“飲食人の希望となる道”をつくる約束。「食で笑う」を理念に飲食業の発展目指す
株式会社ゴールデンマジック
※“やきとり○金”のライセンス、“九州 熱中屋”のフランチャイズ加盟店のお申込み、お問い合わせはウェブサイトへhttp://www.golden-magic.com/license_shop/
『季刊MS&コンサルティング 2013年夏号』掲載
担当:角田 聡・編集:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
2009年5月の創業以来、「九州 熱中屋」「やきとり○金(まるきん)」を中心に計17業態・60店舗(※2013年7月末時点)と、人気店を次々とオープンしている株式会社ゴールデンマジック。現在、同社を代表する両ブランドにてフランチャイズ・ライセンス展開を推進している。「社員の独立を促したい」とする山本勇太代表取締役社長に、好業績の背景や事業への考えを伺った。
ゴールデンマジックは、バラエティに富んだ業態開発で知られるダイヤモンドダイニングから子会社化する形で設立されましたが、まずはその経緯を伺えますか。
僕は2004年にダイヤモンドダイニングに入社しました。松村(厚久・代表取締役社長)のもと、新規業態開発や赤字店舗の立て直しに携わりました。同社は 出店する店舗がすべて違う業態という点を特長としていましたが、新たな成長モデルを模索し構築するために、2009年に子会社を任される形でゴールデンマ ジックの代表に就任しました。
代表取締役社長 山本勇太氏
業態の特徴を教えてください。
当社の業態のベースは「九州 熱中屋」で、その他のブランドは熱中屋と同じ考え方で運営しています。2011年に立ち上げた「やきとり○金」は少し特殊で、熱中屋や他店で得られた知見をもとにシステム化を追求した業態です。
まず「熱中屋」では、展開する29店舗(※2013年7月末現在)すべてで手作りにこだわっています。「九州に ある美味しい居酒屋が東京上陸!」がコンセプトなのですが、九州の繁盛店が餃子を工場で仕込んでいるわけはありませんし、店長もスタッフも自店の名物であ る餃子一つ握れないようでは、スキルも何もありません。一度は仕込み時間や味のブレをなくすためにセントラルキッチンで仕込みを行なっていましたが、「自 分たちが作っていないものを『おいしい』と言われても、複雑な気持ちです…」というスタッフの言葉をきっかけに、すべて店舗で手作りすることにしました。
煌々と輝く提灯と『熱中屋』の文字が目印。提灯の並んだ賑やかなエントランスをくぐると、和紙のライトを配した優しい雰囲気の和風モダンな空間が広がる。カウンター席をはじめ、テーブル席やお座敷席も完備。
仕込みを自前で行なうことに反対される方もいらっしゃったと思いますが、どのように流れを変えていかれたのですか?
手間が増えますからもちろん最初は反発もありました。でも次第に、効率を優先する人よりも、大変でも自分たちで作ったものを提供することに楽しみを見出し てくれる人の方が多くなって、1年も経つ頃にはそういう人の数が半分を超えました。その瞬間、ばらばらと傾いていって、「手作りでお客さまを楽しませた い」という姿勢が会社の文化になりました。
「やきとり○金」にはどのような特徴があるのでしょうか?
やきとり○金のコンセプトは「小さな焼き鳥」です。焼き鳥や串焼きが普通の居酒屋で出されるサイズの半分と小さく、63円から取り揃えています。串を小さくした理由は単純で、焼きたての熱々の串を一口で食べるのが断然おいしいからです。
「やきとり○金」名物の小さい串。アツアツのうちに、たくさんの種類をという考えから生まれた。
コンセプトの開発に至るまでの背景を教えてください。
やきとり○金は、先ほどの熱中屋や、当社の1店舗目としてオープンした「三丁目の勇太」での経験を、誰でもでき るように仕組み化したらどうなるかと考えて開発した業態です。「三丁目の勇太」はやきとんを名物とし、業績が好調で利益率も30~40%と非常に高かった のですが、店長が変わったら月の売上が大幅に下がってしまったことがありました。自信があった商品力でお客さまにお越しいただけていたわけではないことが 分かり、仕込みから切り方、焼き方などを3カ月かけてすべて見直しました。
新たな店長のもとで無事に売上を回復したものの、しばらくしてまた店長を異動させたら落ち込んでしまいました。 お客さまの様子をよく観察してみると、スタッフが商品を急いで運んでも、お客さまはシェアするためにまず串から外して皿に置きます。そして、お互いの遠慮 もあっていつまでも皿に残ってしまい、そのうち料理が冷めてしまっていたのです。私や幹部らは焼きたてをすぐに試食していましたから、美味しさが違うのは 当然でした。また、バラエティ感をウリにレアな部位まで30種類を揃えていても、平均の注文数は3・8本で、それも豚トロ、レバーなど定番化していまし た。私たちの考えたウリは伝わっていなかったのです。こうした食べる環境を改善し、“熱々感”と“バラエティ感”を味わっていただかなければ、調理の改善 努力だけでは意味がないと思いました。
そこで、熱々のうちに、2~3倍の種類の串を食べていただくために、やきとんの串のサイズを小さくしました。そうしたら常連さまから「断然おいしくなっ た、何が変わったの?」という声を多くいただくようになり、串の数もお一人さま平均11種類を食べていただけるようになりました。そのようにして磨いたコ ンセプトを基に、将来のライセンス化を見込んで開発したのが、やきとり○金なのです。小さな串なので最初は業者の方に串の製造を嫌がられたりもしました が、今では店舗数も増え、引き受けていただけるようになりました。また、お客さまが焼き鳥をランダムに注文しても、美味しいところを美味しい順番にご提供 できるように各テーブルの注文がすべて集約され、焼く種類と順番、本数が自動で表示されるシステムを開発し、焼き場に導入しています。ドリンクも30分 299円飲み放題のセルフサービスとし、店舗運営の効率性を高めています。オペレーションの合理化を追求した業態のため、やきとり○金は飲食業が初めての 方でも挑戦していただける業態です。
30分299円が魅力的な「やきとり○金」のアルコールドリンクバーは組み合わせ次第で70種以上のドリンクを作れる。セルフサービスでお客さまに自由に楽しんでもらいながら、オペレーションの効率化を狙った。
“飲食人の希望となる道”をつくる約束
ライセンスという形を選ばれた理由は何でしょうか?
