新型コロナに対する消費者の感覚は今後どうなるのか?
現在、新型コロナウイルス(以下、COVID-19)の新規陽性者数は減少傾向ですが、一方で、Go to トラベルキャンペーンやGo to イートキャンペーンなどの景気刺激策が始まりました。感染症対策と経済活動を両立させる動きが強まっている現在、消費者の“今の感覚”はどうなっているのでしょうか?弊社が有する一般消費者調査パネル51万人(2020年2月末時点)へのネットリサーチ結果や経済産業省や日本フードサービス協会など公開されている市場動向データを用い、考察した結果を紹介いたします。
- 一般消費者の感覚はPCR検査陽性者数と連動しているが大きな変化は見られなくなってきている
- 居酒屋業態においては、消費者の感覚が市場動向より先に変化する傾向がある
- 今後は、「感染症対策に安心できる」を土台に、「感染症の不安を忘れられる楽しさ」が求められていくと考えられる
【ネットリサーチの期間と回答数】
1.一般消費者の危機感はPCR検査新規陽性者数と同じような変化をしてきた
【図1】はPCR検査陽性者数の推移です(厚生労働省ホームページの公開データを利用、グラフ化は弊社)。
新規陽性者数は、3月末頃から増え始めるも4月中旬をピークに減少に転じ、5月には少ない状態で安定しました(緊急事態宣言も5月25日に全国で解除)。しかし、6月末から徐々に増加し、7月から8月上旬にかけて一気に増加、新しい生活様式での”特別な夏”となりました。その後、徐々に減少傾向となりましたが、そのペースは鈍化しているという9月末時点での状況です。
【図1】PCR検査陽性者数の推移とネットリサーチのタイミング
※出典:厚生労働省オープンデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data)より弊社グラフ作成。
※ネットリサーチは数日にまたがり実施したこともありますが、大部分の回答が調査初日に固まっていることを踏まえ便宜上グラフには調査初日の日付を掲載。
【図2】では、PCR検査陽性者数とCOVID-19に対する危機感を比較しました。COVID-19に対する危機感は、弊社ネットリサーチにおける「コロナウイルスに対する危機感をどの程度感じていますか?10段階でお答えください」という設問の回答結果です。この2つの数値を比較すると、その動きが似ていることが分かります。
【図2】COVID-19に対する危機感の平均値と調査当日における新規陽性者数の推移比較
※単日でのPCR検査新規陽性者数には月曜日が少ない(検査機関の土日稼働が少ないため)傾向がありますが図2の日付はいずれも火曜日~金曜日の結果としています。
ネットリサーチ第1回から第3回を行ったタイミングは、緊急事態宣言が出される直前から宣言が解除されたタイミングです(4月中旬~6月中旬)。新規陽性者数が減少トレンドにあった時期ですが、COVID-19に対する危機感も第1回を最高値として減少トレンドにあったことが分かります。
第2回から第3回にかけては、新規陽性者数は大きく変わらないにも関わらず、危機感は減少トレンドです。緊急事態宣言が解除されたことにより一般消費者の危機感が和らいだことを示しています。
第3回から第5回にかけては、第2波によって再び新規陽性者数が増加した時期でした(6月中旬~7月下旬)。COVID-19に対する危機感も同様に増加トレンドに転じました。しかし、新規陽性者が第1波を超える数報告されていたにもかかわらず、第1波ほど危機感は高まりませんでした。
第5回から第7回かけては、第2波が収束していく気配が見られたタイミングで新規陽性者数も減少トレンドにあった時期でした(7月中旬~9月上旬)。COVID-19に対する危機感も同様に減少トレンドに転じ、6月中旬時点の水準まで下がってきました。しかし「少しでも危機感を感じている層(6点以上)」がまだ76%と、依然として高い水準で推移しています。
2.居酒屋の利用率は徐々に回復している。緊急事態宣言解除直後と比べて危機感を持つ人も居酒屋を利用するようになってきている
【図3】は「直近で居酒屋を利用したのはいつですか?」に対する回答の推移です。2週間以内に居酒屋を利用した人の割合は、第3回(6月中旬)で19%だったのに対し、第7回(9月上旬)では23%と4pt向上しています。第6回(8月中旬)までは徐々に減少トレンドだったのですが、ここに来て回復の兆しが見られます。
【図3】 2週間以内での居酒屋利用率の推移
この「2週間以内での居酒屋利用率」ですが、COVID-19に対する危機感ごとに見てみると「居酒屋の利用が増えている層」と「増えていない層」に分かれていることが分かります。
【図4】は第3回と第7回におけるCOVID-19に対する危機感別の2週間以内居酒屋利用率です。これを見ると「COVID-19に対する危機感」が極めて高い層(10点、9点)では居酒屋利用率が増えていないのに対してそれ以外の層(8点以下)では増えていることが分かります。
ここで大事なのは「比較的COVID-19に対する危機感が高い層(8点~6点)」でも居酒屋利用率が徐々に高まっているという点です。COVID-19を何とも思わなくなったから居酒屋利用率が高まっているのではなく「確かに危機感はあるけど、でもずっと我慢してきたしやっぱり居酒屋で飲みたい」というジレンマの中で居酒屋など外食の利用が進んでいるものと考えられます。
【図4】 COVID-19に対する危機感別の2週間以内居酒屋利用率
3.一般消費者の感覚は経済指標より先に変化する?
