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【第9回クオリティサービス・フォーラム レポート】 経営者感覚を持った人財の育成と理念経営


株式会社アン

URL:http://www.annweb.co.jp/
代表者:代表取締役 築林 篤司
所在地:大阪府堺市北区百舌鳥赤畑町3-138-1
創業年月:1989年2月
事業内容:美容業、及び美容商品の販売
展開するブランド:ann HEARTS、ann ARMS、ann EYES、ann FACE、ann LIPS、ann LEGS、ann HAIRS、ann CHEEKS

『季刊MS&コンサルティング 2016年冬号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください


業界平均比130%の高付加価値型ビジネスモデル

今、美容業界は大変なオーバーストアの状態にあります。コンビニエンスストアが全国で5万店、歯科医院が7万件に対して、美容院は22万店あるとお伝えすれば、その過剰ぶりがご理解いただけるのではないでしょうか。また、1,000円カットなどの低価格を売りにした業態も台頭してきていますので、従来からの付加価値型美容院を展開する弊社のような企業にとっては、大変厳しい状況です。加えて、業界的に大変な人手不足の時代でもあります。10年ほど前は「カリスマ美容師ブーム」などの影響もあり約2万7千人の美容学生さんがいらっしゃいましたが、今では1万7千人と、10年で約40%減少し、各社で採用戦争が起こっています。

業界全体はこうした状況ですが、幸い弊社ではスタッフ一人当たりの生産性が67万円と、業界平均と比較すると約130%の高い生産性で事業を行うことができています。その理由は、店販(シャンプーやトリートメントなどの商品販売)売上の割合が高いことにあります。美容師というのは販売職ではなく技術職ですから、店販を上げるのはなかなか難しいところもあるのですが、弊社では創業当時からこの店販の向上に取り組んでいます。


共感される経営理念

では、具体的にどういうことをやっているかと申しますと、大きくは二つあります。
一つ目は、経営理念を非常に大事にしているということです。スペシャリストの集団である美容院では特に、理念やビジョンといったスタッフをまとめるための精神的な基軸がないと、「個人の集団」となってしまって、組織としてのパワーが働きません。そこで弊社では常にスタッフに働きかけて、「我が社は何を目指すのか」「お客さまに何を提供するのか」を再確認しながら経営を進めています。スタッフにはよく「会社で一番偉いのは、私(社長)ではなく経営理念」「社長というのは、経営理念を一番に守っていかなければならないスタッフである」という話をして、経営理念の大切さについて、いろいろな場面を通じて伝えるようにしています。

その結果として、スタッフに使命感や誇りが生まれてきたと感じていますし、それが業績にもつながっていると考えています。美容師は技術を提供していればそれで良いわけで、店販商品をお勧めするというのはプラスアルファの取り組みとなりますから、それをやるためには強いエネルギーが必要となります。したがって「店長に言われたから」というような「やらされ感」では決してうまくいきません。それに今は、指示・命令で人が動く時代でもないですよね。上司が指示・命令だけでスタッフを動かそうとしても、組織がギクシャクして雰囲気が悪くなるだけで、スタッフは動きません。仮に動いたとしても、長くは続かないでしょう。ではどうすれば良いのか。必要なのは「共感」だと思っています。共感できる経営理念、ビジョン、コンセプトがあれば、スタッフ一人ひとりが会社や店舗の目標を自分の目標として捉え、自発的に動けるようになります。


経営者感覚の高い人財育成

二つ目は、経営者感覚の高い人財育成です。弊社では「社員を人生の経営者にする」という方針で人財教育を行っています。弊社の場合は女性スタッフが多いので、その話をすると「別に私は、将来独立して店をやるつもりはないので…」という人も出てきますが、もちろん実際に企業経営者を目指しましょうという話ではありません。ドラッカーが「経営とは、人を幸せにする組織の運営方法である」と言っているように、経営の目的とは人を幸せにすることです。つまり、経営を学ぶこと、経営者感覚を持つことは、自分自身や家族を幸せにするための方法を学ぶということです。「人生の経営者として、自分の人生をマネジメントしていくことが、自分自身を幸せにすることである」ということを、弊社では新入社員のときから教育します。

一方では美容師としての技術教育も行わなければなりませんから、エネルギーも時間もかかりますが、理念を実現させていくためには不可欠な取り組みであると考えています。


砂漠に水を撒き続ける

弊社でミステリーショッピングリサーチを利用しはじめて、ちょうど丸3年が経過したところですが、非常にうまく活用できていると思っています。特に私から指示を出さなくても、レポートを読んだスタッフが自分たちでどうすれば良いかを考え、改善活動をするという形でPDCA(Plan-Do-Check-Act Cycle)を回していってくれています。こういう動きができるのも、共感できる経営理念と、経営者感覚を持ったスタッフであればこそだと思っています。

また、今年の3月には、経済産業省の「おもてなし経営企業選」にも選出されました。このことで、スタッフも会社や自分の仕事に対してさらなる誇りを持てたと思いますし、私も目標とされるような会社にしていかなければならない、「美容師になりたい」という若い方がたくさん増えるように取り組んでいかなければならないと決意を新たにしているところです。現状に甘んじることなく、より生産性の向上に取り組んでいきたいと思っております。

経営理念を浸透させることや、経営者感覚の高い人材を育成するには、強い熱意と忍耐力が求められます。それこそ、砂漠に水をまき続けてそこに植物を生やすくらいの思いの強さと覚悟が必要となります。しかし、これからも高い志と大きな夢を持って、経営理念の浸透と人材育成に突き進んでいきたいと思います。


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