【第9回クオリティサービス・フォーラム レポート】 パネルディスカッション/時代に打ち勝つ「ストーリー」
株式会社アイ・コンセプト
代表者:代表取締役 市川 暁久
所在地:北海道札幌市中央区南4条西4‐16 恵愛ビル4階
事業内容:北海道・大阪に、直営・ライセンス・プロデュース含め14店舗を展開。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」 (2015年9月22日放送)にて特集が組まれた他、メディアに多数取り上げられる話題の業態。
株式会社RETOWN
URL:http://www.retown.co.jp/
代表者:代表取締役 松本 篤
所在地:大阪府大阪市浪速区湊町1-4-1 6階
設立年月:2004年7月22日
事業内容:近畿圏を中心に、直営・FC含め約70店舗を展開。全業態で「ほんものを誰にでも」を意識した店舗作りを実践。
『季刊MS&コンサルティング 2016年冬号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。
外食業界を取り巻く環境
相崎(MS&Consulting)
まず、本日2社様からお話を伺うに当たって、「外食業界を取り巻く環境」として3つの課題とその影響を挙げさせていただきました。
○人手不足による採用の困難化
○マーケットの縮小によるさらなる差別化の必要性
○食材の高騰による商品力・利益率の低下
そして、これら3つの課題に対抗するために、やはり3つのキーワードを準備いたしました。
●ホンモノを仕入れる〝Buying〟パワー
●ストロングポイントの消費者への伝達力
●楽しんでチャレンジできる現場力
本日はこの3つのキーワードに沿ってパネルディスカッションを進めたいと思います。
ホンモノを仕入れる〝Buying〟パワー
松本氏(RETOWN)
弊社は現在創業12年目ですが、最初の7~8年は仕入れに費やしたと言っても過言ではありません。仕入れを強化するためにはある程度の規模が必要なので、最初の5年間で約50店を出店し、産地と直接話せるだけの状態を作ってから仕入れ強化に取り組みました。
まず、主力業態である焼き鳥の鶏肉ですが、いろいろな鶏を食べ比べて質と値段の関係を考えたときに、「鶏の種類以上に鮮度が重要」という結論に達しまして、現在は大阪まで2時間程度で輸送が可能な処理場だけに仕入れを絞り、朝びきの鶏を確保しています。
一方、魚ですが、築地や京都といった大きな販売力を持った市場に比べると、大阪の市場には良い魚が入りにくいという状況がありました。また、産地で活け締めにした魚を宅配便で送ると、扱いによって品質がばらついてしまうこともわかりました。そこで、大阪まで活きたまま運べる港だけに厳選し、自分たちのタイミングで絞めれば良いのではないかということで、活魚の直売所というコンセプトを持つマーケット「中之島漁港」を始めました。
市川氏(アイ・コンセプト)
弊社の場合は自社で水産卸機能を持っています。もともとは「自社の店舗で良いものを安く出したい」ということで2012年にスタートしたのですが、マーケットがどんどん厳しくなっていく中で「外食産業の他の仲間の役に立てれば」と卸をするようになり、現在は全国250店ほどに卸しています。
将来的に仕入れが厳しい状態になっていくだろうことは以前から予測していましたので、仕入れの仕組み作りについては早い段階から本気で取り組んできました。
また、調味料や食器・調理器具の卸もやっており、直営店や加盟店の出店の際には出店コストを抑え、最初から差別化された状態で店舗がスタートできるような仕組みを作っています。
ストロングポイントの消費者への伝達力
松本氏(RETOWN)
まず一つ目として、せっかく仕入れた良い素材をしっかりした技術で提供したいということで、「飲食人大学」を設立しました。寿司・焼き鳥・ソムリエの3コースがありますが、中でも一番力を入れているのが寿司コースで、「3カ月で寿司職人になる」ことが目標です。3カ月という期間については当然いろいろなご意見をいただきますが、社会人が仕事を休んで授業に専念できる期間としてこれ以上は難しいだろうということで決めました。最初は私たち自身も本当に3カ月でどこまでの技術が身につくか半信半疑の部分もありましたが、やってみてわかったことは、3カ月仕事を休んで来られる方は本気だということです。「飲食人大学」の卒業生と学生だけで運営する「千陽(ちはる)」という寿司店があるのですが、去年12月にオープンしたこちらの店舗が、なんと開店後わずか11カ月でミシュランのビブグルマン(リーズナブルな価格帯で美味しい料理が食べられるカジュアルなレストランを指すカテゴリ)に選ばれ、最新号に掲載していただいています。運もあるとは思いますが、3カ月という短い期間であっても、本気で取り組めばしっかりとした技術が身につくという一つの証明になったのではないかと思っています。
もう一つが、メニューデザインへのこだわりで、これはメニューデザイン専門のデザイン会社、株式会社ウイングッドさんにお願いしています。その時々でお勧めしたい商品は変わってきますが、それをお客さまにタイムリーにお伝えするために、非常に力になっていただいています。
市川氏(アイ・コンセプト)
「キラーコンテンツ」と「サブキラーコンテンツ」と呼ぶ二つのカテゴリのメニューでグランドメニューを構成している点が、弊社の特徴です。
まずキラーコンテンツですが、これは産地感がしっかり出ているようなお客さまに伝わりやすい商品を、誰がどう見ても安すぎるという価格で提供するメニューです。たとえば「漁師町の刺身板盛」。刺身10品を盛り合わせて500円で提供しています。原価率は独自の仕入れルートがある弊社で110%、仮に一般の飲食店さんがやったら原価率200%を超える商品です。もう一つの「特A生うに刺」は、提供価格300円。この一商品だけでディナーの売上が5倍になった、まさにキラーコンテンツです。当初の原価率は150%でしたが、今はさらにウニの価格が上がっているので、原価率220%くらいになっています。