今回、株式会社MS&Consultingが今まで取得してきたネットリサーチによる「一般消費者の感覚」と各種オープンデータから取得した外食業界(居酒屋業態)の動向を比較、分析してみました。その結果が【図5】です。
参考にしたのは以下のデータです。
- 飲食店情報の閲覧数(出典:V-RESAS ※1)
- パブレストラン,居酒屋の第3次産業活動指数 ※2(出典:経済産業省)
- 居酒屋・バー業態売上高前年同月比(出典:日本フードサービス協会)
- ワタミ・鳥貴族の既存店売上前年同月比(出典:フードビジネス総合研究所)
※1 V-RESAS|新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を可視化したWebサイト。内閣府地方創生推進室と内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が提供している。https://v-resas.go.jp/
※2 第3次産業活動指数|第3次産業(非製造業、広義のサービス業)に属する業種の生産活動を総合的に捉えることを目的として経済産業省から発表されている。https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/
【図5】 各種オープンデータと消費者調査結果の比較
※飲食店情報の閲覧数は週次、ネットリサーチによる消費者の調査結果は調査初日の日付に記載している。その他の月次データについては第3週の位置に記載している。
この結果を見ると、3月~5月にかけて居酒屋業態の落ち込みが如何に大きかったかが分かります。そして6月中旬以降を見てみると「消費者調査の結果(オレンジ)が各種売上指標より先に動いている」傾向が読み取れます。
例えば消費者調査では、6月中旬から7月上旬にかけてCOVID-19に対する危機感や居酒屋利用に対する抵抗感の悪化が出始め、7月下旬にはそれが決定的となりました。一方、V-RESASの飲食店情報閲覧数が大きく下がりはじめたのは8月の第1週、日本フードサービス協会の発表や各社の開示情報においては7月までは改善傾向だったものの、8月から売上が悪化していると報告されています。つまり8月から悪化し始めた各種売上指標よりも早く、消費者調査では7月から悪化の兆候が見られていたということになります。
消費者調査の数値は7月下旬を底に徐々に回復傾向にあります。またV-RESASの飲食店情報閲覧数も8月の第3週をそこに回復傾向を見せています。そのため9月以降居酒屋業態の動向も改善していくと予想され「Go to イートキャンペーン」にはその動きをさらに加速させることが期待されます。
4.一般消費者の感覚は今後どうなる?
一般消費者の感覚はPCR検査陽性者数と連動するものの、徐々にその影響は小さくなってきていることが分かりました。第2波では第1波のときほど危機感が高まらなかったことから、仮に第3波が来たとしても、徐々に消費者も慣れるため危機感は高まりづらいことが予想されます。
同様に、8月から9月上旬にかけて熱中症や台風、政治関連の報道が増えていったにも関わらず、COVID-19に対する危機感が大きく減少することはありませんでした。
このことから、消費者心理が今後急激に変化はしにくいと思われます。
一方で、外食利用や各種サービスの利用については徐々に回復していくものと考えられます。そのため「不安はあるが○○したい」というジレンマの中でサービスを利用してくことになると考えられます。そういった一般消費者のマインドを考えると、今後サービス業においては「感染症対策に安心できる」を土台に「感染症の不安を忘れられる楽しさ」が求められていくのではないでしょうか。
まだまだ今後何が起きるのか、どう世の中が変わるのか、もしくは、変わらないのかが分からない中ではあります。今後も株式会社MS&Consultingでは感染症対策と経済活動の両立させるためのヒントとなる基礎データをタイムリーに発信していきます。