デベロッパーとテナントの両者で新しい価値を顧客に提供
株式会社リックプロデュース
東京都渋谷区恵比寿西1-32-16 山本ビル5F
会社ウェブサイト:http://www.ricp.co.jp/
『季刊MS&コンサルティング 2011年秋号』掲載
取材:大塚信也、文:高島知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
ショッピングセンターの運営には、デベロッパーとテナントとの協力体制や信頼関係が欠かせないが、実際にそれが理想的な形で実現されている施設はわずかだという。商業施設のプロデュースを多数手がける株式会社リックプロデュースの藤川真介氏に、他の施設に差をつけるショッピングセンターの構築・運営について伺った。
デベロッパーからテナントへ明確な運営指針を示すく
SCの世界では、都心部における大手デベロッパー上位数社のシェアが圧倒的に大きいため、そこでの状況がスタンダードとして捉えられていることがよくあります。しかし、施設の数でいうと圧倒的に上位数社以外のSCが占めます。
前者ですと、そもそも立地が非常に良い点で、テナントよりデベロッパーのほうが優勢になります。また、その立地ごとに客層も自ずと決まってきます。ですが、後者の場合は立地もさまざまですし、どのようなテナントを誘致するかで客層もかなり異なるので、大手の事例を参考にしてテナントの誘致を計画してもほとんどうまくいきません。
では、デベロッパーがテナントを誘致するにあたってどういうポイントが重要になるのかというと、当社では次の4点だと考えています。それは、(1)ターゲット、(2)施設のコンセプト、(3)面積、(4)相性、です。当たり前の話ですが、施設自体のターゲットとコンセプトがはっきりしていないのに、テナントに「どのような考えで互いに成長・発展していくか」というビジョンを語ることはできません。ところが実際は、現在のお客様の層やターゲットがあいまいなSCが多い。それらを明確にすることは簡単ではありませんが、あいまいにしておくと、テナントとしても迷いが生じますし、例えばテナント本部から「とにかく年内に30店舗を」などと指示を受けている場合、出店の基準もあいまいになりがちです。逆に、デベロッパーがこれらの指針を明確に持っていれば、相性の良いテナントを見極めることもできますし、面積についても、テナントに対して最適な提案ができるはずです。
どの切り口で考えるにあたっても、自分の施設をどう組み立てるかという視点とともに、テナントにどのように還元できるかも考えていく必要があります。ちなみに、こうした姿勢があるかどうかは、今回の震災後の対応にもよく表れていました。テナントのことをよく考えているデベロッパーは、テナントが節電への対応やお客様サービスの基準をどうするかなどに迷いを持つ前に、きちんと文書で施設としての指針や対策を示していました。これは、デベロッパーのテナントに対する姿勢の「真価が問われた」一件だったと私は捉えています。
お客様に対してともに向き合うビジョンを持つ
よく、テナントに対する評価についての相談を受けますが、テナントを売上だけで評価するのは誤っていると当社では考えています。テナント間で売上やCSをある程度競うことは刺激として有効ではありますが、それはあくまで各者が共栄していくためのひとつの策です。
テナントの誘致は、SCの売上を立てるためではなく、SC全体として顧客にどのような価値を提供できるのか、という視点で捉えたときに最適な状態になるように、さまざまなバランスを考えて行わなくてはなりません。たとえば売上はさほど振るわなくても、話題性がありお客様を呼び込む店舗や、スタッフと顧客の関係が非常に良い店舗は、その店が欠けると施設全体の魅力に関わってしまうこともあります。見極めが難しいところではありますが、そのためにもやはりデベロッパーは前述の4点をしっかり把握して、テナントを評価していく必要があります。
SCにおいて、デベロッパーとテナントの関係性が非常に重要だということは昔から言われていますが、実際にテナントのポテンシャルを最大限に活かすことができている施設は決して多くないというのが私の印象です。しかし、その中にも努力しようとしているデベロッパーはあります。たとえば、テナント本部のスタッフ教育にどのように関与・協力すればよいのか、そのためにどこまで踏み込んで話をしていくべきなのか。そういったことを真剣に考えられているデベロッパーもあるのです。
ただ、これに関しては一概に回答があるわけではありません。テナントの不安や悩みを汲めるかどうかは、デベロッパーの担当者の人柄や資質に起因する部分が大きいのも事実です。
ひとつ言えることは、やはり、デベロッパーとテナントという二者の関係で考えるのではなく、両者でともにお客様に向き合っているんだという意識を持つことだと思います。どうしても、テナントは日々の売上や現場の対応に追われがちですから、そこをデベロッパーの担当者が適切に立ち回って、顧客との関係性や将来のビジョンをともに描けるようにするのです。テナントへのフォロー状況の良し悪しで施設全体の売上に驚くほどの差が出ることもあるので、取り組む価値は大いにあると思います。
この先、生活者はさらに多様化していきます。特にアクティブシニア層に対するアプローチは急務ですが、各施設ともまだ模索の段階です。理想的なのは、子供からアクティブシニアまでの3世代をうまくつなげて誘引すること。まだ好例はありませんが、そのきっかけとして、まずはアクティブシニア層にコミュニティとしてSCを利用してもらえるようなサービスを考案すると、差別化を図れると思います。たとえば地域の公共機関やスポーツ施設などをシャトルバスでつないだり、館内で集える場を設けたり。地域の方々とのコミュニケーションを今よりもっと重視して、かつての商店街のような“顔が見える”お付き合いができると、SCもまた新たな価値を提供できるのではないでしょうか。
商業施設における重要な要素は、企画、開発、運営管理の3点であるというのがリックプロデュースの考えだ。テナントと共栄し、顧客に価値を感じてもらえる施設が成り立つためには、この3点のバランスが重要である。