堅実な経営スタイルにFCオーナーとの信頼関係で、安定経営を実現
リズム食品株式会社
『季刊MS&コンサルティング 2010年春号』掲載
取材:加地 義太郎、文:藤平 吉郎
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
不況下の企業戦略を大別すると、教育費などのコスト削減により短期的な収益改善を行う方法と、一方では長期的視点から磐石な体制を築くための改善活動や教育に力を入れる方法の2つがあり、そのバランスが一つの検討課題となる。現在全国に50店舗のFC加盟店を持つリズム食品株式会社では、バブル崩壊の頃より将来を見据えた組織基盤の確立に力を入れてきた。安定的な加盟店経営を実現させるためには、加盟店との信頼関係の構築と人財育成が最も重要であるという。それを実現するための仕組みと背景を、代表取締役社長の岡本慶大氏に伺った。
不況に動じない安定経営
同社は、福岡県北九州市を拠点に、「風風ラーメン」を中心とするラーメン店のFC本部として堅実な経営を行っている。同社がFCビジネスを始めたのは今か ら30年ほど前。居酒屋業態がヒットし加盟店は10年程で200店近くまで拡大したが、バブル崩壊を迎え、特に高級居酒屋業態が厳しい状況にさらされた。 そんな中、最も安定した業態としてラーメンに着目。1995年に開発した風風ラーメンのFC展開に活路を見出した。現在では全国約66店舗(直営:21店 舗、FC:45店舗)を展開。FC加盟店の内、60%以上が複数店舗を出店するなど、高い安定性を誇る。
代表取締役社長の岡本慶大氏
安定経営の秘訣はFCオーナーとの信頼関係
この安定成長の秘訣はどこにあるのだろうか。岡本氏は、「理念の共有と教育にある」と明言する。「儲けがこれだけあるからとか、社内に余剰の人員がいるからとか、そういう部分的なメリットのみを目指してしまうとビジネスは成功しません。信頼関係を築くことが第一です」
理念と考え方の共有に向け30年前から研修を実施
理念共有には教育機会が必要と、同社では約30年前からNHKK研修を毎月実施。Nは「ニコニコ」、Hは「ハキハキ」、Kは「キビキビ」と「気配り」。各店舗の社員は年に1回は受講することになっており、2010年4月に135回目を数えるこの研修が、理念浸透を 下支えしている。具体的な教育内容は、考え方の共有、お辞儀の練習や笑顔の練習、素読、声をいっぱいに出すための講義などだ。細かなノウハウではなく、生き方や考え方を重点的に学ぶ。
教育トレーナーを務める利嶋美保氏は、「教育がしっかりできているお店は、スタッフさんの態度や仕事に対する姿 勢が優れています。今までは私主導でやってきましたが、これからは店長や社員さんが自主的にアルバイトの教育に取り組めるようにすることも大事だと思って います」と、現場での環境作りを重要視する。
SV臨店のマンネリ化を避け、必要時のみ徹底的にサポート
オーナーは団塊の世代と団塊ジュニアの世代に分かれるが、団塊ジュニア世代のオーナーは情報に飢えていると岡本 氏は話す。様々な情報をインターネットから取ることができるが、一番大切にしないといけないのは自分の世界の生の情報だという。しかし、生の情報を手に入 れ活かすことは簡単ではない。
「熱心なオーナーは情報を取るために現場に行きます。しかし、自分がいる時には、良い情報は入っても悪い情報は 入りません。それを行うのが本部のSVの役目だったはずですが、店舗のスタッフも人間なので、SVが行くと上手くやってくれます。そのため、店の真実の姿 が見えない。その結果、SVの報告は役割を果たすために粗捜しになってしまいがちです」(岡本氏)
5年前から始めたSVの臨店も、最初は評判だったが次第にマンネリ化し、現場がSVを通じて得た本部からの情報 をなかなか活かせなくなってきた。例えば、新商品投入の情報をオーナーに伝えても、その狙いが社員、さらにアルバイトまで伝わらなくなっていた。それは教 育に関しても同様で、SVが現場で感じたことを指導しても改善につながらないケースもあった。
そこで、店舗の生の情報を得るためにミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を導入。「オーナーの方々が 今まで取れなかったところで情報を取ることによって、現状に対してどのような経営をしていけば良いかを考えてもらえるようにするために、MSRを導入しま した」と岡本氏はその理由を語る。「情報が取れた後でそれをどう活かすかは、最終的にはオーナー自身で考えてもらわなければならないと考えています」と付 け加えた。
現在、SVが毎月全店舗に臨店することはないが、その分、オーナーに悩みや相談事がある時にはすぐに駆け付けら れるような体制を採っている。オーナーが本気で悩み考えた結果に対して、徹底的にサポートするというのが同社のスタンスだ。そこから浮かび上がってくる課 題に対して一緒に考えることにより、定期的に臨店を行っていた頃以上に強固な信頼関係を築いている。
自ら気付き考え続けられる環境を目指して
MSRの調査結果を基に、各店舗でミーティングを開いている。指摘を受けた点を具体的に解決することはもちろ ん、ミーティングを開くこと自体がチーム力のアップに結びついているという。「今までは、やらなければいけないと感じていても、どこから手を付けて良いか が分かりませんでした。しかし、MSRという素材があることで、ミーティングで今月に行うことを決め、次のミーティングでその結果を報告し合うという流れ が出来てきました。ゴールを決めて進行していくことで、アルバイトリーダーさんの教育にもつながっています」と利嶋氏は言う。
岡本氏は、「お店のメンバーが自分たちで常に考え続けていくことが何より大事です。細かなことから気付きを得 て、一つひとつ解決していく。これを繰り返し行うことで、きちんとした仕事ができるようになる。つまり、常に考える状況を作り、スタッフ自身の力を上げて いくこと、これが店の武器になってくると思います」と強調する。
ブームに乗らず理念に基づき着実な経営を
今後の展開について、岡本氏はこう話す。「変化の激しい世の中にあって、経営の軸は理念の実現しかありません。 緊張感の中でお客様の喜びを実感できること、これが仕事の楽しみです。ですから、お客様に喜んでもらうために、こうしたらいいのではないかと先走っても構 わない。それが結局失敗しても、その積み重ねでしか成長しません。そういうことをどんどん実行して、加盟店に喜んでもらえるチェーン本部にしたい。そし て、最終的には、お店に対するお客様のロイヤリティが生まれることが目標で、それを達成させるのが私の役割です」
「ブームには絶対に乗らない。確実に、確実に経営し、ファンに愛される店をつくりたい」と語る岡本氏。将来を見据えた堅実な取り組みが、今後の安定成長を支える。
記事のPDFをダウンロード