業態とは、居酒屋業態と比べて比較的客単価が高く、食事をメインに楽しむ業態とします。不満や満足といった印象は、お客様の期待値によってつくられます。業態を絞っているのは、各業態に対するお客様の期待値が微妙に異なるためです。
※MSRでは、店舗訪問の総合的な印象に関して1レポート当たり300文字以上のコメントデータを得ます。このコメントと同レポート内のその他のコメントを一つずつ確認し、レポート毎に不満要素を短文で記載し直したものから、各単語の出現回数を計算しました。
下の図1と図2は、2010年8月~2011年7月の1年間における、1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の居酒屋(ダイニング)業態・レストラン業態のMSR総合得点100点以下のレポートに対して簡易的なテキストマイニング(※)を行った結果を表したものです。
不満要因には様々なものがありますが、居酒屋、レストランどちらも「スタッフ関連 (スタッフの対応)」の不満が100%言及されていました。居酒屋においては「活気」に関して言及されているコメントも多く見られます。これをそのまま読み解くと、上から順番に重要なもののように見えますが、コメントの内容を一つずつ読み込んでいくと、クレーム要因となる不満要素は大きく2種類に分けて捉えることができます。一つは、「その事実があるだけでクレームとなる要素」、もう一つは、「事実による悪印象を緩和または増幅させる要因」です。
居酒屋業態のクレーム要因
その事実があるだけでクレームとなる要因トップ3
1.提供が著しく遅い(ドリンクは10分以上、料理は30分以上)
2.スタッフを呼んでも来ない(呼ぶことすら困難)
3.食の衛生が不安(火が通っていない、食材の痛み、テーブルの上の設備、調味料の汚れ、スタッフの見た目)
(その他)
・空調が悪い(タバコの煙が充満している、店内が寒い、暑い)
・価格と料理が見合わない
・お金にルーズ(お金を手で受け取らない、会計ミス、金額があいまい)
・トイレや店内が著しく汚い
・料理の味が濃い
・メニューから現物がイメージできない
上記事実による悪印象を緩和または増幅させる要因
1.スタッフのマナー(私語が目立つ、非常識な言動)
2.スタッフのコミュニケーション能力(連携が取れていない、人によるばらつきが大きい)
3.店内の活気(スタッフのあいさつの連呼、スタッフの表情が主な原因)
居酒屋業態では「1.提供が遅い」「2.スタッフが呼んでも来ない」「3.食の衛生面が不安」という3つの要素が最も大きな不満要素となっていました。これらのひとつにでも当てはまってしまうと、他の条件がどれほど良くても大きな不満を生んでしまいます。
また、それらの印象を緩和または増幅させる要因として最も多かったのが、スタッフのコミュニケーション能力やマナーに対する言及ですが、特に多かったのは、「スタッフの私語」でした。最低限のサービスが行き届いていないにもかかわらず、スタッフ同士が私語をして楽しんでいたり、くつろいでいたりすることは、お客様の感情をさらに悪化させてしまいます。たとえ、少し隠れた場所で指示内容の確認をしていたのだとしても、お客様が不満を感じている状態では、ほとんどのケースでそれらは「陰口」だと認識されてしまいます。居酒屋業態のお客様の期待値は、活気のある店内で会話をしながらお酒や料理を楽しむことが一番。その期待値があるからこそ、活気のある雰囲気づくりのためにスタッフの表情、姿勢やマナー、挨拶の連呼などが重要になってきます。
レストラン業態のクレーム要因
その事実があるだけでクレームとなる要因トップ3
1.価格と料理が見合わない(料理の味が普通、料理の説明がない)
2.スタッフを呼ばなくてはいけない(手を挙げたりアイコンタクトをしても気づいてもらえない)
3.食事が落ち着いてできない(席が落ち着かない、暗すぎてメニューが見えない、他のお客様が迷惑)・メニューから現物がイメージできない
上記事実による悪印象を緩和または増幅させる要因
1.スタッフのコミュニケーション能力(連携が取れていない、人によるばらつきが大きい)
2.スタッフのマナー(私語が目立つ、非常識な言動)
一方で、レストラン業態のお客様の期待値は、食事を楽しむことです。店内のにぎやかさや元気の良さを求めて来られるわけではありません。また、客単価が比較的高い分、料理や料理を楽しむための接客に対する期待値も高いレベルにあります。
そのような特徴をもつレストラン業態では「1.値段と料理が見合わない」「2.スタッフを呼ばなくてはいけない」「3.食事が落ち着いてできない」の3つが特にクレームにつながりやすい要素となります。もちろん、居酒屋業態の説明部分に挙げたような飲食店としての基本的なQSCはクリアしていることが前提となります。それらの印象を緩和または増幅させる要因は、居酒屋とほぼ同じでした。
あらゆるクレーム対策に共通して言えることは、お客様がご来店される根本的な目的を外してはならないということです。ただし、クレームの改善を目的としてしまうと、マニュアル化されていなかった出来事への対応がうまくいかなかったり、お客様の気持ちを推し測ることができずに、仕事の面白味を感じられなくなってしまったりする結果につながることだあります。
お客様に喜んでいただくには、どんなお店が良いのかを話し合い、視野が狭くならないような工夫が必要です。
その上で、ここにご紹介したような実際の調査結果に見られる事例を、ぜひ改善活動のご参考としていただければ幸いです。