ただ、もちろんこれだけではお店が成り立ちませんから、そこにサブキラーコンテンツを組み合わせます。これは、ちょっと非日常感のある憧れを感じるような商品です。たとえばカキ。これを1つ299円で提供しています。ちなみに、今札幌の飲食店ではカキを1個100円で提供することが常態化していて、「カキ戦争」と呼ばれているのですが、弊社ではその流れには乗らないようにしています。ではなぜ弊社では他店の3倍の値段でも売れるかと言えば、漁師さんの名前や顔写真・住所まで出すことで信頼感をアピールし、差別化しているからです。この商品は原価率20%で、こうしたサブキラーコンテンツを先ほどのキラーコンテンツと組み合わせることで、総合的に原価率をコントロールしています。
楽しんでチャレンジできる現場力
相崎(MS&Consulting)
ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)の活用方法についてご発表いただく前に、補足としてMS&Consultingより、最近弊社で行ったある調査結果についてご紹介させていただきたいと思います。
本日ご来場の皆さまにはお馴染みかもしれませんが、こちら(図表1)は顧客ロイヤルティ、つまりリピート率と、顧客満足度の関係をグラフにしたものです。ご覧の通り「不満」を「満足」に変えてもリピート率にはあまり影響がないのに対して、「満足」を「感動」のレベルに引き上げることで、リピート率は大きく上がることを示しております。
実際、弊社のMSRに参加していただいたモニターさんを対象に「調査で行ったお店に、その後プライベートで再来店したかどうか」を追跡調査したところ、顧客満足度(5点満点)が「満足(4点)」と答えた方の再来店率が11%であったのに対し、「感動(5点)」と答えた方の再来店率は31%。実に2~3倍のインパクトがあるという結果が出ました(図表2)。
こうしたデータを受けて、2社様も「感動」をいかに獲得するか(=「5点比率」を高める)ことを重点項目として、MSRを活用されています。
松本氏(RETOWN)
仕入れ力の向上からはじめて、職人の育成、メニューまでできましたので、次は現場のアルバイトさんも含めた人の部分の育成に力を入れたいということで、MSRを導入しました。最初は「現場のスタッフからは嫌がられるのではないか」という心配もあったのですが、導入してみてわかったのは、現場のスタッフはお客さまの声をむしろ聞きたがっているということです。アルバイトの子が「今月の結果はどうでしたか?」と自分から店長に聞きに来るそうで、店長からは「アルバイトが主体的に動くようになって、マネジメントが楽になった」という感想も聞いています。
MSRを活用する際に注意しているのは、「毎回の点数に一喜一憂しない」ということです。点数は毎月上下しますから、1年くらいのスパンで眺めて、中長期的にお店のコンディションを把握するに留める程度がちょうど良いと思っています。一方で、コメントについては毎回しっかりと受け止めるように言っており、「OSHO(おいしい・清潔・本物・おもてなし)」というスローガンを掲げ、このキーワードに沿ったコメントがいただけることを目標に取り組んでいます。
こうした結果として、重点項目である「5点比率」も、最初は20%くらいであったところから、最新のレポートでは38%まで上がってきています。
市川氏(アイ・コンセプト)
弊社でMSRを導入して最初に気付いたのは、産地・生産者に寄りすぎていたということです。つまり、北海道にありがちな、「地元の良い食材を使っていれば大丈夫」という安易な業態になってしまっていたということです。MSRを活用することで、弊社のこだわりをお客さまにお伝えするというところまでができるようになって、自己満足から脱却できたと感じています。
弊社では「MSプレゼンシート」と呼んでいるのですが、レポートを読んで気付いたことをアルバイトも含めた全スタッフがシートに書いて、店長に提出します。店長はそれを読んで、必ず全員にコメントを記入して返します。また、良いアイデアがあれば、会社が買い取る仕組みとしています。
もう一つは、「出世街道」と呼んでいる能力向上と評価の仕組みです。これは先ほどのMSプレゼンシートから生まれたアイデアなのですが、それまでは時給の決め方が明確ではなかったので、スキルのランク別にカリキュラムを作り、幹部が講義を運営します。それに加えてテストを企画し、そのテストの結果によってランクアップしていき、このランクに応じて時給が決まるという仕組みを作りました。こうして給料の見える化を実現することで、アルバイトスタッフは「自分はどんな知識・スキルを身につければ評価されるのか」が具体的にわかるようになって、積極的にスキルアップに取り組めるようになりました。
今後に向けて
松本氏(RETOWN)
弊社の社名には「食を通じた町づくりをするような仕事をしたい」という思いが込められており、これまでも様々な地域と一緒になって取り組んできました。現在も宝塚市と共同でエネルギーと食糧を自給自足できる町づくりへのチャレンジをスタートしております。今後もこうした地域活性化に役立てるような挑戦をしていきたいと考えています。
市川氏(アイ・コンセプト)
私はやはり北海道ブランドにこだわって、これを全国、そして世界に発信していきたいという思いがあります。
そのために、規模の追求ではなく、発信力を高めるという意味で2019年までに50店舗を出店していくことを目標としていきたいと思っています。
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