顧客のスタイルに寄り添いながら、自社ならではの文化を発信
株式会社プラン・ドゥ・シー
『季刊MS&コンサルティング 2012年夏号』掲載
取材:西山博貢、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
オリジナルウェディングのプロデュースをはじめ、ホテルやレストランの運営、その経験で培った運営ソリューションの提供などを手がける株式会社プラン・ドゥ・シー。着実に事業規模を拡大し、業界のみならずサービス業を志す就職活動生からも注目を集めている。同社が運営するホテル「WITH THE STYLE」の名称にも表れている、『顧客の人生のスタイルに寄り添って提案していく』という姿勢の背景には、スタッフの気持ちを一つにする様々な施策があった。
時代性や市場性を踏まえて、顧客へ最善の提案を
業界全体が成熟し、顧客の要求のハードルも高くなっていることで、ますます競争が激化しているウェディング業界。そんな中、自社の有するホテルやレストランなどハード面を活かしながら、一人ひとりの顧客に寄り添う姿勢にこだわることで支持を集めているのが、プラン・ドゥ・シーの提案する結婚式だ。
同社はオリジナルウェディングの企画・運営事業を柱にレストランの運営などで業績を伸ばし、今では京都や名古屋など全国各地にホテルを有するほか、ニューヨークでも複数のレストランを運営するグローバル企業へと成長した。2004年にオープンしたホテル「WITH THE STYLE」(福岡)は、ホテルウェディングの充実した設備とレストランウェディングの料理やサービスという双方の利点を兼ね備えて業界に旋風を巻き起こし、その先駆的な姿勢は今でも変わらない。
社員数が急激に増え、さらに全国に拠点がある状況下では、いかに社員の心を一つにするかが業績にも大きく関係する。プラン・ドゥ・シーにおいて、その拠り所となっているのが、同社が“チームポリシー”として掲げる「I’m one of the customers.」との考えだ。同社 戦略企画室室長の藤原さおり氏は、「これは何も、100%お客様になり切って考えなさいという意味ではありません。私たちはその時々の時代性や市場性を踏まえて、当社が世の中にどうあるべきかを追求した上で、お客様にとって最善の策は何かを考えられるスタッフであるべきだという考えです」と説明する。
同社は創業時にオリジナルウェディングを提唱した頃から、「ウェディングはこうあるべきだ」という固定概念に捉われず、顧客の要望に柔軟に応えることを重視してきた。「ただ、近年では平均結婚年齢が上がっていることもあり、伝統や格式といった要素を求められるお客様も増えています。こうした変化を捉えながら、当社だからこそ提案できる新しい文化を発信するために、試行錯誤を続けています」。
一昔前の画一的なホテルと違い、プラン・ドゥ・シーではホテルでも窓を大きく取り季節感を重視。宿泊などホテルならではの設備が見直されている今、ハード面の利便性とレストランウェディングのようなアットホームなサービスを兼ね備えていると好評だ。
会社が大切にする概念を、自分自身に落としこむ
同社には、このチームポリシーを筆頭に、代表の野田豊加氏による50の素敵な言葉を集めた「THE PLAN DO SEE RECIPE」(プラン・ドゥ・シー社員であるための秘訣、処方箋)と、社内の代表メンバーが会社として大切にしたいことをまとめ上げた「OUR ESSENCE」という2つの言葉集がある。また、それぞれが解説文と共に冊子にまとめられ、社員1人1人が所持している。
内容は誰が読んでも理解しやすいよう、シンプルだ。例えば「OUR ESSENCE」には、「相手を信じ、愛情を注ぐ。」「感謝を忘れず、謙虚に生きる。」「気前よく、心の広い人になる。」といった人として大切にしたいことから、「心から愛せる商品をつくる。」「Plan~Do~Seeで超えていく。」のような仕事に対する姿勢までが、見開き2ページに収められている。