ライセンス制度の根本には、社員を独立させたいという想いがあります。社員を独立させたい理由は二つあります。 一つは、ダイヤモンドダイニング時代にたくさんの難しい課題に取り組む中で、店長として現場で輝く資質と、赤字業態の立て直しや複数店舗のマネジメントな どの管理者としての能力、そして業態開発の能力は違うと気付いたことです。
これは飲食業全体の問題だと思いますが、店長として優秀でも、マネジメントできる範囲を増やせなければキャリア が行き詰まりがちです。飲食人として店舗で一番輝ける人に、稼げる道がないのです。それならば、独立制度をつくって社員を支援し、オーナー・幹部となって もらう道をつくりたい。自分で経営して頑張った分だけ稼げるというのは、飲食業のひとつの楽しみだと思います。
もう一つの理由は、飲食企業はいつつぶれてもおかしくないという危機感を持ったからです。東日本大震災で外食産 業は大きく落ち込み、その後に起こった食中毒事件によって上場まっしぐらの企業がつぶれ、日本の食文化までが変わってしまいました。どんなに順調でも、何 かあったら、すぐにつぶれると思いました。そこで僕が社員にしてあげられることは、会社が倒れても、箱(店)があれば生きていけるような人になってもらう こと。会社を大きくして、安定した会社をつくるのも一つの手だと思いますが、それでは半分しか補完できません。一人ひとりが飲食人として自立できるような 力を付けられる会社にすることが必要だと思ったのです。
ライセンスの契約をする時に必ずお話ししているのは、「社員に道をつくってください」という約束です。会社を支えてくれる店長の人生を支えられなければ、優秀な人材が辞めるようになり、企業はそこから崩れていきます。
今や人気の定番鍋「もつ鍋」、手作りの「鉄鍋餃子」、「薩摩揚げ」など皆に愛される九州郷土料理や、九州の雄大な自然の中で育まれた「霧島黒豚」、「呼子イカ」・「豊後さば」など注文後に水槽からあげる捌きたての刺し身を提供する。
ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)の導入の理由を教えてください。
企業は、利益を上げなければ存在できません。人を必要以上に使ってサービスをするわけにはいきませんし、原価も基本的には決まっています。そういう中で、 サービスとコストコントロールを両立していかなければならないのですが、お客さまの期待以上のパフォーマンスを発揮することに関心が強い人もいれば、効率 を高めることが得意な人もいます。僕は昔からいつもF/Lのことを考えていて、利益を出せることが強みでしたので、そこから入りました。両方大切ですが、 どちらから入るかは社員次第。自分が強みとするほうから入れば良いと思います。MSRは、利益よりもお客さまを喜ばせることから考えてもらうためのツール として導入しました。
MSRをどのように役立てていますか?
MSRの価値は、やはりコメントだと思います。仕掛けているものが悪ければ、再現する意味がないからです。コメ ントがあると、スタッフの工夫やコミュニケーションがお客さまにとって特別なものだったのかどうか、業態の狙いがお客様に刺さったのかどうかがストレート に分かります。そのため、レポートが届いたら、点数はほとんど見ずに全店舗のレポートのコメントをくまなく見ています。
実は一度、コメントなしでチェックのみを行なう別の調査に切り替えたことがあります。それは、元々店舗の独自性 の発揮を推奨していたこともあって、各店舗が他の店舗と同じものを提供することに抵抗を持っていたからです。結果、アイデアで溢れかえる一方、オペレー ションも業績も安定しませんでした。そこで、一度会社のスタンダードな部分を統一するために風紀委員会のようなものを立ち上げ、業態独自のシステムの説 明、挨拶やクレンリネスなどの基本を一年間徹底的にやろうと決めました。それによって利益率に関しては相当改善しましたので、満を持してまたMSRに戻し たのです。
また、以前のレポートから再来店意志に関する回答が「必ずまた来る」だった時のコメントをすべて見返し、現在の 調査票に反映させています。お客さまの「必ずまた来る」につながったスタッフの工夫や何気ない行動を洗い出し、それを業態のスタンダードにしていくことが 目的です。
今後の展望をお教えください。
毎年、就職したい職業のランキングが発表されますが、必ずと言って良いほど飲食店の店長は最下位にランキングさ れています。学業だけでなく飲食人としても優秀なアルバイトを社員に誘っても、就職活動をしますと言って辞める人がほとんどです。その理由は、飲食業はス テータスがないと思われているからでしょう。私はそれを変えていきたいと思っています。
そのためには、飲食業が稼げる業界である必要があります。アイデアや値段の奪い合いによる競争で市場を狭めてし まっては、景気が良くなっても業界は尻すぼみです。お客さまは飲食に高い付加価値を期待しなくなり、飲食代は安く抑えて他に使うようになってきています。 飲食を価値の高いものにするには、働く人が将来に希望や楽しみを抱き、たくさんの人が集まるようにしなければなりません。飲食人として一国一城の主となる 道をつくるのもひとつの手です。
飲食業をやりたいという人が増え、人が集まって市場が自然と広がっていく。大きい話になりますが、そういう流れを仕掛けていきたいと思っています。