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組織戦略でトレンドの変化に対応

東京レストランツファクトリー株式会社

http://www.tokyo-rf.com/


『季刊MS&コンサルティング 2011年冬号』掲載
取材・文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

「ロードショープロジェクト」という独自の戦略を掲げ、2009年以降、店舗規模を5店舗から19店舗に拡大させ、現在も規模拡大を続ける東京レストランツファクトリー株式会社。ヒット業態を生み出すアイデアを持つ時代の鬼才を“監督”として招致し、業態開発のディレクションを委託する一方、自社はプロデューサーとして映画や音楽の配給会社さながらの立ち位置で業態の管理・運営に徹することで、安定的にヒット業態を世に送り出している。その戦略の背景にある考えと今後の展開について伺った。

変化を恐れない意識

日本の外食マーケットは、このまま何もしなかったら縮小していくでしょう。小売店で買ったお酒を家で飲み、インターネットで楽しむという人の比率が増え続けています。そのような中で、外食産業が提供できるのは、家では体感できない、アナログ的な面白さであると考えています。つまり、いかにして気持ちの高揚を提供できるかということです。

お客様の気持ちを高揚させるためには、利用動機に対して、期待値を超える何かが必要となります。どういう人が、どのような時に気持ちを高揚させるのか。接待をする人に喜んで頂こうと思えば、どうすれば接待がうまくいくのかまで追求する必要があります。それを実現させるための空間や提供の仕方などのプラスアルファをどのように提案し、どういう位置付けで、どのように社会に見せていくかを考えなくてはなりません。

しかし、音楽と同じで、人の気持ちを高揚させるものはどんどん変化していきます。一方で、自社のカラーにこだわりを持ちすぎてしまうこともよく起こります。業態がヒットしている時は良いですが、それがマーケットの変遷に合わなくなってしまうことがあるのです。結果、時代の流れに合わせて、新しい業態が出てきてはなくなるということが繰り返されています。100年続く店が理想ではありますが、それを実現することは本当に難しいことです。それであれば、時代の流れを受け容れ、時代の移り変わりに合わせて自分自身を変化させていくことが、外食業界を生き抜くために必要な考え方だと思っています。

代表取締役社長 渡邉 仁氏


ロードショープロジェクト

新しい業態のアイデアは必ずしも私たちが生み出さなくても良いと考えています。音楽業界に例えて言えば、楽曲を生み出すのではなく、エイベックスのように楽曲の制作も含めて音楽を世に送り出す立ち位置を目指しているのです。

そのためには、徹底したスピードとプロフェッショナリズムが必要になります。私たちが新業態のプロジェクトを発足させてから店舗をオープンさせるまで、最短で約1ヶ月という短い期間のこともあります。ターゲットや雰囲気など、自分達の考えを外部から招いた監督に伝え、マーケットに合った監督のクリエイティブなアイデアを受けて生まれたコンセプトをパッと具現化するのが私たちの役割です。コンセプトが決まれば、立地選定、雰囲気の具現化、料理の考案まで、アイデアの具現化は全て自社で行います。そうして、知見や知恵の融合によって今あるものよりさらに優れたものを生み出すことが狙いです。

そこに関わる人達は、それぞれが高い専門性や得意分野を持つプロフェッショナルです。そのため、プロジェクトを円滑に成功させるには、チーム力が大事になってきます。また、組織が大きくなってもスピードを失わないための組織づくりも、私たちが今取り組んでいるテーマです。そして、行く行くは社内でも業態開発ができるような体制をつくることも考えています。

「御曹司きよやす邸 鎌倉プリンスホテル店」


★リッチゾーン:東京レストランツファクトリーでは、店舗の利用目的や客単価に合わせてリッチ・ミドル・カジュアルの3つのゾーンに分けて業態開発を行っている。リッチゾーンは、プライベートでのハレのひととき、ビジネスシーンでの接待などの利用に最適な業態として設計。厳選した立地と物件で、和食職人が一切の妥協を許さずにこだわり抜いたメニューとおもてなしを提供する。今後は、日本の味とおもてなしを世界に広めるべく、ホテルなどと提携した海外出店も視野に入れている写真は「HOME’S BAR 48(Yonpachi)」。