さらに、「OUR ESSENCE」についてはその内容を日々振り返れるよう、7つのテーマのうちいずれかに基づいたエピソードをリレー形式で各社員が綴り、全社員にメール配信するという取り組みを続けている。
「今ではスタッフが800人を越えているので、入社10年目になる私が最後に書いたのはもう3年ほど前になりますが、今でも2、3日おきに誰かからのエピソードが届いています。直接会ったことのないスタッフからメールで反響が来ることも珍しくないので、お互いのモチベーションの向上に効果がありますね」と藤原氏。役員を含む全社員が楽しみに読んでいる上、後日冊子にまとめ配布されるため、どの社員にとっても緊張は伴うが、この施策は大切なものだという意識が皆に浸透しているので、メールの送付が滞ることはないという。
同社代表の野田豊加氏が提唱する、大切にすべき概念を集約した50のワードを収めた「THE PLAN・DO・SEE RECIPE」と、企業として大切にしているテーマにひもづく社員みずからの体験談を集めた「Our Essence & BRAVO!」。 後者は毎年編纂している。
「一緒に考えてくれている」との実感が成約につながる
社員向けの施策では、社内で「まあるいカード」と呼ばれている独自の仕組みも効いている。社外の関係者も含めて、感謝の気持ちを伝えたい人へカードを贈るというもので、半期に一度、4枚と限られている。匿名も可で、「自分では思いもよらないシーンで誰かに勇気を与えることができていたんだと、驚くこともしばしばです」と藤原氏。
また、新卒者向けの会社説明会は、社員同士が価値観を共有するための場としても企画されている。遠方のスタッフも含めて全社員が1年に一度は参加することになっており、事業の意義や目指すべき方向性を確認することで、原点に立ち返る好機として機能している。これらの仕組みがあるからこそ、スタッフが増える中でも理念に基づいて力強く事業を推進できる環境が成り立っているのだ。
だが、もちろん社員の姿勢だけで現在の好業績をなし得たわけではない。特にウェディング事業で急成長を続けているこの数年は、新規顧客の獲得という数値目標にかなり集中してきた。それ自体はビジネスにおいて当然のことだが、顧客満足度の観点から考えると、時には両立が難しい側面もあるという。
「現場では新規の営業に真剣になりすぎて、お客様の視点を十分に汲み取れないこともあったと思いますし、今まさに比べられている他の会場が気になることも否めません。でも、数値だけに捉われるとやはり成約には至らないんです。お客様の年齢が上がったことで、対応するプランナーも同じくらい人生経験がある者の方が成績を上げやすいと思われがちですが、重要なのは年齢ではなく、“一緒に考えてくれている”と思われるまでお客様とじっくりと向き合い、お二人に合った提案をすることなんです」。
まだ見ぬ顧客と出会うためにMSRを活用する
その言葉の通り、今ウェディング事業で同社が力を入れているのは、現場スタッフのヒアリング能力の強化だ。顧客のイメージを把握するために取り入れているのが、「コンセプトミーティング」。初回の打ち合わせで、イメージを膨らませるためのビジュアル素材などを用意し、気に入ったものをボードに貼り合わせながらコンセプトを探っていく、同社オリジナルの進め方だ。
ウェディングでは、その顧客のイメージを把握する最初の打ち合わせがとても肝心、と藤原氏。同社が「コンセプトミーティング」と呼ぶ初回打ち合わせでは、写真のようなボードを顧客と共に作成しながら、目指すイメージを具現化していく。
加えて、スタッフが増える中でも整合性をとってサービスの質を向上させるために、レストラン事業ではすでに実施していたミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を、昨年からウェディング事業にも導入。加えて、非成約者へのアンケート調査も開始した。ここ3~4年はどちらかというと事業拡大の裏でオペレーションを回すことに注力していたが、この先はCSの追及や、新たな顧客と出会うことを目的に大きく舵を切った形だ。
