経営モデルの回帰とリーダーシップ
有限会社アイムインターナショナル
滋賀県草津市野路1-8-12 E.E.ビル2F 203号室
『季刊MS&コンサルティング 2011年冬号』掲載
取材:小林 貴志・文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
1988年にヘアサロンを立ち上げ、現在関西圏内に16店舗を展開する有限会社アイムインターナショナルでは、2009年11月からミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入し、スタッフ主体の店舗力の強化活動を推進している。店舗力強化の取り組みを開始された背景について、現在のヘアサロン市場に対する見解を踏まえ、社長の今村意仁氏にお話頂いた。
ヘアサロン二極化の時代を生き抜く店舗力
以前は、一般的なヘアサロンで多店舗展開を目指す会社は少なかったですが、15年程前から、お客様を集める販促の仕組みと、サービスを提供する人事給与システムを連動させて規模を拡大する会社が増えていきました。それまで販促活動をやってこなかった業界でしたので、目新しさもあって10年程はブームが続きました。美容師も、どこかの有名な組織に属してそこの仕組みに従えば、シーズン毎のプロモーションによって、ある程度安定的な成功を見込むことができていた訳です。
しかし、5年程前から状況は変わり、広告や販促媒体からの動員の波が急速に大きくなっていきました。多店舗展開しているブランドでも、結果が出る店と出ない店に分かれるようになってきたのです。その結果、大手チェーンでは、新店を出して販促によって認知度を一気に拡げて投資を回収し、販促の効果が出なくなったらまた新しい店舗で同じように爆発的な売上をつくり、チェーン全体としてのバランスで経営するというモデルに少しずつ変わりつつあるのではないかと思っています。つまり、これまでと同じやり方を貫くためには、リスクを吸収できるほどの企業規模が必要になってきているということです。
それでは、そうでない企業はどのように勝負するのかというと、私は店舗力の時代に突入していると考えています。美容のサービスは、大量生産して流通させることは難しい。従って、日によって品質にばらつきがないということが大きな価値を持ってきます。ヘアサロン業界の多くは中小企業ですから、今、ヘアサロン業界全体が、販促によって売上をつくるモデルではなく、リピート率を高めることによって売上をつくる元来の姿に戻りつつあるのではないかと思います。つまり、リスクを吸収できるような規模と仕組みをつくって企業化するのか、質を追い求めて店舗力を高め、固定客の多い元来のヘアサロンに回帰するのか。今後はその二極化になっていくでしょう。
店舗力を高めたい企業が何を差別化すべきなのかというと、現場のリーダーを中心とした人的な要素です。すなわち、美容師個人の持つスキルや考え方、その人の持つ雰囲気やイメージに対する評価であり、それらの比重が明らかに高まってきたと感じています。そうなってくると、人を育てるリーダーの能力が問われることになります。逆に言えば、現場のリーダーの能力が高い店舗は、間違いなく勝てるようになってきているのです。
以前と比較して、美容師個人の能力を高めることが求められるようになってきている。その能力を高めるために必要なのは、スタッフのモチベーション。そしてスタッフのモチベーションを高めるためのリーダーシップ力が重要だと考えている。
店舗力の決め手はリーダーシップ
結局、チームワークが良い時は売上も上がります。「いらっしゃいませ」と言われた感覚が大切で、それを決めるのはスタッフのモチベーション。つまり、スタッフの働く環境をつくるチームリーダーのリーダーシップ力が大切なのです。リーダーシップで最も重要なのは、言行一致による信頼関係だと考えています。口に出して言っていることと思っていることが違えば、人はそれを感じ取ります。さらに言うと、ヘアサロン業界では、言っていることの正しさの前に技術力がなければ信頼関係は得られません。
「美容師は、施術以外のことばかりに注意を向けてはいけない」と言う人がいました。掃除や挨拶には注意を向けるべきではない、と言うのです。美容師は、美容の技術を追求することに対して非常に高い関心を持っています。ですから、美容の技術が高い人に注意されれば言うことを聞くが、そうでなかったら言うことを聞きません。サービスが大事だということは尤もなことではありますが、美容師にとってそれよりも関心が強いのは美容の技術だからです。一番求めているものを与えてやらなければ、人は動かないのです。
一方で、そうなると、リーダーの技術力を尊敬していないスタッフはお客様に対してもあまり良い接客ができません。しかし、そうなれば、スタッフにとってはお客様に嫌われるような態度が普段から身に付いてしまうのですから、しあわせになれない。それならば、スタッフは自分の態度を変えていくしかありません。経営者はそのような店舗内の状況を把握し、時には外からサポートすることも必要です。
今村社長がリーダーシップ力を高める上で、重視しているのが部下を愛するということ。例えばトイレにスタッフの写真を貼って意識するなど、常にスタッフを意識することを推奨している。
MSR活用の鍵
MSRは、お客様から信頼された度合いを表す数値、そして、プラスアルファがコメントだと思っています。大事なのは、内容の受け止め方です。レポートの内容がマイナスの時は、必ず真剣に受け止めて話し合い、具体的なアクションプランを立てて改善していかなければなりませんし、プラスの時は、必ずそれを継続していかなくてはいけません。ルールを決めてそれを守り続けること。それが、スタッフにとっての自信につながります。
その時、リーダーとの信頼関係がないと、アクションプランに対する真剣味は薄くなるし、進捗管理も甘くなります。店舗力の時代では、ますますリーダーの重要性が大きくなるのです。リーダーとスタッフとの間の信頼関係がないと、厳しいことを言えません。すなわち、接客に難点があっても本当の話し合いができず、落とし込みができないのです。MSRの活用においても、リーダーシップ力を高めることが、これからの店舗力の時代では必要になってくるのです。
今村社長は今後、トータルビューティーが美容業界の流れになると考えている。お客様の美をトータルにサポートするため、スパやエステなどにも力を入れていく