高いスキルを生み出す人財育成に注力し、 ハイタッチな接客と斬新なメニュー提案を実現
株式会社ハピネス
奈良県奈良市右京4-13-1
ウェブサイト:http://www.hairmake-happiness.com/
『季刊MS&コンサルティング 2009年夏号』掲載
取材:宗像吉樹、文:藤平吉郎
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
ヘアメイクからトータルビューティーまで幅広いメニューを提供する美容室を奈良・京都で6店展開する株式会社ハピネス。02年の創業以来、7年に亘って増収・増益を続け、美容室改革の新たな試みに積極的にチャレンジする注目の企業だ。そこには、企業理念と行動指針の明確化、充実した研修制度、チーム制の導入など確かなバックグラウンドが築かれている。その成長の要因とチャレンジの方向性を探った。
実戦力を磨く19のミッション
同社はハピネスとクローバーの2業態を持つ。出店は1年に1店という着実な展開ながら、昨年、ある美容師向け雑誌の「就職したいランキング」で全国8位となった。その影響もあり、全国から応募してくる人が増えている。また、意欲を持って働ける職場環境のため離職率は低い。このような従業員満足の高さが顧客満足につながり、新規リピート率は業界平均38%に対して、50%。さらに、国内約40万人の美容師の中で、月150万円の指名売上を上げているスタイリストは8000人程と言われる中、ハピネスではスタイリストの40%近くが月150万円の売上を達成するほど、高いレベルを維持している。
今年はアカデミーというデビュースタイリストだけで運営するサロンをオープンし、来年はハピネスのノウハウを集大成した巨大トータルサロンの出店を計画している。
ハピネスの戦略の特徴は、現場の実戦力を高めるために、ミッションとして19の作戦を立てていることにある。サロンで今、できていないテーマを作戦の中から選び、週、あるいは月単位で実行する。例えば、「担当外声掛け作戦」は、自分の担当ではないゲストに最低2回以上声を掛ける。さらに、すべてのゲストの名前を呼ぶ「名前作戦」や、「褒めトーク作戦」といったミッションがある。この作戦により、接客力の向上や、ハピネスが大事にしていることを習慣化していくのが目的だ。
個々の能力を最大限に生かすチーム制を導入
これらの戦略の実行性を高めるための基盤となっているのが、人財育成体制である。チームワークの大切さやマナーなどを学ぶ新入社員研修や、3年生研修、店長研修、女性幹部研修、レセプション(フロント)研修などが充実しており、モチベーションの強化につなげている。
また、1年半前にはチーム制を導入した。谷口誠治社長が今までにない発想、つまり、トップダウンでなく、下からの声が上に上がっていく風土を作りたいという思いから、入社1年目の社員を主体に「CRM※」というチームを作った。その後、チームは増え、オンリー・ワンのサロン作りのためのブランディングチーム「ルーツ」、ヘアーショーの開催やコンテスト参加などを担当するクリエイティブチーム「リリース」、着付けサービスを専門に行う「わさび」チームなどができ、スタッフは得意分野に所属している。
※CRM:Customer Relationship Managementの略。情報システムを応用するなどして、企業が顧客と長期的な関係を築く手法のこと。
そして、「自分に合う道を見つけて、そこで力を発揮し、成長できるチャンスを与えたい」(プロフェッショナル事業部・平田晃嗣教育部長:右上写真)と、チームや部署の変更にもできる限り応えている。長年デザイナーを担当しながらも、なかなか指名が上がらなかった人が着付けチームに移った途端に指名が増え、今ではリーダーとなって部門の売上を大きく伸ばしている。また、かつて、スタイリストに向かないと辞めそうであったスタッフが、スパやエステなどを担当するトータル事業部ができ、そこに配属を変えた結果、チーフになったケースもある。いわば「適材適所」の、柔軟な組織体制がそこにはある。
プロフェッショナル事業部・平田晃嗣教育部長
達成感とさらなる進化のため数値目標を掲げる
各チームや部署には、数値目標が課せられている。「ルーツ」は紹介件数やリピート率のアップ、「リリース」は受賞の数を増やすこと、「わさび」は成人式の予約を伸ばすなど、具体的な数字を掲げて達成を目指している。また、スタイリストは指名売上や次回予約比率、アシスタントはサイドメニューアプローチ売上といった目標も設定している。その結果を、店全体の売上や単価、店販比率、パーマ比率などと共に集計・管理し、全スタッフ約120名の1日の売上、月間、年間のランキングを把握している。なお、重点目標に関しては、5日毎に個人ランキングも出している。
「私たちはプロの世界なので、数字がなければ評価できません。野球選手と同じで、数字がリアルに出ることによって、その人が変化していくと思います」と平田氏は強調する。
成果達成に向けて全社一丸となって取り組む
数値目標の結果に関しては、週1回の店長会議で問題点と課題を明らかにし、改善に取り組んでいる。その他、アシスタントリーダーミーティング、動員長ミーティングなどを開き、現場への落とし込みを図っている。
また、月1回、土曜日の午後、奈良に全スタッフが集まって会議を開く。そこで、各チームの取り組みや、各店の成績などを発表し、店長や教育部のディレクター、デザイナー、レセプション、アシスタントなど各部門のMVP表彰を行っている。さらに翌日曜には、店内ミーティングを開いている。その他、各店では仕事が終わった後、幹部やスタッフに対して、メールと口頭、ファックスでの報告をするなど、ハピネスでは全社一体となったコミュニケーションを活発に行っている。
付加価値を付けることでオンリー・ワンを目指す
