【第8回クオリティサービス・フォーラムレポート】 第8回基調講演:働く社員の誇りはどこからくるのか?
特定非営利活動法人いい会社をふやしましょう
URL:http://iikaisha.org/
設立:2012年3月11日
所在地:神奈川県鎌倉市雪ノ下4-5-9
事業内容:「いい会社」を志す企業家や経営者・社員、地域市民との勉強会、相談、・交流会等の場の創造
※『季刊MS&コンサルティング 2015年冬 特別号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。
「自分事力」と「経営者の覚悟」
本日は、「働く人の誇りはどこからくるのか?」という問いを立てました。私が経営する鎌倉投信株式会社は、古民家を本社としています。金融機関がこうした場所を本拠地にするのは非常に珍しいと思いますが、例えば「本社です」と言ってこの古民家の写真を見せると、社員の両親が「ここなら大丈夫だ」とうなずくのです。なぜなら儲け主義の会社だったら、手を入れなければ住めないような古民家を本社にしたりしないと誰もが思うからです。
働く人の誇りはどこからくるのか、その答えを先に申し上げますと「自分事(じぶんごと)力」だと私は思います。自分事にする力がどれだけあるのかという点が、最終的に帰着することだろうと、さまざまな企業を知る中で整理できました。もうひとつは「経営者の覚悟」です。どれだけの覚悟があるのかということは、当然社員から見透かされます。この2つの部分が、これからご紹介する企業においてどのような形で生まれていっているのか、感じていただければと思います。
菓子創りは夢創り
■株式会社 菓匠Shimizu
最初にご紹介する企業の経営者は、地域における「ある出来事」を受けて、朝礼でこう話したそうです。「地域で自殺が発生した。我々の責任だ」。警察でも自治体でもない、よくある街のケーキ屋さんです。「もしその家にうちのケーキがあったなら、自殺は発生しなかったはずだ」という考えからの言葉でした。これこそ、自分事にする力です。
ご存知の方もいるかもしれません、長野県伊那市にある菓匠Shimizuというケーキ屋さんです。先ほどの一件をきっかけに始められた「夢ケーキ」と題した取り組みに日本中が注目しました。子どもの夢をケーキにしてプレゼントする「夢ケーキ」の取り組みは、代金を受け取っていません。その代わり、お父さんとお母さんの夢も一緒に書く、という条件があります。この取り組みに、経営者の覚悟が見えてきます。それに社員が共感して、徹夜で無料のケーキをつくるのです。
社員同士の圧倒的な信頼関係
■株式会社都田建設
「この仲間と一緒に働けるのが楽しくて仕方ありません」。社員がそう話すのは、静岡県浜松市の都田建設という会社です。同社を視察して、私は「これほどチーム力が強い会社はない」と感じました。
同社では、毎週木曜の昼食時に社員50人が総出でバーベキューをしています。12時から13時の1時間で材料を洗って火を起こし、調理、食事、片付けと火の始末までを行っています。その日のゲストが1人でも30人でも、まったく同じ時間で終了します。
私が訪問した際に驚いたのは、短い食事の時間に、社員の方が入れ替わり立ち替わり話しかけてくれることです。とても雰囲気のいい会社なのです。
こうした社風を実現したのが、“だいちゃん”という呼び名で親しまれている蓬台浩明社長です。社員に対する愛情がとても深い社長です。同社の特徴のひとつは、社長をはじめスタッフが皆“ちゃん”付けで呼ばれていることです。でも、一見矛盾するようですが、彼らが最も大事にしているのは「礼儀礼節」です。“仲良しクラブ”にならず、70歳の社員の方も含めて、間違っていることはしっかり指摘し合い、感謝の気持ちは素直に伝えられる、そんな仲間づくりができています。信頼関係の強さは圧倒的です。
会社の存在が地域の誇りに
■石坂産業株式会社
「こんな会社が地元にあることを知りませんでした。ここに勤めていることが誇りです」と、新入社員が胸を張る会社があります。埼玉県の所沢地区にある石坂産業という、産業廃棄物処理の会社です。現在は、美容業の開業を検討していたが先代の父親の会社を引き継ぐことになった、娘さんが社長を務められています。
同社のすごさは2つあります。ひとつは、敷地面積の8割以上が森であること。彼らは集まる産廃をほとんど燃やさず、リサイクルする技術で他社を圧倒しています。かつては地域住民から「出て行け」とまで言われた同社ですが、「地域を最も愛し、環境に最も配慮している会社」を目指し続けた結果、先のように新入社員が口にするまでになったのです。中堅やベテランの社員も「ずっと何の仕事をしているか子どもに言えなかった、今は誇りを持って言える」と話しています。
もうひとつのすごさは、取引先でありお客さまである、産廃を搬入する他社のトラックの運転手にガイドラインがあることです。くわえタバコやアイドリング禁止などの細かいマニュアルを彼らは守り、さらに視察に訪れた私ににこやかに挨拶をしてくれました。人として正しい行為をすることから、運転手さんの家庭環境も明るくなります。こんな産廃業者は他に例を見ません。社員が誇りに思うのは、当たり前でしょう。
