ビジネスモデルの変革を迫られるドラッグストア業界
『季刊MS&コンサルティング 2010年夏号』掲載
文:MS&コンサルティング編集部
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
消費者が薬を買うついでに日用雑貨や化粧品なども購入できる利便性から支持を受け、急成長してきたドラッグストアは今、大きな変化に直面している。
高齢化社会の到来で、医療・健康・美容などのニーズはますます高まりつつある。そして、自分自身で健康を日々管理するというセルフメディケーション概念の広がり。ドラッグストアは、今後も年5%程度の伸びが予測されている数少ない業態だ(図1)。
企業動態に目を向けると、個人事業所数が減少傾向にあり、法人事業所数の割合が拡大し、業界再編も進んでいる。また、1店舗当たりの売上・売場面積ともにスーパーストア化(店舗の大型化)が進行中だ。しかし、ここに来てその流れも変わってくる可能性がある。
コモディティ化が進む一般用医薬品
ドラッグストアの市場環境は、医薬品の規制緩和によって大きく影響を受けてきた。1999年、ドリンク剤をはじめとする15製品群が医薬部外品に移行し、医薬部外品の販売自由化が起こった。一般用医薬品(医師の処方箋なしで購入できる医薬品のこと、Over The Counter=OTC薬、以下OTC)の中でも売上比率の高いドリンク剤をスーパーマーケットやコンビニエンスストアで扱えるようになったことで、ドリンク剤の市場規模は拡大した一方、ドラッグストアでの売上比率は低下した。
次に、2004年に、整腸剤・ビタミン剤の販売自由化が起こった。そして、2009年6月には改正薬事法が施行。OTCは、リスク分類に応じて医療用の第1類と一般用の第2類・第3類に分類され、一般用は登録販売者によって販売可能となった。今後の需要を見越した、登録販売者制度による薬剤師不足の解消が背景にあるが、今後はさらなる自由化が進んでいくだろう。
この規制緩和の流れが招くのは、OTCのコモディティー化だ。コモディティー商品とは、売価だけで客が購買を決定する汎用品のこと。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの異業態の参入によって、OTCの第2類、第3類はコモディティー化し、価格は低下する。ともすれば、顧客のために安くした価格を実現するための施策が企業の体力を消耗させると同時に、逆に人件費の削減などが専門店としての強みを失わせ、顧客満足と相反してしまうことも考えられる。これまでのやり方のままでは、先が見通しにくくなってきている。
かつて、ドラッグストアはスーパーマーケットの利益商品である食品や日用雑貨を低価格販売で集客し、高マージンの医薬品OTC、化粧品を販売することで成長してきた。その為、売上金額(年間商品販売額)、就業者数、売場面積の伸び率はどれも他の業種と比べてドラッグストアが最も大きい(図2)。
しかし、今度はドラッグストアにとっての利益商品であるOTCをスーパーマーケット、GMS(General Merchandise Store、日常品を中心に商品を総合的に揃えた大規模小売店)、ホームセンター、コンビニエンスストア、家電量販店などの異業態が安売りするようになる。その結果、薬局や化粧品小売などの業種小売業よりも便利で、異業態よりも安いというかつてのポジショニングが崩れていくことが予測される。
また、異業態に加えて、現在急増しているのがインターネット販売の利用だ。これまでは、大規模店舗で商品の種類が多いことが強みであったが、ロングテール(年に一個しか売れないものも品揃えする)という機能に関しては、リアル店舗はネット販売には勝てないと、月刊マーチャンダイジング主幹の日野眞克氏も同誌2010年2月号で述べている。
これからのドラッグストアのあり方
ドラッグストアは、インターネットや異業態と比較した時の明確な付加価値を創造しなければならない。それが、欲しい商品が見つけやすい売場作りであり、専門性の高いカウンセリングであり、顧客への個別対応を基礎とした顧客育成である。ドラッグストアで働く薬剤師・登録販売者・栄養士の知識技術やコミュニケーション能力のさらなる向上が求められるようになってきている。
ドラッグストアが扱うOTCや化粧品は、お客様の生活習慣に依存したものとなるが、生活習慣というのはそう簡単に変えられるものではないし、商品の使用効果が現れるまでに時間がかかる。その点を理解してもらった上でカウンセリングをしない限り、お客様に満足して頂くことはできない。カウンセリングは商品の説明ができるというだけではなく、何のためのカウンセリングかを意識できることがより大事になってくる。つまり、従業員の個々の能力にかかってくるのだ。
薬局や靴屋、化粧品小売など、商品が主語になる小売業である業種店に対し、ライフスタイルや買い物が主語になって商品を自由に品揃え、魅力的に提供する役割を果たす店を業態店というが、もともと、ドラッグストアは業態店である。ドラッグストアは、今後は売場面積の規模よりも、消費者のライフスタイルに欠かすことのできない医療・健康・美容の専門店としての役割がより強く求められるようになってくるだろう。
業態や立地、販促プランなどの真似ができる技術ではなく、社風や組織的行動力、従業員一人ひとりの能力や組織でノウハウを蓄積する仕組みなど、人間産業としての真似ができない技術が今後のドラッグストアの差別化要素になっていくと考えられる。