「HOME’S BAR 48(Yonpachi)」


企業化のための組織づくり

外食企業は、家業が7割。5~6店舗の家業としての規模が一番儲かります。自分の目の届く範囲で運営できる規模の方が経営しやすいですし、財務面も厳しくは問われないからです。そこから先、家業として儲け続けていくのか、店舗を増やして企業化するのか。それを決めるラインが5~6店舗になりますが、そこを超えると、企業として組織をつくっていかなくてはなりません。

当社では、平均年齢は34歳、社員数は60人、抱える子供も60人。高級業態から単価の安い業態まで手掛けているので、一番下は20歳、一番上は56歳と、様々な人生を抱えた社員がいます。外食のキャリアは、ステップアップし続けていけば良いのですが、外食企業に入社してから40歳、50歳程の年齢になって収入も高くなってくると、社内から退職の圧力がかかったり、転職や独立を考える人が多くなる傾向があります。誰もが、やりがいがあって安心して長く勤められる会社を探しているのです。そのため、どのような年代であっても、業態開発、料理、店舗のオペレーション、マネジメントなど、それぞれが強みを活かして切磋琢磨できる会社にしたい。それが、各自の強みを活かすロードショープロジェクトのもう一つの目的でもあります。皆で助け合って生活してくためには、会社として社員とその家族を守らなくてはなりません。

そう考えて、100億企業という目標を掲げました。100億やっている企業は、50年続きます。そうなれば、終身雇用が実現できる。100億という数字の分かりやすさもあって、私は100億というのが経営者にとってひとつの区切りだと考えています。外食企業は1店舗1億というのが普通ですから、組織は100店舗の規模になります。これを目指して今のスピードで展開していくと、7年後には100億を達成する見込みです。

しかし、そのようなスピードで店舗展開を続けていくと、社歴の浅い社員が多くなってきます。どれほど優秀な人でも、ベクトルが合わなければチグハグになってしまいます。また、組織が大きくなればなるほど人も成長していかなければなりません。MS&Consulting(以下MS&C)と組んだのも、人財教育や組織運営能力の強化が目的でした。

★ミドルゾーン:立地ゾーンで追及してきた和食職人のメニューのおもてなしを、エネルギー溢れる店内で提供する。最も積極的な出店を行っている会社の中核ゾーンだ。

「肉焼居酒屋 三船新宿店」

「ご馳走居酒屋 三船 人形町店」


変革の意志表明

2010年8月、会社が目指す姿や、そのために必要な組織や考え方を明示し、想いを共有するための「ビジョン合宿」を皮切りに、組織変革をスタートさせました。

人は誰もが、過去の様々な経験の中で、右左のジャッジをしてきています。そこで、今の自分、今の状況に本当に満足しているかを聞いたところ、実は、多くの社員が満足していなかったのです。それならば、今、会社の皆で一つのジャッジをし、皆で変わろうと呼び掛けました。人は変わる事によって人に刺激を与えます。今の自分を変えていくことで、新しい変化が起きる。その変化は、波及して全てのことを変えていきます。

私は、生活のスタイルを変えました。1日4箱吸っていたタバコは、辞めると宣言してピタリとやめました。服装を変えたり、毎朝5時に起きて散歩をしたりしています。変わることを恐れず、自ら変わり、成長を楽しむ。変化をしていくことは大切なんだという事を自ら示しました。中でも会社にとって一番大きな変化が、MS&Cと組んで組織変革のプロジェクトを開始したことです。

社員集合写真。「7年後の売上高100億円」を目指し、2009年以降に出店した店舗数は14店舗と、急速に拡大する組織。しかし、ただ拡大しているのではない。外食企業では困難とされてきた「終身雇用の実現」を目指した安定的な企業基盤の構築に向けた拡大だ。


小手先でなく総合的な視点で

MS&Cと出会うまでは、ミステリーショッパーを導入することは、店に監視カメラをつけるようなものだと思っていました。それが、実はそうではなく、お客様の気持ちを理解し、スタッフの働きがいにつなげ、お客様対応へリンクさせていくという視点が面白かった。ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)や研修を通してお客様の声を意識していくにつれ、スタッフの気持ちが変わっていったことが分かりました。