美容サロン業界では、トリートメントの値段を下げるサロンが出てくるなど、不況の波が大きな影響を与えている。ハピネスでも昨年から、新規顧客の獲得数が減ってきている。その対策として、低価格の流れと逆行するが、戦略的にカットやカラーリングなどメニューの値段を上げた。同時に、ドリンク提供は陶器製に変えて可愛らしさを演出したり、上顧客の誕生日には手書きのメッセージを付けて、花束を届けている。店にとっては手間が掛かるが、ゲストに喜んでもらえる接客サービスを重視するように心掛けている。
また、新たな取り組みとして、ヘアーの後にヘッドスパ、アイラッシュ、ネイルなどのメニューをプラス提案することも始めた。その狙いを平田氏は、こう説明する。
「ディズニーランドのアトラクションが変化するように、美容院もテーマパークのように変化しなければダメだと思っています。うちの店に“何となく来た”と思われるようではいけません。他のサロンにはないものを作って、オンリー・ワン化しないと顧客は離れていってしまうので、いろいろなメニューを組み合わせて提案しています。どんなサロンが進出してきても揺るがないように、施術の仕方、スタイリストの人間性、サービスもホテル以上のホスピタリティを心掛けています。値段を上げる代わりに、ソフト面をプラスしていくチャレンジです」
また、美容師兼ネイリスト、レセプション兼ネイリストなど専門でない人が、仕事の流れの中でネイルを手掛けている。 今後は、ネックトリートメントやヌードジュエリーを行ったりと、他のサロンにはないラインを揃えることも検討している。
VIPルーム(完全個室):友達や家族と一緒にDVDをみたり、好きなドリンクを飲みながらゆっくりとくつろぐことができる。
モチベーションのアップに向けての取り組み
このようなチャレンジを続ける中で、同社は昨年、ミステリーショッピングリサーチ(MSR)を導入した。平田氏は、「技術部門をもう一度見直すということで、すごく良かったです。特に、サービスの部門は数字に出ることがなかったので、自分たちのやっている取り組みがリアルに数字化されることで、役立ちました」と話す。
なお、同社は関西の美容室10社約100店のサロンで形成される「パワーズ」(※)に所属している。これは、知恵をみんなで共有して、切磋琢磨していこうという集団で、フォトコンテストなどの事業を行っている。
※関西の美容室10社、約100店のサロンで結成する「パワーズ」は昨年12月、MSRコンテストを開催した。今回が初めての試みで、テーマは「カット+カラー」。覆面調査員が全店を訪れ、カット・カラーの施術だけでなく、電話応対や接客などを厳しい目でチェックした。そして年明けの1月26日、パワーズ新年総会式で結果が発表され、株式会社ハピネスは、グループ中で最も平均得点が高かった企業に贈られるブランド賞を受賞した。他店と平等な視点で調査・審査されることで、自店のレベルを知ることや、さらなるレベルアップを目指すモチベーションの向上にもつながっている。
そして昨年12月、加盟サロンのレベルアップを図るため、パワーズMSRコンテストも実施した。ハピネスは、グループ中、最も平均得点が高かったことから、ブランド賞を受賞。「1位になれなかったことで、スタッフは、もっと努力しなければならないと痛感しています。ともあれ、MSRがモチベーションのアップに役立ちましたね」と平田氏。
昨年はその他、電話対応を評価するレセプションオリンピックも開いた。レセプションは非生産部門で、これまで評価されることがなかったため、パワーズの独創的な試みとなった。今年はそれを発展させ、接客・接偶と電話の2部門に分けてオリンピックを開く予定だ。さらに、今年はシャンプーオリンピックも計画している。なお、ハピネスも独自にオリンピックを実施しており、カット、パーマ、シャンプーの各オリンピックで、技術の高い人を評価している。
最後に―。スタッフ全員で支え合う組織を目指して
「うちの家はみんな悪い」という小学校4年の女の子の詩があります。お母さんが掃除をしていて花瓶を倒してしまいました。するとお父さんが、「ごめん、お母さん。俺がテーブルの真ん中に置いておかなかったからや」。すると兄は、「倒れそうな花瓶を俺が買ってきたからや。ごめん」。弟は「掃除をする時に俺がどけていればよかった。ごめん」。
それで女の子は、「だから、うちの家はみんな悪い」と書いたんです。これは、温かいですね。 何かが起こった時に、みんなが、それは自分にも非があると思える集団はいいですね。 MSRで、誰かが名前を書かれて悪い点を指摘されても、それは自分が教えてあげられなかったからだとか、先輩として見てあげられなかったと、支える気持ちを持てる集団を目指したいですね。
ハピネスベーシック
・現場の行動習慣に新しいクセを根付かせる
・取り入れた新習慣の成功体験を増やす
・他人のやり方(新習慣)を学ぶ
・小さな習慣の積み重ねでブランドの底力を上げる
・自分の職場・ブランドに自身と誇りを育てる
ハピネスベーシックに向けた実施要綱
・第1週の初日朝礼で作戦について、やり方や注意点を確認する
・隊長、副隊長を決める
・副隊長が次の日に隊長をする
・隊長が副隊長を任命する
・1項目を1週間続ける
・毎日の終礼でゲストの反応や自分の気付きを発表する
・※特に成功事例をたくさん集めて共有する
■担当コンサルタントが語るこの企業の強み
株式会社MS&Consulting 宗像吉樹
美容業界は、「一国一城の主」を目指す独立志向の強い方が多く、トップスタイリストが辞めれば、お客様も離反してしまうため、「繁栄の継続はない」と言われております。ハピネスは、「個」の力だけでなく「組織」力で、毎年増収増益を実現する美容業界で最も注目されている企業の一つです。プロジェクトチームの取り組みにより、更に組織力が強化されていくことと思われます。美容業界のモデル企業として今後も注目していきたいと思います。
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