土日は要らない
■株式会社エフピコ
「土日は要らない、早く月曜日が来てほしい」。そんなことを言う社員が大勢いる会社があります。広島県福山市に本社を置く、食品トレーを手掛けるエフピコです。特に、食品トレーのリサイクルができるのが日本で同社だけなので、リサイクルトレーの売上がトレー全体の50%以上を占めています。
そのリサイクルトレーの扱いを担うのが、障がいを持つ社員です。特例子会社ダックス社長の且田久雄氏は、元々養護学校の先生でした。あるとき、当時エフピコの社長だった小松安弘現会長に、教え子の雇用を斡旋したところ「障がい者の雇用をつくるならお前が経営者になれ」と言われたそうです。
その後、且田さんがダックスの社長になり、多くの障がいを持つ社員が働く現在のエフピコの姿があります。「土日は要らない」とは、彼らの言葉です。彼らにとって同社で働くことは誇りなのです。なぜなら、彼らは総売上の過半を占めるリサイクルトレーを担っているので、「自分がいなければ」という意識を強く持っているからです。中には重度の障がいを持つ人もいますが、仕事に時間がかかるだけで、生きがいもやりがいも感じるのです。それを引き出せるかどうかは、経営者次第です。
ごみが落ちていたら自分が恥ずかしい
■伊那食品工業株式会社
「ごみが落ちていたら自分が恥ずかしいのです」。
ある週末、私がその会社へ視察に訪れると、社員の方がそう言ってごみを拾っていました。長野県伊那市の伊那食品工業です。同社の敷地内は、森のように綺麗な空間が保たれており、トヨタ幹部が研修に行くくらいです。
この会社は、完全に地域の誇りになっているので、ここに勤めていること自体が、家族や親戚、仲間から褒められることなのです。このような会社は別格です。実は私は、同社の塚越寛現会長が立てられた社是「いい会社をつくりましょう」に強く共感したことから、敬意を込めてNPOに「いい会社をふやしましょう」と名付けました。
現場の心を汲んだ経営
■ヤマトホールディングス株式会社
QS8-01-08
最後に紹介するのは、「現場は行動した、本部は何をすべきか?」という言葉です。
東日本大震災時、ヤマト運輸の現地の社員は自衛隊とともに救援物資を避難所へ運びました。この活動は、ヤマトホールディングスの「ヤマトは我なり」という社訓に基づいて、現場が自発的に始めたものです。先の言葉は、この活動を受けた木川眞代表取締役社長の想いでした。
そして、木川社長は「救援物資輸送協力隊」を組織し、人員と車両を配置して正式に同社の業務として救援物資の輸送協力を行いました。さらに、宅急便1個につき10円の寄付をすることを決め、その額は震災1年後には年間純利益の4割を占める142億円に上りました。実際に東北で配送業務に就き、震災時に車両ごと流されたという社員の方は、会社の寄付に関して「自分の会社をとても誇りに思った」と語ります。荷物を委託する顧客も、その荷物がなければ寄付が発生しませんから、間接的に復興支援に協力できる、そんな道筋を示して義援金の拠出に取り組んだ同社は素晴らしいと思います。
「我々は東北に育てていただいた、その恩を返すだけだ」。同氏は2012年5月2日の投資家向け説明会で、そう語りました。規模は関係ない、これを言える経営者かどうか、ただそれだけだと私は思います。
CSV 共通価値を追求する
ここまで紹介した企業様に共通するのは、自分事にする力、そして経営者の覚悟があることです。これが備わらないと、誇りは生まれません。
米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、CSR(Corporate Social Responsibility)に続く概念として「CSV(Creating Shared Value):共通価値」を提唱しました(表)。共通の価値を生むとは、言い換えれば利益相反しない関係性を構築することです。社員、取引先、顧客、地域などあらゆるステークホルダーに対して共通価値を見出せる会社かどうか、今の時代それが問われています。
「本業の拡大解釈」。我々は、最終的には全てこれで説明できると考えています。決められた本業しかしない、5時になったら帰る、そんな視野の狭い人は共に働きにくいですよね。会社も同じで、視野が狭いか広いかが問われているのです。「当社はこれも含めて本業です」と言い切れる会社こそ、社会に愛され、社員が誇りに思い、まるで公園のように皆さんが遊びに来る会社になるのです。
もうひとつ、おもてなし経営企業選に携わっていましたので、「おもてなし」を改めて振り返りたいと思います。おもてなしとは、「相手のことを想う強さの表れ」です。相手を強く想った行動が感動を呼び、おもてなしにつながります。
しかし、それが実現するかどうかも、会社が働く環境を整えられるかどうかにかかっています。それには社員も含めて自分事化する力と、経営者の覚悟が大事になるのです。
最後に、私が尊敬する伊那食品工業株式会社の塚越寛会長の言葉を紹介します。それは、「偽善者たれ!」という言葉です。最初は偽善でいい、やり続ける先にいつのまにか素晴らしい会社になるのです。皆さんもぜひ、ご自身の会社を働く人が誇りを持てる企業にしていただければと思います。