しかし、大切なのは、お客様の声を肯定的に見せるテクニックやモチベーションの向上というような小手先のノウハウではなく、企業目的の達成に合わせて総合的に考える視点です。そう考えると、顧客満足の得られる企業体質をつくり、経営目標を達成し、社員の人生の目標を実現させていくという目的を目指すためには、個々の施策をばらばらに行うのではなく、全ての施策が相乗効果を生むように関連付けられるほうが、費用対効果が大きいと思いました。そのような観点から、MS&CとはMSRだけではなく、そこから気付きを引き出し組織風土を変革させるための人財教育から人事評価制度、経営管理システムの導入まで一気通貫して一緒に取り組んでいます。

人財教育や人事評価制度は、会社にとって非常に大切な部分です。それを、手前味噌ではなく、外部の専門家と共同して取り組み始めた。それによって、「家業から企業への変化を目指す」という意志を、社員全員が認めてくれました。

2011年1月からは、「ファンタスティックアカデミア」という人財育成プログラムが始まります。意識の高い人を集めて集中的に特訓し、組織を引っ張る人財を育てるというものですが、このプログラムにエントリーしてくれた31名の決意表明を見ると、身震いするぐらいに皆が会社のことを考えてくれていました(下)。そうやって取り組みが始まっていく中で見えてきた“うちらしさ”が、やがては組織風土になっていくと思っています。

ファンタスティックアカデミア


■ファンタスティックアカデミアの決意表明

・何十年先にあっても、人間対人間の関わりが一番の感動をつくることができる唯一の方法ではないかと確信しています。100億円企業になるよう、一個人としてではありますが、頑張ります。(勘助邸・中村明彦氏)
・参加に当たり、自己革新の第一歩として、まず約20年間続けたタバコを禁煙しました。アカデミアを通じて数段のレベルアップをし、常に前向きに、感謝の心を持ち、何事も完遂する責任感を持って行動していきます。(御曹司松六家・鈴木慎二氏)
・「老若男女が切磋琢磨する100億円企業を目指す」という7年後にあるべき姿(方向とスピード)が明確になりました。(三船六本木店・植野智雄氏)
・私自身の成長が企業の成長になり、それが事業拡大につながってくると感じました。色んな外的要因があるにせよ、まずは今よりももっと上を見ながら動けるような人間になれるよう努力します。(御曹司きよやす邸・尾田原真二氏)
・未熟だからこそ、伸びしろがある。未熟だから人の倍努力しなくてはいけない。僕は、年相応には生きたくありません。なので一刻も早く、追いつきます。(新宿三船・濱田星)
・会社として100億というビジョンに自分が何を成すべきか、戦略と計画、その方向に絶対に向かっていく。会社が大きくなれば自分達の幸せにもつながるという事。仲間に恵まれたことが自身にとっての大きなプラスでした。(神田三船・中園貴雄)


今後の展開

これからは、海外の展開、アジアに目を向けています。今、良い立地や注目を集める商業施設には、ほとんどの場合日本のブランドが入っており、アジア各国の富裕層が、日本で流行っている業態のライセンスを欲しがっています。

私たちの強みは、時代に合った監督と共同して、時代に合った業態をつくることです。自社が展開している業態を提供するのではなく、1店舗2店舗が大ヒットした業態をさらに開発して展開をプロデュースしたり、マーケットリサーチを行い場所や流行に合ったものを開発し提供したりすることができます。その強みを活かして、予め海外展開を見込んで業態開発を行い、日本でヒットさせた上で香港やシンガポールに持っていき、現地のジョイント企業とライセンス契約をして現地で一気に拡大して頂く、という流れが今後の戦略です。実際に、「博多道場」は現在そのような流れで業態開発を行っており、2011年内には海外展開に移る予定です。

さらには、そのような組織的な業態展開以外に、熟練した社員が独立して個人で経営していけるような、息の長いのれん分け業態をつくっていこうとも考えています。そのようにして、企業の競争力を高めていくと同時に組織内でのポジションも増やしていき、様々な強みや目標を持つ社員が活躍できる場を提供していくことが、私たちの目指す姿です。

「九州料理居酒屋 神屋流 博多道場」:2011年内にアジアを中心とした海外展開を視野に入れる業態だ。世界的に注目を集めるようになった日本食ブームの流れに、九州の名物料理と共に参入する。


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