日々のお客様の笑顔を大切に、長期的な支援を続けたい
SOKOJIKARAを発揮し、世界に日本の力を示そう。
被災者・被災地の支援活動の強化・継続と、消費活動の活性化による日本経済の再生を目的としています。日本を愛する人々がお互いに勇気と希望を与え合い、一人ひとりが「底力」を発揮するムーブメントを醸成するための活動です。居酒屋甲子園もこの活動に賛同しています。
会社ウェブサイト:http://www.sokojikara.net/
『季刊MS&コンサルティング 2011年夏号』掲載
取材:西山博貢、文:高島知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
外食産業の活性化を目的とするNPO法人居酒屋甲子園も、東日本大震災後、被災者支援だけでなく、被害を受けた同業者の手助けをするべく活動を行っている。同団体の理事長を務める松田真輔氏(右写真)は、「こういうときだからこそ、理念を強く意識して動きたい」と話す。
強い団結力で迅速に支援策を展開
居酒屋甲子園では、義援金受付や被災地での炊き出しなどを展開されていますが、震災後の具体的な動きについてお教えください。
震災を受けて、まず始めに着手したのは、参加企業や実行委員などの関係者の安否確認です。我々の仲間は全国に広がっており、東北地方の企業も複数あります。幸い、アルバイトスタッフまで含めて関係者は全員無事でしたが、その家族まで考えると、ご不幸があった方もいるかもしれません。居酒屋甲子園の参加企業同士は非常に絆が強いので、今回の震災を受けて、皆が仲間の安否を案じたと思います。
具体的な支援としては、主要な運営メンバーですぐに連絡を取り合い、自分たちに何ができるのかを検討しました。3月14日には義援金の呼び掛けをスタートし、WEBサイトに募金用のポスターやPOPなどをアップしました。それから、東北や北関東の食材、お酒を積極的に仕入れるなどの呼び掛けを行っています。また、雇用の問題も深刻なので、被災して職を失ってしまった飲食関係者と雇用主のマッチングも実施中です。
一声掛ければ、それは自社でできると次々に手が挙がり、居酒屋甲子園というネットワークの団結力がいかに強いかを実感しました。
今回の災害では、被災地以外でも、大きな経済的打撃を受けている企業が多くあります。そのような状況下で支援をしたいと思っても、自社の状態を踏まえてどう動くべきか、基準に迷う経営者の方も多いのではないかと思いますが、松田理事長はどうお考えになりますか。
そうですね。被災地の企業以外でも、経済的な打撃は無視できない問題になっています。実際に、、例えば私の店(株式会社OHANA)が拠点とする愛知県でも、東北に数多くある自動車部品工場が被害を受けて営業が滞ったことで、一時は第2のトヨタショックかと思うほどの状況に陥りました。
何かしたい、しなければいけないという気持ちは私も同じですからよく分かりますが、こういうときだからこそ、まずは自社の社員を守ることが大事だと思います。
著名人のコメントなどでもよく耳にしますが、お金がある人は寄付をすればいいし、お金がなければ知恵やアイデアを、何もなければただ祈るだけでもいい。横を見るのではなく、自分ができることをするのが適切な“支援”の形ではないかと思うのです。
何もできない自分を責めてしまったり、ネガティブな世論に引きずられて、罪悪感や無力感に支配されて日々をおろそかにしてしまうことこそ、一番避けるべき事態なのではないか。震災後に行った会議などで仲間たちと話すうち、私はそんな風に考えました。
もちろん、これも押し付けるわけではないのですが、こういう危機に面したときこそ、社会における飲食業の意義や、自社の理念を再認識すべきではないでしょうか。
例えば東京でも、地震当日には歩いて帰る人や帰宅できない人が街にあふれましたが、スターバックスやマクドナルドなどではコーヒーが無料で配られたと聞きました。有事の際、実際に店を利用している顧客だけでなく、地域の方々をはじめとする一般の生活者のために臨機応変に振る舞える企業は、元々企業理念への共感度合いが高かったり、経営者の人望が厚いのではないかと私は思います。
復興支援は長期的な取り組みになります。だから我々は可能な限り今まで通り店を開けて、当たり前だと思っていた日々の営業やお客様の笑顔の価値を再認識し、改めて感謝の気持ちを持って生活することを心がけたい。一人でも多くのお客様に笑顔になっていただくこと自体が、飲食業に携わる者の社会貢献だと思っています。
松田さんは個人的にも炊き出しや物資支援活動を行われているそうですが、実際に現地でどのようなことを感じましたか。
私は震災10日後に支援物資を届けるために、また1カ月後には最初の炊き出しのために宮城県南町地区に入りました。居酒屋甲子園とはまた別の仲間同士で、生パスタを準備したのです。
大変喜んでいただいて、地元のお母さんからはねぎらいの言葉と共に、唯一被害を受けなかったという貯蔵していたワカメを渡されました。それから、「必ず復興してアワビやウニを送るから」と力強く言ってくれた方もいました。こちらが励ましに行ったのに、逆に励まされた思いがしましたし、分け与える精神がいかに尊いかを考えさせられましたね。
また、ライフラインの確保から住居・仕事など、変わっていく要望への対応も重要だと痛感しました。
最後に、居酒屋甲子園としての今後の展望をお教えください。
これからも支援金受付をはじめとする支援を続けていきますが、そもそも今年のテーマを「リアル」と掲げていたので、同業者を支える意味でも、さらに仲間を増やしていきたいですね。直接のつながりを大事にしていけば、それがまた団結力を生み、新しい支援の形も生まれるかもしれません。また、経済を回していく意味では、我々働く人間が元気に笑顔でないと、来店されるお客様を笑顔にすることはできません。各企業がそれぞれの持ち場で頑張りながら、居酒屋甲子園としてできることを今後も探していきます。