「私たちの強みは提案力なのだと実感する一方で、日頃からネガティブなことをあまり口にしない社風なだけに、『薄々思ってはいたが、やっぱりここが足りなかった』と思わされる結果もありました」と藤原氏は感想を話す。「それに、裏目に出ていた部分もあって、結果を見たときは衝撃を受けましたね。お客様に合ったプランナーを選ぶ時間が『待ち時間が長い』と受け止められていたり、良かれと思って会場の雰囲気に合ったドリンクを指定して提供していたのに『種類を選べる方がいい』と言われたり。今、これらの改善を進めるほか、成績がいいのに評価が低かったスタッフのフォローも行っています」。
実は同社では数年前にも、独自に顧客アンケートを実施して欠点を改める活動をしていた。不満の度合いが高いワースト10の項目を徹底して改善し、一定の成果が上がったが、何気なく記入されたコメントでも顧客にわざわざ謝りに行くなど、スタッフの精神的な負荷も大きく一旦休止した経緯がある。だが、利益は上がっているものの、業界の価格競争も激しくなる状況の下、昨年は「調査を休止したままでいいのか」との疑問もあったという。そこで、前述のように改めて複合的な調査を開始するに至った。
MSRで知るお客様の声には嬉しい声もたくさんあるが、当然不満の指摘も少なくない。だが、「どうしたら満足度が上がるのかが分かるので、現場での手応えも十分にある」と藤原氏。MSRの結果は役員に共有すると共に、現場へはマネージャーの裁量で展開し、プランナー向けの合宿でも活用。WEBサイトやパンフレットのリニューアルにも活かす予定だ。
お客様の人生と共に、接点を持ち続ける仕組み
サービス業に関わるスタッフは、必ずしも全員が自社の社員ではない。だが、MSRの結果から、外部スタッフが多く関わるウェディング当日のサービスが重視されていることが分かり、関係先のスタッフとも気持ちを統一することを新たな課題として挙げている。
お客様の人生と共に、接点を持ち続ける仕組み
また、同じくレストラン事業で長く行っている接客コンテスト「おもてなしコンペ」を、ウェディング事業にも取り入れた。優勝者はニューヨークに研修に行けるとあって、モチベーション向上に大きな影響があった。
同社代表の野田氏の言葉の中で特に印象深かったものに「スタッフが素晴らしい、サービスが素晴らしいとソフト面で評価を得てから、そういえば施設も良かったねと言われるくらいでちょうどいい」という言葉があるという。施設も重要な要素ではあるが、それが最優先になっているようでは、今の顧客を捉えることは難しい。
ただ、変化する顧客や市場に対応するだけでは、良くて“期待通り”にしかならない。「時代の半歩先を見据えて、新しいウェディングの文化を発信していきたい」という意気込みを実現するために、例えばスタッフにはレストラン利用から芸術鑑賞まで補助を出すなど、一人ひとりのセンスを磨くことにも注力している。
「私が外部の企業と仕事をしているときも、私の期待を超えた案を出してくださると感動するものです。お客様にも誠意を持って対応すれば、ある程度の信頼関係は築けるかもしれませんが、ウェディングは一生に一度の機会ですから、やはり相手の期待を超えた感動を提供したい。それが私たちの企業文化にもつながっていくでしょうし、お客様がまた足を運んでくださる理由にもなると思っています」。
顧客にさらに寄り添うために、同社は3年前からメンバーズカードを導入している。結婚式をきっかけに、記念日や会社のパーティーなどでも同社の施設を利用するケースが多く、レストランのフェアでは来店客の6割が会員顧客だったこともあるという。顧客の人生の様々なシーンを演出したい、との同社の姿勢は、様々な方法でこれからも実現されていきそうだ。
同社が03年より運営を手がける神戸オリエンタルホテル。100年以上も続く老舗なので、祖母、母、娘と代々利用している顧客も。そうした顧客に変わらず親しんでもらうためには、期待を裏切らず、それを上回るようなサービスを提供することが求められる。