離職率が高い原因はどこにある?離職率が低い店舗の特徴
東京商工リサーチによると、人手不足で倒産する企業が2018年は387件と過去最多になり、従業員の定着率向上は、ますます大きな経営課題になってきています。そこで本コラムでは、弊社が実施する従業員満足度調査「tenpoket(テンポケット)チームアンケート」のデータから見えてきた従業員の定着率向上のヒントをご紹介します。従業員満足度調査「tenpoketチームアンケート」は、アルバイト・パートも調査対象としており、アルバイト・パート比率が高いサービス業の皆さまにも、参考にしていただけるものと思います。
「離職率」と関係が高い、トップ3の項目とは?
【図1】は、従業員満足度調査「tenpoketチームアンケート」に回答いただいた1,900店舗、24,348名の回答結果と、在籍店舗の離職率の関係を調べた結果です(調査期間:2018年8月~10月)。
離職率が、
・低い店舗(10%未満)
・中間の店舗(10~35%)
・高い店舗(35%以上)
を比べた時、tenpoketチームアンケートの全36項目うち、どの項目の差異が大きかったかを調べました。
【図1】 1,900店舗の「離職率」と「各項目の5点満点比率」の関係
※「差異a-b」と「差異b-c」の合計数値の値が大きい項目順に並び替え
※離職率の計算式:(直近1年間で辞めたアルバイト・パート人数) ÷ (現在の在籍人数+直近1年間で辞めたアルバイト・パート人数)
※飲食業、小売流通業など様々な業種を含むデータです
離職率が低い店舗(10%未満)とそれ以外の店舗で違いがあった、トップ3の項目は、
・お客様への思い(メンバーはお客様に喜んでもらいたいと思いながら働いているか)
・信頼(リーダーとして信頼できる店長か)
・ビジョンへの共感(共感できるビジョンのお店で働いているか)
となっています。店長(管理者)のリーダーシップやチーム風土が、離職率に大きな影響を及ぼしていることがわかります。
また、「お客様への思い」「ビジョンへの共感」に加えて、「有意味感」「仕事への誇り」「実行力」「継続力」も上位の項目に入ってきています。離職率の低い店舗では、店長が顧客満足(CS)の向上を目標に掲げ、その目標にスタッフが共感して取り組み、お客様から「笑顔」や「ありがとう」をもらえる機会が増え、業績にも貢献し、ひいては、スタッフの仕事に対する誇りが生まれる…という好循環が生まれていることが考えられます。
同時に、「仲間の成長意識」も上位項目にランクインしており、それらの活動を、仲間と一丸となって取り組んだり、互いに切磋琢磨する風土も形成されていると想像できます。
【図2】お客様への思いを起点とした好循環
「離職率」が低い店舗の店長の特徴
仲間と切磋琢磨しながら、お客様に向き合い、仕事の意味を見つけられる職場。結果、離職率が低い職場。そんな店舗を作りあげる上で基礎になりうる項目が、店長の「興味・関心」や「強みを伸ばす風土」、結果として、生まれる店長への「信頼」です。
店長への「信頼」は、離職率10%未満の店舗の項目の中で39%と最も満点比率が高い項目となっており、特に重要な項目となっています。
これらの項目を高めていくためには、店長が、スタッフに対して出来ないこと・失敗したことばかりを指摘(弱みにフォーカス)するのではなく、出来たこと・うまくいったことを中心にコミュニケーションを取り続ける(強みにフォーカスする)ことが求められます。
もちろん、強みにフォーカスすると言っても、何でもかんでも褒めれば良いということではなく、日頃からスタッフに関心を持ち、頑張っている姿勢や行動を掴み、結果が出たときには自分事のように最大限に褒めることを意味します。また、見守る中で気づいた、強みや得意分野にあわせて仕事を任せ、スタッフ一人ひとりが持っている能力や意欲を最大限に引き出し、働きがいを高めていくことも大切です。
参考までに、店舗で働くスタッフさんからよく耳にする「信頼を失いやすい店長の行動例」を紹介いたします。店長の皆さまのセルフチェックや改善活動にご利用ください。
・シフトの調整が遅い |
強みにフォーカスしたコミュニケーションからスタートし、スタッフが共感しやすい顧客満足向上というビジョンを掲げた取り組みを続ける。すると、スタッフは仕事に「有意味感」を感じ始め、向上心が芽生え、働きがいが高まっていきます。こうした改善の過程を経ることによって、退職者が減り、高い従業員定着率が実現されているということを、このデータから読み取ることができます。
従業員の定着率向上を目的として、様々な制度や福利厚生の仕組みを導入されている企業も多いと思いますが、そのような取り組みと合わせて、上記のような「仕事の意味」「この職場で働く意味」をスタッフに感じさせられているかを再度見直し、店舗におけるマネジメントスタイルを変化させていくことも重要です。
関連コラム:新人スタッフにはじめに教えるべきこと【早期離職を防ぐ】
「離職率」の高い従業員を早期発見するには
さて、ここまでは離職率の低い店舗づくりについて述べてきました。同時に、企業にとっては、離職意向の高い従業員を発見し、早期に手を打てるようにするための仕組みづくりも必要です。では、「離職意向の高い従業員」を早期に見つけるには、どうしたらいいのでしょうか?3つの方法をご紹介します。
⓵従業員の勤怠データに着目する
まず、従業員の勤怠データ、「出勤時間の遅延」「過大な残業時間の発生」などには着目してほしいと思います。そのような様子が勤怠データから見られた従業員に対しては、上長に、業務に対する関心の減退や仕事のフォーマンスの低下など離職を予兆する兆候がないか確認し、危険信号を感じた場合には早期に対策を講じることで、離職率を抑えることが可能となります。
②的な個人面談をルールにする
次に、1対1の個人面談を定期的に行うことを会社のルールにしてしまうことも有効です。最初から上手くいくわけではありませんが、回数を重ねることでスタッフから本音が出てくるようになります。結果、従業員が抱える不満や不安を早期に発見し解消することができます。また、従業員のキャリアパスの構築をサポートすることで、離職を防ぐことも可能です。
③従業員満足度を高める
最後に、従業員の満足度を高めるための取り組みを行うことも重要です。福利厚生の充実や、職場環境の改善、チームビルディングの活動などを通じて、従業員の働きがいやモチベーションを高めることは、離職率の低い企業風土に変えていく土台となります。
前章では離職率を下げるために「店長・店舗が取り組むべき項目」を上げましたが、本章に書かれているような「本部中心に進める離職予防策」もあわせて取り組むことが効果的です。
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従業員から「選ばれる会社」になるために従業員満足度が重要な理由
労働人口不足により採用は売り手市場となり、人材獲得競争が激化しています。また人材の流動化が進んでおり、採用も定着も従来通りではうまくいかない状況です。
社員が会社を選ぶ時代となったため、社員に働き続けたいと思ってもらえるような働きがいのある組織づくりがより重要になり、従業員エンゲージメントに注目が集まっています。
店舗ビジネスにおいても同様に人手不足が深刻化していますが、弊社の調査では、従業員エンゲージメント(帰属意識)のスコアが高い店舗は人が定着し、人材不足で困りにくいという結果が出ています。
人手不足はサービス品質の低下を招くほか、店舗の営業時間を短縮せざるを得なくなるなど、業績悪化に直結します。現場の負担が高じて離職が続き、さらに人手不足になるという悪循環を断つためにも、従業員エンゲージメントの視点を取り入れた経営が注目されています。
文:砺波敬之